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データ・サイエンティストによる投資本『Just Keep Buying』について

2023年6月下旬に日本版が刊行された、リゾルツ・ウェルス・マネジメントの最高執行責任者兼データ・サイエンティスト Nick Maggiulli (ニック・マッジューリ) 氏の著書『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』が、日本の著名なAI界隈の人にも波及しているようです。

本書の帯にあるように、全世界350万部突破『Psychology of Money (サイコロジー・オブ・マネー)』著者モーガン・ハウセル絶賛!というコピーも相まって売れているようです。

『Just Keep Buying』の内容

本書『Just Keep Buying: Proven Ways to Save Money And Build Your Wealth (買い続ける: お金を貯め、資産を築くための実証済みの方法)』(原題) は、お金に関しては誰もが大きな疑問に直面する。

貯蓄や投資に関する疑問、自分の家計が正しいかどうかの疑問などだ。残念ながら、金融業界が提供する答えの多くは、データや証拠ではなく、信念や推測に基づいている。

本書『Just Keep Buying』では、人気金融ブロガーである Nick Maggiulli (ニック・マッジューリ) が、個人金融と投資における最大の疑問に数字を駆使して答えている。

この本が教えてくれる5つのこと

・なぜあなたが思っているより少ない貯蓄が必要なのか
・なぜ借金は良いことでも悪いことでもないのか
・市場暴落時に生き残る(そして成功する)方法
・「暴落を買う」ために現金を貯めるのが良くない理由
・401(k)を最大限に活用すべきではない理由
その他多数

著者ニック・マッジューリ氏について

ニック・マッジューリは、リゾルツ・ウェルス・マネジメントの最高執行責任者兼データ・サイエンティストで、会社全体の業務を監督し、ビジネス・インテリジェンスに関する洞察を提供している。

また、データとパーソナル・ファイナンスの交差点に焦点を当てたブログ、OfDollarsAndData.comの著者でもある。彼の仕事はウォール・ストリート・ジャーナル、CNBC、ロサンゼルス・タイムズで紹介されている。スタンフォード大学経済学部卒業。

401(k)を最大限に活用したくない

投資の神話の一つに、可能な限り401(k) (日本の場合は iDeCo) を最大限に活用しよう!というものがあるが、本書では、なぜ401(k)を最大限に活用したくないのかについて語られています。

401(k)プランは、税制上の利点がある一方で、投資選択肢が限られるという制約もあります。また、管理費用も考慮に入れる必要があります。本書のシミュレーションによれば、401(k)とよく管理されたブローカーズアカウントとを比較した場合、年間の利益は約0.7%、つまり70BPSとなることがわかりました。

これは大きな利益ではないかもしれませんが、一方で、401(k)プランの手数料が1%または0.7%であれば、ブローカーズアカウントと比較して利益はほとんどないという結論に至っています。

このことから、401(k)プランが全ての人にとって最適な選択肢であるとは限らないことを述べています。一方、個々の金融状況や目標により、他の投資手段がより適していることにも触れています。

<筆者の見解>

米国の401(k)については、やりようがないので詳しくないのですが、日本の iDeCo (確定拠出年金) の場合、変な商品を選ばない限り長期ではやらない意味はないと思います。

しかも iDeCo は商品選択の種類は少なく、積立る商品なんて手数料の安いインデックスの投資信託1択だと思いますので、後は全世界なのか?全米なのか?という投資戦略しかないと思います。

以上のことから、非課税を最大限に利用したい人に iDeCo は非常に有効だと思います。しかし、iDeCo については2024年から始まる新NISAとの兼ね合いで、すごい稼いでいる!という人以外は、正直もう必要ないのではないか … とさえ思っています。

というのも、新NISAの非課税保有限度額は1,800万円で、普通の人にとっては新NISAで十分であり、更に iDeCo までやる体力というか稼ぎは残念ながらないはずです。(正に自分のことなのですが、来年からは iDeCo を大幅に減額し、新NISAに切り替え予定です)

また、iDeCo の最大デメリットとしては、掛け金は原則60歳を過ぎるまで引き出すことができません。更に選択できる商品も限られており、私の場合SBI証券の古い iDeCo プランなので、手数料の安い人気の投資信託を選ぶことができません。(プラン変更することも可能ですが、その際は一度持ってる投資信託を全て売却する必要があります)

「買い時」、「買い増し」市場のタイミングについて

本書では、株式市場が下落したとき「買い時」、「買い増し」を市場のタイミングを合わせようとする際の落とし穴について次のように述べています。

市場タイミングに合わせる戦略はもちろん機能する可能性がありますが、大半の場合、それは機能しません。なぜなら、大半の市場はほとんどの時間、右上に向かって上昇しているからです。それが問題なのです。

簡単な例として、2017年の初めに、「Just Keep Buying」という投稿を書きました。それが基本的にこの本のイントロとなり、結局この本が生まれるきっかけとなる種を植えました。

ある方程式

例として (本書で紹介される方程式を用いると)、2020年3月23日の修正を使います。その時点で、市場は約33%下落していました。したがって、市場が33%下落したとき、これを数学的に計算することができます。

たとえば、市場が100ドルから始まり、それが66ドルに落ちたとします。それが再び100ドルに戻るためには、どれくらいの利益が必要でしょうか?50%の利益が必要です。66ドルの半分は33ドルで、33プラス66は基本的に100です。

したがって、それが33ドルに下がったら、50%の利益が必要です。私の質問は、市場が回復するのにどれくらいの時間がかかると思うかです。それだけが、私があなたから必要とする情報です。

あなたがそれが5年かかると思っていて、50%の上昇余地があるとわかっているなら、これは正確な計算ではありませんが、簡単にするために直線的に計算してみましょう。

50%を5年で割ると、おおよそ年間10%のリターンということになりますが、それはかなり良いと言えます。それを計算すると、1.5の五乗根は8.5%またはそこら辺になります。

複利のために私が言ったよりも高くないですが、ポイントを理解するために直線的に外挿します。あなたが思うのが、ああ、私は市場が2年で回復すると思う、ということであれば、それは年間25%になります。

あなたは今、年間25%のリターンを得たくないですか?だから、私はこれを見て、市場が回復するのに2~3年かかると思いました。そして、データを見て、わお、と感じました。その時点でも、買うのに最適な時期だったのです。

もっと現金があればよかったと思います。でも、すでに投資してしまったので、現金はありません。だから、今、人々が下がった市場を買い込んでいるのです。全力で投資すべきだったのです。

それを恐怖心からやらなかったのなら、それがどうして下がった市場を買わないのかを示しています。なぜなら、それは本当に難しいからです。

市場が大きく下落した後、その回復にかかる時間は多くの要素によって影響を受けます。これには、経済状況、政策の変化、投資家の心理、その他のマクロ経済的要素などが含まれます。

例えば、2008年の金融危機後、S&P 500はピークから最低点まで約57%下落しました。その後、市場は約5年半かけて前のピークに戻りました。しかし、2020年のCOVID-19パンデミックによる市場の下落では、市場はわずか数ヶ月で回復しました。

それが簡単な方程式です。それで、私たちはどれだけ上昇すれば元に戻ることができるのか、新たな全面高に戻るためにはどれだけ必要なのかを考えます。そしてそれを取り、予想する年数で割ると、それが大体のパーセンテージの利益となります。

だからこの場合、50%、5年で、10%の利益、たとえそれが10年かかったとしても、5%の利益を得ることになります。それは悪くないですが、もちろん素晴らしいとは言えません。

それは市場平均よりもかなり低いですが、そこから推測することができます。そして、それはあなたがクラッシュについてどのように考えるかを根本的に変えます。

しかし、日本の株式は長い間死んでいた = 分散投資は必要

大きな下落時は買いという本書のスタイルに対して、では日本市場はどうなの?という突っ込みが入ります。日本は大きなクラッシュがあり、それから回復することはなく、再び高値に戻ることはありませんした。

【2023年】なぜ今、日本株投資なのか?


ちなみに本書は2022年に出版されていたので、その状況は大きく変わっており、2023年3月以降、地政学的なリスクや、円安、バフェット効果も相まって日本市場 (日経平均) は33年ぶり高値を更新しています。

日本市場の長い停滞に対して、本書では、それが分散投資する理由だと述べています。この論争には2つの問題があります。最初の問題は、もしあなたが1988年に日本のビジネスを売り、全てのお金を1989年に一括で日本の株式だけに投資したなら、あなたはおそらく人間史上最も運の悪い人物だろうということです。

それは悪いことです。しかし、もしあなたが分散投資をしていたなら、あるいは他のところにもお金を持っていたなら、時間をかけて購入していたなら、それが2つ目の論点です。

時間をかけて買っていると、全く違う結果になります。そして私はそのことを本の第17章で示しています。分散投資を行い、時間をかけて買うということが、ここでの多くのリスクを減らします。だから私が人々に言いたいことは、分散投資を行い、時間をかけて買うことで、そのリスクをかなり克服することができます。

本書の雑感

この本で気をつけなきゃいけないことが、非常にステレオタイプな “データサイエンティストによる、貯金と投資の本” という認識で、AI界隈の人の興味も引きつけているようですが、内容は至って平凡というか、革新的な要素はあまり無いように思えます。

また本書が述べているように、下落、大きな下落は買いなんだ!と簡単に認識してしまうと、長い弱気相場が続いた時に、あなたは狼狽しないで握り続けることができるのか?という不安が残ります。

本書は大きな下落は買いで、何年かすれば将来は株は上がるというようなスタンスだと思いますが、もし大きな成功を得たいのだとすれば、相場のサイクルに早くから目を向けることだと思います。

成功している個人投資家の多くが、「本サイクルは現在何合目くらいか?」という相場に対する体感を持っており、これまでの相場の経験値から導き出される相場の温度 (ハワード・マークス曰く) というものを感じ取らながら相場を張っています。

ハワード・マークスから学ぶ、相場のサイクルを極める

本書『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』は、キャッチーなデータサイエンティスト + 投資 + 貯金というような日本人が好きそうなキッチーなコピーでバズっているようですが、所詮その域の情報量だと思いました。

本書が示す、「インデックス、低コスト、低メンテナンス、そしてそれをシンプル」という趣旨は大賛成です。以上のことから投資初心者の方には発見が多いかもしれませんが、中級者にとっては特に目新しい要素は無いように思いました。