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低金利から高金利の時代へ、株式市場はどうなるのか?

2022年以降、過去40年間にわたり、米国株式市場を押し上げてきた「低金利」の時代が終わり「高金利」の時代に向かう、というような論調の記事が増えてきました。もしこのようなトレンドが本当であるとすると、高金利環境下で、金融・株式市場にどのような変化をもたらすのでしょうか?

金利が上昇すると株式市場はどうなる?

基本的に、金利が上昇すると、将来の収益が低下するため、株式は値下がりする傾向にある。インフレ率の上昇は金利の上昇につながり、株式市場に影響を与えます。一方、金利が上がれば景気は後退し、株価は暴落すると懸念する投資家もいます。実際に2022年の大きなベア相場は、それを物語っていたことを示唆しています。ここでは、金利上昇が株式市場に与える影響について考えてみたいと思います。

長らく私たちは、高い資産評価や長い景気拡大など、低くて安定した長期金利のメリットに慣れきってしまっています。これまで低金利が当たり前のような世界を受諾してきましたが、長らく景気や株式を支えてきた、このバランスが根本的に崩れてしまうのであれば、変化を余儀なくされます。

ここで描く2つのシナリオは、今後数年間は、過去に比べると金利が高い健全な状態が続くかもしれませんが、長期的には低金利環境が再び優勢になるかもしれません。何事も決めつけるのではなく、柔軟にその時々の状況に合わせて投資戦略を練っていく必要があります。

インフレの再来、高金利時代へ

日本も遂にインフレの再来、今こそ堅実な資産運用を身に付けよう

コロナ以降のマクロ環境を捉える重要な書物として、チャールズ・グッドハート著『人口大逆転 高齢化、インフレの再来、不平等の縮小』、ダニー・ドーリング著『Slowdown 減速する素晴らしき世界』がおすすめです。

この2つの本では、今後世界は人口、経済、技術は加速するのではなく、既に減速を始めていることを示唆しています。チャールズ・グッドハート著書『人口大逆転 高齢化、インフレの再来、不平等の縮小』の紹介文をそのまま紹介しますと、これから30年、人口の高齢化、労働人口の減少という世界的な人口構成の変化により、経済構造がこれまでの30年とは逆の方向に進む、インフレが到来、金利は上昇し、グローバル化のスピードは遅くなる … この筋書きが今後30年ほどの間に展開されることを指摘している。

このトレンドを把握しているといないでは、今後の情報の読み方捉え方が大分変わってくるのではないか?と思います。

今日のインフレの原因を知る

ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校経済学教授のジェファーソン・フランク氏は、記事「インフレを殺すために金利を高くしたら、結果はどの程度になるのか?」で以下のように指摘している。

ほとんどの経済学者や中央銀行は、今日の2桁のインフレをパンデミックやロシアのウクライナ侵攻という「ショック」のせいにしている。しかし、それは、田舎道で時速120キロで走っていたドライバーが岩にぶつかったとき、その岩が事故の原因だと言っているようなものだ。

ゼロ金利と量的緩和(QE)による資金創出のおかげで、マネーサプライは爆発的に増加した。

… これはどう考えても憂慮すべき事態であり、私の近刊では、なぜこのような事態がこれほど長く続いたのかについて考察する。ミルトン・フリードマンやアンナ・シュワルツが広めた貨幣数量説によれば、このような拡大は実際の経済における物価を10倍程度に上昇させるはずである。

ロシアによるウクライナ侵攻がインフレをもたらしたトリガーとなったが、それが原因ではなく要因に過ぎないと指摘する。ジェファーソン・フランク氏は、誰しもが40年以上にわたり低金利に慣れてしまっていることにも言及している。

40年以上にわたって歴史的に異常な低金利と下落に誰もが慣れてしまっているのだから。

一つ確実な事としては、金融緩和が強力なほど、そして長期にわたるほど、そこから円滑に「正常化」していくのは難しくなります。

低金利時代は終わるのか?

Research Affiliates のCIO兼CEO、クリス・ブライトマン氏も、インベストメント・ウィーク誌に以下のように語っている。

インフレ問題が解決すれば、金利は以前の水準に戻ると思うかもしれない。私はそうではないと思う。2008年の世界金融危機の頃から今年まで、先進国のほとんどで実質金利はゼロかマイナスであり、人々はそれに慣れてしまっている。

それは正常ではないが、あまりにも長い間続いてきたため、人々は正常であると合理的に考えるようになった。

金利の上昇は経済や市場に何をもたらすのか?

パウエル議長は、FRBが毎年8月下旬に開催しているジャクソンホール経済シンポジウムの基調講演で、「需要と供給のバランスをより良くするために、政策手段を力強く用いるつもりだ」と述べた。これは「景気を犠牲にしても物価高を定着させない」という強い意志だと受け取れる。インフレファイターのボルカー元議長と自身を重ね、景気を殺してでも、何が何でもインフレ潰しにかかるという強いメッセージを示している。

パウエル議長は、年末まで利上げを繰り返し、その後政策金利を水平飛行に入ってずっと横這いになることをコミュニケートしており、つまりそれは、経済のソフトランディングを諦めたのと同然のことを助長している。(FRB が過去50年間に成功されたソフトランディングは1回のみである)

金利が急激に上昇すると、経済の成長が急激に鈍化したり、不況 (リセッション) に陥る可能性がある。1929年の大恐慌以降、アメリカの景気後退のほとんどは、連邦準備制度理事会 (FRB) による利上げの後に起きている。その後の景気後退によって FRB は量的引き締めの方針を転換し、フェデラルファンドレートの引き下げを開始せざるを得なくなっている。

金利の上昇が経済に反映されるまで1年のタイムラグがある

つまり今後は低金利からの高金利の環境が予想される。利上げは経済の減速や景気後退リスクを招き、金利の上昇は収益や株価にマイナスの影響を与える。金利の変化による株式市場への影響はかなり即座に反映されるが、その一方、その他の経済分野では、広範な影響を見るまでに約1年かかることもあるという。

金利はマクロ経済の大局に影響を与えるが、学生ローン、自動車ローン、住宅ローン、預貯金など、個人の家計にも影響を与える。

連邦準備制度理事会 (FRS) は、インフレをコントロールするために、フェデラルファンドレート (銀行がお互いにお金を貸し借りするときに使う金利) に影響を与える。フェデラルファンドレートを上げることで、FRS は事実上、購買に利用できるお金の供給を縮小させようとしている。これにより、貨幣の入手がより高価になる。

消費の悪化、雇用の悪化を招き経済は低迷する

金利が高くなると、消費者の可処分所得が少なくなり、支出を抑えなければならなくなる。金利の上昇と融資基準の引き上げが重なると、銀行の融資は減少する。

これは消費者だけでなく、企業や農家にも影響し、新しい設備への支出を控えるため、生産性の低下や従業員数の減少を招く。また、貸出基準の厳格化は、消費者が支出を控えることを意味し、多くの企業の収益に影響を与えることになる。

金利が上昇すると、企業にとって資金調達のコストが高くなる。これにより、企業が発行する債券の金利も高くなる。資金調達のコストが高くなれば、目先の収益だけでなく、将来の成長にも水を差すことになりかねないのである。

その結果、金利の上昇に伴い、今後の利益予想が下方修正される可能性もある。現に2022年の第3四半期のアナリスト予想は著しく引き下げられた。

アナリストは、S&P500企業の第3四半期の業績予想を、最初の2ヶ月間を通して、過去2年以上で最大の引き下げを行った。

金利の上昇は株式にとってもマイナス

よって金利の上昇は株式のパフォーマンスを低下させる。金利が上がれば、個人の貯蓄に対するリターンが高くなるため、個人がリスクを取って株式に投資する必要性がなくなる。結果として株式の需要が減少する。

超低金利環境では、人々は収益機会を求めて様々な資産に投資しています。典型的には株式市場で、コロナのパンデミックが引き起こした金融相場では、富裕層だけではなく、一般大衆が株式投資に流れ込みました。

2020年の金融緩和から、相場のサイクルは2022年の金融引締め、金利の引き上げ、インフレ退治のために更なる金利の引き上げによって、大きな揺り戻しが起きている。

金利上昇の恩恵を受けるセクター

金利の上昇はネガティブな要素の方が多いが、セクターによっては恩恵を受けるセクターもある。

  • ・銀行
  • ・証券会社
  • ・住宅ローン会社
  • ・保険会社

金利上昇の恩恵を受けるセクターとして、最も恩恵を受ける傾向にあるのは、金融業界だという。銀行、証券会社、住宅ローン会社、保険会社などは、金利が上がると貸出金利が上がるため、収益が上がることが多いとされる。

高金利、金融緩和が望めないと株式市場は上昇しないのか?

1980年に始まった40年来の低金利環境は米国株の長期上昇相場を支えてきました。しかし幾度とな繰り返された金融緩和によって訪れたインフレによって「低金利時代」は終わりを告げ、これからは金融緩和が望めない「高金利の時代」を迎えるのでしょうか?

これまでのように低金利、金融緩和が望めない場合、米国の株式相場は上昇することはなく、長い低迷期を迎えるのでしょうか?このような疑問に経験豊富で優れた個人投資家が、その答えを提示してくれていますので以下でご紹介します。

まず、「株式リターンの源泉はリスクプレミアム」だという記事です。

米国株が低金利時代から高金利時代を迎え、ここから長期的に株価の上昇は見込めないのか?という疑問に対して、「金利」、「金融緩和」以外の観点から米国株の長期的なパフォーマンスについて触れています。

高金利、金融緩和が期待できなくても成長は見込める

  • ・株式リターンの源泉は株式リスクプレミアム
  • ・1970年台以前も株式市場は成長してきた
  • ・EPSが伸びれば株価は伸びる
  • ・再びゼロ金利とQEならびに財政出動をすることになる
  • ・米国人の401Kと企業の自社株買いが下値を支える

但し高金利の環境下では株式にとっては困難な状況であり、FRBによる「金融緩和」のメリットよりも市場は景気後退とそのリスクに注目する可能性があり、これまでのような低金利を背景とした大きな上昇は見込めない。厳しい状況が長く続くのではないか?という予想は皆一致しています。

雰囲気投資家の声

パウエル議長が8月のジャクソンホールでインフレ退治に出ることを宣言して、2週間が経った2022年9月上旬現在。Twitter の雰囲気投資家の声を聞くと、「今こそレバナス投資だ」、「今こそハイテクの仕込み時だ」というツイートを散見します。果たして今回はどうなるのか?投資家が凍死家とならないことを願うばかりです。

今こそインデックス投資家のターンか?

アメリカのアナリストによると、株式市場の下落により多くの銘柄が割安になっているため、税制優遇のある「つみたてNISA」や「iDeCo」への投資を開始するには良い時期かもしれないと指摘しています。日本では2024年から、旧NISAが拡充された「新しいNISA」が始まりますので、積極的に投資枠を使っていきたいところです。

「新NISA」の投資戦略を考える

しかし悩ましいのが、円建でアメリカの投資信託を買っている日本のインデックス投資家です。2022年はドル高円安の影響で、米株が下落していても為替の影響で資産の目減りを防げていますが、今後もドル高が続くことは想定しにくく、今度は円高に振れたときのリスク対策を考える必要があると思います。

つまり、円建でアメリカの投資信託 (例えば円建のS&P500「eMAXIS Slim 米国株式」) を積み立てていたり、スポット購入をしている日本のインデックス投資家の場合、今の円安局面で積み増すよりも、もう少し待って為替が「円高」に振れてから強気で買い増していくのも一つの手かもしれません。

しかし「つみたてNISA」や「iDeCo」にしろ1年で使える枠が決まっている以上、税制優遇の恩恵を受けるのであれば、株価が下落しているときこそ積み増していくのが良いのかもしれません。

金利上昇時は預金

金利の上昇は、お金を貯めるための良いニュースになる傾向があります。金利が上昇すると、普通預金、マネーマーケット口座、譲渡性預金 (CD) が獲得する金利が上昇する。その結果、貯蓄者は銀行口座やCDに預けたお金に対してより大きなリターンを得ることができます。

まとめ

過去40年間、長期金利がなぜこれ程まで低かったのかというと、まずインフレ率が構造的に低下したこと、そして決定的な要因として長期的なインフレ期待も低下したことです。

更に忘れてはならないのが、FRB がバランスシートを積極的に活用して長期金利を押し下げ、そのために大量の債券を購入しているからです。

冒頭でも述べたように、”今後のトレンドとして金利が高い状態が続く” のかもしれません。過去の歴史から似たような状況をあげるとすれば「金利は高いが健全」な世界の例として、1990年代をあげることができます。

この頃、インフレ抑制のためにポール・ボルカーが課した超高金利の影響がまだ残っており、金利は6%を超えていたが、成長は力強く、様々なショックに耐えながら拡大していった歴史があります。

BCGのグローバル・チーフ・エコノミストの BYPHILIPP CARLSSON-SZLEZAK 氏と、BCGヘンダーソン研究所のシニアエコノミスト PAUL SWARTZ 氏は、Fortune の記事「低金利の終焉か?」で以下のように、比較的明るい未来を予想している。

痛みはあるが、高くても健全は悪いことばかりではない。今後数年間の金利環境はこれまでとは異なる様相を呈するだろうが、良い背景から悪い背景へと変化することはないだろう。インフレリスクはダウンサイドからアップサイドにシフトし、それに伴い金融政策のアプローチも変化している。そして、現在のような速い金利変動には痛みが伴うが、これが将来、根本的に悪い金利環境を促進する必要はないのである。

しかし歴史は繰り返す、韻を踏むとすれば、1970年代〜1980年代前半にかけて世界が経験した第一次オイルショック、第二次オイルショックと、2回の高インフレを経験したような痛みを伴う可能性も残されています。当時はオイルショックを機に、高失業率、石油危機、金融政策の失策が要因でインフレは長引きました。

参考図書

・教養としての金融危機

・21世紀のロンバード街

・アメリカの高校生が学んでいる経済の教室

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