Zoomy

有力紙の膨張された宇宙銘柄推しの危険性

有力紙の膨張された宇宙銘柄推しの危険性

バロンズで公開された「宇宙は1兆ドル規模のビジネスになりうる。そのための銘柄がここにある」という記事では、Rocket Lab (ロケットラボ)、Planet (プラネット)、その他の企業は、最後のフロンティアでビジネスを展開するためのハイリスクな賭けである … という内容のものである。

筆者はバロンズを購買していないため、記事を最後まで読むことができないのだが、またしても冷静な目をもつ数少ない宇宙経済学者で、ユーロスペース社リサーチ&マネージングディレクターを務めるピエール・リオネ氏が苦言を呈している。

私もこれらの銘柄に投資しており、宇宙ビジネスと聞くと誰しもが未来に期待してしまう節があるが、ピエール・リオネ氏はいつもその優れた知識と観察で現実に引き戻してくれる稀な存在です。以下では、このバロンズの記事をピエール・リオネ氏が丁寧に解説してくれていますのでご紹介します。

友人からこの「記事 : Space Could Be a $1 Trillion-Dollar Business. Here Are the Stocks to Play It.」を案内され、私の意見を求められました。宇宙は投資家にとって素晴らしい機会であるという考えを主張する、悪いデータが混じったいつものデタラメ記事。(ネタバレ注意:おそらくそうではない。)

この論文は、宇宙関連株が不調であること、宇宙関連SPACがグループとして非常にひどいパフォーマンスであることを指摘し、うまく始まった。しかしその後、”patatras!” (フランスではこう言う)、この論文は、まだ大きな可能性があるとの「専門家」の意見を集めている。

推定に基づいた怪しい数字 …

まずはアンドリュー・チャニンの意見である。彼は宇宙での経験が文字通り皆無であり、「推定」に基づいて、2050年までに宇宙経済が10兆ドルの価値を持つかもしれないという概念を提唱している。

この数字がいかに滑稽に見えるかを示唆することなく、さらに出典や補足的な解説を求めずに提示されていることは、大きな赤信号である。私はすでに、宇宙経済の2040年1兆ドルという試算に疑念を表明しているのだが…。

しかし、10兆ドルというのは、ルナビジネスのためだけなのか、2050年までなのか。比較のため、2022年のアメリカのGDPは約24兆ドルです。10兆ドルの価値がある “cislunar economy” が何を意味するのか、考えてみてください。(ナンセンス)
リンク : ナショナルデータ国民所得・国民生産計算

デタラメな数字

さらに、この論文では、現在、衛星はより多くの数で打ち上げられ(事実)、「これらの艦隊のほとんどは、それぞれ10万ドルもする小型の商業衛星で構成されている」と指摘しています。(痛っ!)

商業衛星にかかる費用

これは絶対に事実ではありません。Planet (プラネット) や Spire Global (スパイアグローバル) が展開するキューブサットフリートは、通常、衛星1基あたり2~30万円(+打ち上げ費用)です。Starlink (スターリンク) 衛星の最も安い見積もりは、1機あたり約250~30万ドルです (Elon Musk の発言を額面通りに受け取ると)。

次に、次世代コンステレーションを構築するための価格が「何倍にも」下がったという、‎Globalstar (グローバルスター) のエグゼクティブチェアの言葉があります。この発言の精度の高さに敬意を表し、2001年のグローバルスターシステムの簿価は$3,170Bであったことを思い起こさせてください。

この$3,17Bはゲートウェイなどの施設も含めた全資産 (全体の25%くらい?) を含んでいるので、記事にある500/17=29M$と比較すると、各 Gen1 衛星は約49M$と推測されるのですが。もし正しいのであれば、この倍率はあまり大きなものだとは言えませんね。特に、Globalstar のARPUは時間が経っても改善されず、全く逆で、ARPUの高いユーザーも高騰していないのですから。

そして、Seraphim Space が引用した Morgan Stanley による2040兆円の宇宙経済評価も戻ってきた。その予測の価値のほとんどは宇宙インフラからではなく、「2次的な影響」で構成されているという事実を無視したものです。

さらにその下には、宇宙関連株や企業の業績がいかに悪かったかを思い起こさせた後、「公開市場の監視がなければもっとうまくいったかもしれない」という奇妙なコメントがある-まるで経済業績が財務の透明性によって損なわれているかのように。

私の理解では、この発言は、公開された財務諸表がなければ、企業は経済的展望をよりよく捏造することができ、例えば SpaceX のように、脆弱な経済モデルを補うための資金調達が容易になる、というものであった。

Rocket Lab と Planet の売込み

その後、この論文は2つの銘柄、すなわち Rocket Lab (ロケットラボ) と Planet (プラネット) の売り込みに変わっていく。しかし、彼らが言わないのは、Planet は狂ったように現金を流出していて、ある未知の理由のために、売上高1ドルにつき研究開発に1ドル、販売管理費に1ドルを費やしていることだ。

↑ Planet のこの部分が理解できなかったのだが、過去に Space Case 氏が触れていたことだろうか?

Rocket Lab の痛いところを突かれる …

Rocket Lab (ロケットラボ) は非常に厳しいビジネスケースを持っており、新しい市場 (衛星プラットフォームや機器) に軸足を移しているにもかかわらず、毎年損失を積み重ねている。宇宙船が打ち上げよりも利益を生むというテーゼは、まだ実証されていない。

宇宙ビジネスの現実

これは非常に痛いところを突いてきたという感じで、ぐうの音も出ないのだが、ロケット打上げでは SpaceX の後をつけているものの、その差は歴然としてしまっている。確かに売上げの面では、宇宙ソリューションが成長しているが、Rocket Lab は中型液体燃料ロケットのニュートロン、フォトン宇宙船の開発を続けており、まだまだお金がかかりそうだ …

筆者も Planet と Rocket Lab などをロングしており、バロンズの記事はこの2社を売り込むような内容になっている訳ですが、例えば Planet は2025年までの黒字化への道筋を示しています。

Planet の最高財務責任者であるアシュリー・ジョンソン氏は今年1月のWSJの記事「Planet Labs の財務責任者、SPAC IPOが最近の成長の鍵であったと語る」で、同社が進める3つの投資分野について言及しています。

1つは、営業組織への投資です。より多くの人に足を運んでもらうことで、より多くのビジネスをもたらすことができると考えています。ステップ2は、グローバルなカスタマーサクセス組織です。3つ目はソフトウェアです。なぜなら、お客様の手に渡るツールが増えれば増えるほど、お客様を成功に導くためのカスタマーサクセス担当者は必要なくなるからです。

このように、宇宙ビジネスは開発コスト、収益化への時間 (NewSpace の多くの企業が長期的なビジョンを追求している)、市場の未確定性などにより、短期的な利益を上げることは難しく、どうしても長期的な視点が必要になりそこに期待してしまうんだと思います。

この作品の面白さは、過去の宇宙投資がいかにダメだったかを確認する文言はすべて実際に事実であり、それ以外の未来にバラ色の絵を描こうとする文言は、目や脳が痛くなるくらいフェイクだということです。

まとめると、この Barrons オンラインの記事は、無知な人の例だと思う。この記事は、無知なジャーナリズム (それがジャーナリズムであるとすれば) の一例に過ぎない。私は、このメディアを有料購読として提供することにかなり驚いています。なぜこれにお金を払うのでしょうか?

以上がピエール・リオネ氏の苦言なのだが、完膚無きまでの見事なものである。現実に目を向けると、宇宙SPAC銘柄が奮わないのは、まともな決算が出せないからであり、現に Astra、AST SpaceMobile の第一四半期の売上げは0円、Astra は上場廃止となるリスクが今年11月に迫っており、AST SpaceMobile も今のところモメンタム一発の銘柄かもしれない。

私は個別株投資を始めたタイミングが2020年であり、この年以降に始まった宇宙SPACの勃興期に宇宙ビジネスに魅せられてしまったため、どうも宇宙ビジネスに夢を描きがちである。Twitter などを見ていると、自分がロングしている銘柄の良いニュースだけ (たまに悪いニュースも) を紹介し、自分に暗示をかけるような投資家が散見されますが、自分はそうはなりたくないと思うのでした。ですので、ピエール・リオネ氏の一連のツイートは非常に有効であり、夢見がちな投資家には良い起爆剤だと思います。

別で詳しい記事を書きたいと思っていますが、『When the Heavens Went on Sale』のアシュリーバンス氏がワシントンポストのインタビューで非常に面白いことを語っています。宇宙ビジネス産業というのは非常にエキサイティングであり、世界を大きく変えるものであるということを話していますが、それは人間が抱える宇宙に対するロマンであり、スペクタクル、これがイコールで株価に結び付くのか?はちょっと分からないという気もしています。

100バガー株についての知見が得られる著書『100 Baggers』

しかし、最近ふと思うのは、株価が100倍とかに成長する銘柄というのは、もっと短にあるような企業なのかもしれないと、クリス・メイヤー氏の著書『100 Baggers: Stocks That Return 100-to-1 and How To Find Them』など、実際に100倍となった企業を見て思うのでした。。。