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企業が続々とビットコイン・トレジャリー戦略を採用するブームの背景とは?

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企業が続々とビットコイン・トレジャリー戦略を採用するブームの背景とは?

ここ最近、欧米や日本の上場企業、特に中小規模の企業の中で、株価を上げるためにビットコインを蓄積し始める動きが見られます。その背景や、なぜこのような動きが起きているのか、投資家にとってどんな懸念があるのかご紹介します。

まずは昨今話題になっている、Bitcoin Treasury (ビットコイントレジャリー) についてです。

Bitcoin Treasury (ビットコイントレジャリー) とは?

Bitcoin Treasury (ビットコイントレジャリー) とは、企業が自社の資産の一部または全部をビットコイン(BTC)として保有する戦略や行動を指します。具体的には、企業が現金や他の資産の代わりにビットコインをバランスシートに載せることを意味します。

ビットコイントレジャリー戦略は、2020年ごろから注目されはじめました。特に、米企業 MicroStrategy(マイクロストラテジー) のCEO、マイケル・セイラーが有名です。彼は自社の資産をインフレから守るため、積極的にビットコインを購入し始めました。

彼は「米ドルで資金を保有していても、毎年10〜15%は価値が下がる」と述べており、非常に熱心なビットコイン支持者で、現在では最も雄弁なビットコインの擁護者の1人と見なされています。

企業がビットコインを保有する主な理由

・インフレヘッジ
→ 通貨の価値が下がってもビットコインなら保全できると考える

・資産の価値保存(ストア・オブ・バリュー)
→ 金のようなデジタル資産としてビットコインを活用

・株主価値の向上
→ ビットコイン高騰により株価が上昇しやすくなる

・話題性とPR効果
→ ビットコインを保有していること自体がニュースになる

一部の小型上場企業では、ビットコイン保有を発表しただけで株価が数倍に跳ね上がる現象も起きています。暗号資産に直接投資できない投資家が、代替的にこうした企業の株を買うケースが増えています。

実際のビットコイン保有量と企業の時価総額が乖離しているケースも多く、「割高」との指摘もあるので注意が必要です。

マイクロストラテジーを通じて間接的にビットコインに投資

当時のイギリスでは、金融監督機関(FCA)の規制により、個人がビットコインに直接投資するのが難しい状況にありました。

暗号資産取引所「Coinbase」への入金が銀行によってブロックされたり、ISA(個人貯蓄口座)やSIP(年金口座)では暗号資産を保有できないなど、多くの制約が存在していたのです。

そのような環境下で注目されたのが、米国企業 MicroStrategy(マイクロストラテジー)でした。同社は企業資産をビットコインで保有する戦略を取り、事実上「ビットコインに連動する上場株式」として機能していたのです。

これにより、多くのイギリス人投資家が MicroStrategy の株式を購入し、間接的にビットコインへ投資する手段として活用しました。

MicroStrategy の株価は、ビットコイン価格の上昇とともに急騰。一部の投資家は、数倍のリターンを手にすることに成功しました。当時は「イギリスでビットコインに投資したいなら、MicroStrategy を買え」と言われるほどの熱狂が起きていました。

Smarter Web、ビットコイントレジャリー戦略で株価が異常高騰

イギリスのWEB制作会社 Smarter Web は、2024年4月末に「ビットコイントレジャリー戦略」を採用すると発表しました。これは、企業の資産の一部をビットコインで保有するという方針で、市場では即座に反応が現れました。

その結果、株価は発表日からピーク時には6,000%以上(60倍超)も上昇。わずか数週間で異常な値動きを見せ、市場の注目を一気に集めました。その後、過熱感からやや値を下げたものの、現在でも発表時点と比べて約4,000%(40倍)高という水準を維持しています。

ビットコインの保有量に対して企業価値が極端に膨らんでいることから、「MNAV(Market cap to Net Asset Value)」が乖離している代表的な例としても語られています。

無名企業も続々とビットコイントレジャリー戦略に参入

Smarter Web に続き、Bluebird、Mining Ventures、Vault Ventures、Truth Buying Technologies、Panther Metals など、これまであまり知られていなかった中小企業も次々とビットコイントレジャリー戦略を発表しています。

これらの企業は本来、資源探査やテック系など異なる分野の事業を展開していた企業であり、急な方向転換には驚きの声も上がっています。中には、ヘリウム探査を行っていた企業までがビットコイントレジャリーに参入しており、その業種転換ぶりは極端な例とも言えます。

こうした動きに対して、番組中では「ある意味 “ホットエア”──中身のないもの」と揶揄するコメントもあり、一部の企業は単なる便乗に過ぎないのではないかという疑念も浮上しています。

ビットコインの価値を反映しているのか?

これらの現象は、その株価上昇は必ずしも保有するビットコインの価値を反映しているとは言えません。保有資産の実態以上に市場が期待を先行させた結果、時価総額と純資産価値(NAV)の間に大きな乖離が生まれています。

これは現在、ビットコイントレジャリー企業全体に共通する最も重要な論点のひとつとなっており、実体のないバリュエーションの正当性が市場関係者の間で激しく議論されています。

「Amazing AI」社、戦略発表も株価は下落

たとえば「Amazing AI」という企業は、2024年6月24日にビットコイントレジャリー戦略への参入を発表しました。しかし、他社のような爆発的な株価上昇は起こらず、むしろ株価は12%下落するという結果に。

わずか12万ポンドを調達した同社は、株価4ペンスで新株を発行していましたが、役員たちはその半額で株を取得していたとされ、不透明な資金調達への疑問も浮上しています。

このように、現在の “ビットコイントレジャリー企業” は、もはや本来の事業内容ではなく、「ビットコインを保有するかどうか」で注目される状況となっています。

裏を返せば、企業価値や将来性よりも、暗号資産への投機的な期待が株価を動かしているという、極めて特異な市場構造が生まれているとも言えるでしょう。

日本で話題の MetaPlanet(メタプラネット)も参入

もともとはホテル開発などを行う企業だった MetaPlanet(東京証券取引所 3350)は同じような波に乗り株価は450%以上急騰、「日本版マイクロストラテジー」として急浮上しました。

メタプラネットは現在、13,350 BTC を保有し、現在の市場価格では約 14.5億ドル相当です。2025年には、5億5500万ドル規模の「555 Million Plan」を掲げ、2027年までに210,000 BTC(※ビットコイン総供給量の約1%)保有を目指しています。

ビットコイントレジャリー企業の本質とは?

ビットコイントレジャリー企業と呼ばれる多くの企業は、実際にはビットコインを買って保有しているだけです。

自らマイニングを行ったり、ブロックチェーン技術を活用したサービスを提供したりするわけではなく、“現金の代わりにビットコインを持っている企業” に過ぎません。

たとえば、金に連動するETFや金鉱株の場合、企業は実際に金を採掘し、それを販売するというビジネスを通じて利益を生み出します。

しかしビットコイントレジャリー企業の場合、ただビットコインを市場で購入し、バランスシートに載せるだけ。つまり、事業活動の実体が薄く、価格変動への投機的な期待が先行しやすいのが特徴です。

その結果、多くの企業で「実際に保有しているビットコインの価値」と「株式の時価総額」との間に大きな乖離が生まれています。

市場では、このような企業に対して「一種のレバレッジ付きビットコインETF」としての投資対象として見る向きがある一方、過熱相場による過大評価を懸念する声も少なくありません。

ビットコインは一概にバブルとは言えない

ビットコインは登場からすでに15年以上が経過しており、もはや一時的なブームや投機対象としての “バブル” という単語だけでは片づけられない存在になっています。

価格変動が大きいことからしばしば「バブルだ」と言われますが、過去に何度も暴落から回復し、長期的には成長を続けてきた点に注目すべきです。

実際、多くの人が「バブルだ」と言っている間にもビットコインは何倍にも成長し、後から振り返ると “バブル” と言っていた人こそ大きな利益を逃していたという事例が多数あります。

歴史上のバブルとしてよく比較される「チューリップバブル」や「ドットコムバブル」も、当時は過剰な投資が集中しましたが、その後には確固たる産業が残りました。

ビットコインについても同様に、一時的な価格の高騰とともに、新しい金融インフラや資産保全の概念を生み出しているという点で、単なる投機とは言えない側面があります。

投資尺度より「ハイプ・サイクル」で捉えるべき局面

ガートナー・ハイプ・サイクルとは?

ビットコイントレジャリー企業の盛り上がりを考えるとき、単なるバリュエーションや財務指標では説明できない動きが多く見られます。このような状況では、「今このバブルのどの段階にいるのか?」という心理的視点が重要になります。

PER(株価収益率)や NAV(純資産価値)といった伝統的な投資評価指標では測りきれない熱狂が、今の市場には存在します。

それよりも、「黎明期 → 期待のピーク → 幻滅期 → 回復期」といった、ガートナーの “ハイプ・サイクル” のような感情の曲線で捉えるほうがしっくりくるかもしれません。

過熱感は確かにありますが、それが一時的な投機ブームに終わるのか、産業の変化につながる本物の転換点なのか。その見極めには、「数字」よりも「熱量」や「市場心理」の把握が求められています。