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ウクライナ・ロシア紛争で衛星産業はどのような役割を担っているのか?

image by HawkEye 360

今回は Payload Space でお馴染みの @Ari Lewis さんの問い掛けツイート、「ウクライナ・ロシア紛争で衛星産業はどのような役割を担っているのか?」について、詳しく衛星産業を見てみましょう。

Ari Lewis さんは上記のツイートで、ウクライナ・ロシア紛争で活躍している Starlink (スターリンク : SpaceX)、HawkEye 360 (ホークアイ360)、Maxar Technologies の3社を例に、ロシアのウクライナ侵略で活躍する衛星企業を取り上げています。

・Starlink – 人々のつながりをサポートする

・HawkEye 360 – ロシアのGPS (全地球測位システム) 干渉を検知する

・Maxar – ロシア軍を監視する

・BlackSky – 紛争に対応するため、短期間に軌道を変更し2機の新しい衛星を打ち上げ

・Satellogic – HFXと協力し、ウクライナに衛星タスク処理機能を提供

それぞれの企業には、上記のような今回の紛争で無くてはならない能力を発揮し、世界中にこの紛争の真実を伝えています。また、Ari Lewis さん は、「宇宙は最初の防衛線になりつつある」ことを示唆しています。

Starlink (スターリンク)

Starlink

Starlink (スターリンク) についてはSNSやニュース番組などで大きなニュースとなりました。ことの発端は、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、2022年2月26日、ウクライナの副首相兼ウクライナのデジタル変革担当大臣 Mykhailo Fedorov (ミハイロ・フェドロフ) 氏が、イーロンマスクに Twitter で助けを呼びかけ、イーロン・マスクが SpaceX の Starlink (スターリンク) をウクライナで開放することになりました。

ウクライナではロシアの侵略後に、多くのインフラや施設がミサイルなどで破壊されたことによりネット環境がシャットダウンしていました。そこでイーロン・マスクの会社 SpaceX が手がける衛星インターネットサービス、Starlink を利用することで、ウクライナの人々に通信インフラを復活させるという大儀を成し遂げたのです。

SpaceX の衛星インターネットネットワーク Starlink は、2022年5月現在ウクライナのデジタル大臣 Mykhailo Fedorov によると、ウクライナでは1日あたり約15万人のアクティブユーザーがいます。

Maxar Technologies (マクサー・テクノロジーズ)

Maxar Technologies

今回のロシアによるウクライナ侵攻で、Maxar の衛星写真が最もニュースやSNSなどのメディアで取り上げられました。みなさんもTVのニュースやネットニュースなどで必ず数回は Maxar の衛星が撮影した画像を見ているはずです。例えば開戦当初、ロシア軍の車列が何百メートルも連なりキーウに向けて走行している衛星写真が話題になりました。またキーウ近郊の町、ブチャでの惨事では、ロシア占領中から住民の遺体が確認できると衛星写真で指摘し、世界に真実を伝えています。

ウクライナのブチャで撮影された高解像度の Maxar 衛星画像は、最近ソーシャルメディアに投稿された動画や写真から、何週間も路上に横たわる遺体や放置された遺体を検証、裏付けするものである。

更に Maxar は、ロシアのウクライナ侵略後に、最も Google で検索された衛星会社です。人々がニュースやSNSで Maxar の衛星画像を目にしたことで、この「Maxar」って何だろう?と検索されたのではないでしょうか。Google トレンドでは、他の衛星会社に大差をつけて検索数が一時爆発的に上昇しています。

HawkEye 360 (ホークアイ360)

HawkEye 360 (ホークアイ360)

HawkEye 360 は、米国の地理空間分析会社で、衛星コンステレーションによって収集された無線周波数(RF)信号の位置データを商業的に販売した最初の企業として知られています。HawkEye 360 は、スペースベースのGPS干渉検出を使ってウクライナを支援しています。

このタイムラプスは、ウクライナ上空の1ヶ月以上のGPS干渉検出データとオープンソースデータの相関を示したものです。ロシアの作戦行動に対する信頼性の高いプロキシとして機能します。

更に、同社を含む宇宙コミュニティのリーダーたち (National Security Space Association (NSSA)、ABL Space Systems、ARKA、BlackSky、Capella Space、ICEYE、Insight Partners、Leidos、LeoLabs、Maxar、Raytheon Intelligence & Space、Rebellion Defense、Relativity Space、Riverside Research、Rocket Lab、Velos、Viasat が参加) は、ウクライナの人々に緊急の人道支援を提供する取り組みに資金を提供し、実行することを目的としたイニシアチブ「Space Industry for Ukraine (SIFU)」を立ち上げて支援へと動いています。

ちなみに HawkEye 360 は、先日 Rocket Lab (ロケットラボ) とマルチロンチ契約を締結し、HawkEye 360 の高周波地理空間分析プロバイダーの Electron ミッション3基の打ち上げが決定しています。

Rocket Lab が HawkEye 360 とマルチロンチ契約を締結

BlackSky (ブラックスカイ)

BlackSky は、ウクライナ危機の際、迅速な衛星運用の新基準を確立し、お客様をサポートします。紛争に対応するため、45日間という短期間に軌道を変更し、2機の新しい衛星を打ち上げ、ウクライナ上空の画像を収集できる能力を実証しました。戦略的な衛星容量の増加に加え、4月2日の打ち上げから24時間以内にウクライナの夜明けから夕暮れまでの解析と画像プロダクトを顧客に提供しました。

image by BlackSky

BlackSky のCEOである Brian E. O’Toole は、

我々は、スピード、回復力、敏捷性において、新しい宇宙産業における新しい基準を打ち立てている」と述べています。”我々の最新の2つの衛星は、打ち上げから初日でウクライナの画像を顧客に届けることができました。軌道の変更は、従来は数ヶ月から数年かかることがありました。2月にロシアがウクライナに侵攻した直後、私たちは最新の2機の衛星の軌道計画を変更し、天候の関係で撮影が難しいことで知られるウクライナとその周辺地域の画像と分析を編集するための日中の再訪問頻度を向上させました。

と述べています。BlackSky のコンステレーションは、世界で最も重要な場所や経済資産を夜明けから夕暮れまでカバーします。BlackSky のAIタスク処理および分析プラットフォーム Spectra (スペクトル) と組み合わせることで、お客様はブラウザからログインして衛星にタスクを実行し、90分以内に画像と分析を受け取ることができます。

私たちは、ウクライナの勇気ある人々とともに立ち、支援を続けています。現地で起きていることを明確に把握することで、非営利団体、政府、企業は、経済的・人道的な影響が続く危機への対応に役立っています。

Satellogic (サテロジック)

Satellogic

Satellogic は2022年3月21日、民主主義国家間の戦略的協力関係の強化に取り組む独立非営利超党派組織、ワシントンDCを拠点とするハリファックス国際安全保障フォーラム(HFX)と協力し、ウクライナ政府に専用衛星群(DSC)を提供することを発表しました。

この取り組みは、ウクライナ国防省が Satellogic のDSCサービスの資金調達に協力するよう呼びかけたことに応えたものです。Satellogic は、そのDSCサービスを大幅に値下げし、起動までのスケジュールを早めた契約を用意しました。HFXは、ウクライナを代表して、このサービスの資金調達にボランティアで参加しました。

現在、ウクライナは友好国政府や民間企業から衛星画像を受け取っているが、自国のニーズに合わせて衛星を活用することができない。DSCはウクライナ政府が直接管理し、ウクライナの領土内で衛星を管理し、暗号化されたタスクと衛星画像へのアクセスを可能にする。DSCは、地球低軌道からの高解像度画像やビデオ情報へのアクセスを飛躍的に向上させることができます。

高解像度の衛星画像をタイムリーに入手することで、ウクライナ政府がリソースを動員し、市民を避難させるための実用的な情報を提供することができます。DSCは、ウクライナの領土と国境を越えて変化する地上の状況を監視し、対処するために、毎日最大8つの関心領域を選択的に撮影することを可能にします。

DSCは、宇宙へのアクセスを民主化し、先進的な国家安全保障のための地理空間情報 (Geospatial Intelligence) の自律性を実現するために設計されたサービスです。Satellogic のCEO兼共同設立者である Emiliano Kargieman は、次のように述べています。

これは、インフラ、打上げ、運用に高額な投資をすることなく最新の機能を提供する、柔軟で安価な衛星アズ・ア・サービス (SaaS:Satellite as a Service) モデルです。DSCは、ウクライナ政府に、詳細かつタイムリーで拡張性のある国土の状況や地盤の変化を提供し、現在は国民の保護に、その後は復興と復旧に活用できるようになるでしょう。

HFX は、ウクライナのためのDSCのために、ウクライナ・ビクトリー基金を通じて、1,000万ドルの支援を開始しました。HFX の社長である Peter Van Praagh は、

私たちは、よりタイムリーで情報に基づいた戦略的決定を可能にする重要な情報のための高度な機能を提供することで、できる限りの方法でウクライナを支援することを選択しました。

と述べています。