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サイケデリック医薬品を手がける臨床バイオ企業の躍進

サイケデリック・バイオテクノロジーの現在地

今回はサイケデリック・バイオテクノロジーの現在地についてご紹介したいと思います。まずこの記事を書く動機となったのが、2024年3月7日に脳の健康障害を治療する新規製品候補を開発する臨床段階のバイオ医薬品企業 MindMed (マインドメッド / MNMD) がFDAの画期的治療薬指定 (BTD : breakthrough therapy designation) を受け、全般性不安障害を対象としたパイプライン「MM120」のフェーズ2B試験から良好な12週間の耐久性データを発表したことです。

今回、サイケデリック医薬品の記事を書く内に、忘れ去れていたことを次々に思い出しました。というのも、サイケデリック医薬品の企業が米国市場に初めて上場したのが、2020年の金融相場の時期で、その頃と言えば、SPACブームや宇宙SPACブームがあった訳で、そのブームの一つに今回のサイケデリック医薬品企業のIPOやSPAC上場、大麻株ブームなどがありました。

サイケデリック医薬品が注目される背景

メンタルヘルスの治療においてサイケデリック薬品が注目されているのは、その潜在的な治療効果が従来の治療法では得られない場合があるためです。サイケデリック薬品は、重度のうつ病、心的外傷後ストレス障害 (PTSD)、中毒症状など、さまざまなメンタルヘルスの問題に対して新たな治療の可能性を提供しています。

近年の研究では、うつ病や PTSD などの精神疾患を抱える人々に対して、幻覚物質が有効な治療手段となり得ることが示されています。これらの物質には、シロシビン (マジックマッシュルームに含まれる)、LSD、MDMA (エクスタシーの主成分)、DMT (アヤワスカの主成分) などがあります。これらの幻覚物質は、患者が自己の感情や思考パターンを異なる視点から見るのを助け、治療過程で重要な洞察や心理的な変化を促すことができるとされています。

シロシビンによる治療

シロシビンあるいはサイロシビン (マジックマッシュルームの有効成分) に関する研究は、特にうつ病治療において有望な結果を示しています。一部の臨床試験では、シロシビンが従来の抗うつ薬よりも迅速に症状を改善し、その効果が長期間持続する可能性があることが報告されています。

MDMAによる治療

MDMA (エクスタシーやモリーといった嗜好品としても知られている) を用いた治療は、特にPTSDの治療に焦点を当てています。MDMAは患者がトラウマ体験を思い出す際の恐怖感を減少させ、治療中の感情的なプロセスをサポートすることで、治療者との信頼関係を深め、治療の効果を高めることが示されています。

サイケデリック医薬品企業のIPO

米国市場にサイケデリック医薬品の企業が初めて IPO したのは、2020年9月にロンドンに本社を置く Compass Pathways (コンパス・パスウェイズ / CMPS) が最初になります。

この頃、フォーブスの記事で「ピーター・ティールも出資する “幻覚ドラッグ” の医療活用最前線」というようなニュースが話題になっていたのを思い出しました。この記事によると、ピーター・ティールは Compass Pathways の株式の7.54%を取得しているらしいです。

Compass Pathways に続いて2021年4月には、脳の健康障害を治療する新規製品候補を開発する MindMed (マインドメッド / MNMD)、6月にはピーター・ティールが支援するドイツの精神薬新興企業 ATAI Life Science (アタイ・ライフ・サイエンシズ / ATAI) が次々に上場しています。

他にも、南アフリカの大麻企業 Cybin (サイビン / CYBN) など、臨床段階のサイケデリックバイオテクノロジー企業が多数 SPAC 上場しています。

サイケデリック治療薬の画期的治療薬指定 (BTD)

2024年3月に入ると、2週続けてサイケデリック治療薬のパイプラインを持つ臨床段階のバイオ企業が FDA から画期的治療薬指定 (BTD) を受けるという快挙がありました。

最近では MASH/NASH (非アルコール性脂肪性肝炎) の領域で Madrigal Pharmaceuticals (マドリガル・ファーマシューティカルズ / MDGL) の「Rezdiffra」がFDA承認を得て、画期的治療薬指定 (BTD) を受けています。

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画期的治療薬指定 (BTD) とは?

画期的治療薬指定 (BTD) は、既存の治療法に比べて大幅な改善を示す医薬品に与えられるもので、FDAのガイダンスに基づき開発を促進し、革新的な治療法をより早く患者に提供することを目的としています。

BTD の後、FDA は第3相試験デザインにより深く関与するようになり、医薬品開発のタイムラインを短縮することができる。BTD は、特に、重篤な疾患の治療を目的とし、その薬剤が利用可能な治療法よりも大幅に改善する可能性を示す予備的な臨床エビデンスがある薬剤に与えられる。

こちらのインフォグラフィックが説明しているように、FDA による BTD には、次のようなポイントがあります。

– BTD は平均で80億ドルの価値があるとされ、FDAによって承認された薬の39%が「画期的治療薬」として指定されています。
– BTD 指定された薬は、迅速承認を受ける薬に比べて2倍の確率で承認されると報告されています。
– 従来の薬と比較して、BT D指定された薬は、市場に出るまでの開発期間が2〜3年短縮され、FDA のレビュー時間も3ヶ月短縮されます。
– BTD 指定された薬は、一般の上場企業と比較して6%の価値増加が見られることが示されています。
– 構造的な新規性は BTD において重要な役割を果たし、新しい分子実体の形や骨格がこれまでの FDA 承認薬には使用されていないものです。
– 構造的に新しい薬は BTD 指定を受けるチャンスが2倍以上あるとされています。

MindMed の「MM120」がFDAの画期的治療薬指定を受ける

注目したいのが、2024年3月7日に MindMed (マインドメッド / MNMD) がFDAの画期的治療薬指定 (BTD) を受け、全般性不安障害を対象とした「MM120」のフェーズ2B試験から良好な12週間の耐久性データを発表しました。

カリフォルニア大学サンディエゴ校の精神医学名誉教授であり、カリフォルニア州ラホヤにあるカディマ神経精神医学研究所の所長であり、「MM120」試験の治験責任医師である David Feifel 医学博士は次のように述べています。

私は20年以上にわたって精神医学の臨床研究を行っており、不安治療薬として開発中の多くの薬剤の研究を見てきました。MM120が迅速かつ強固な効果を示し、単回投与後12週間持続したことは、本当に驚くべきことです。

これらの結果は、MM120が不安症の治療において潜在的な可能性を持っていることを示唆しています。患者の不安症を緩和するために日々奮闘している私たちは、今後の第3相臨床試験の結果を楽しみにしています。

その後に第三者割当増資をアナウンス。第三者割当増資は、新規投資家である Deep Track Capital と Commodore Capital を引受先とする、となっています。

Cybin の「CYB003」がFDAの画期的治療薬指定を受ける

更に偶然なのか、安全で効果的なサイケデリックベースの治療薬を創製し、精神疾患に苦しむ人々のための新しい革新的な治療オプションに対する大きなアンメットニーズに応えることを使命とする臨床段階のバイオ医薬品企業 Cybin (サイビン / CYBN) が、2024年3月13日に新規サイケデリック分子「CYB003」の FDA 画期的治療薬指定 (BTD) を受け、大うつ病性障害における4カ月間の良好な耐久性データを発表しました。

Cybin の最高経営責任者(CEO)であるダグ・ドライスデール氏は、次のように述べています。

FDAとのフェーズ2終了ミーティングの結果に非常に満足しており、プロセスにおけるFDAの徹底した指導に感謝しています。重要なプログラムの主要な特徴について意見が一致したことで、私たちは、年央頃に複数の施設で実施される多国間のフェーズ3プログラムを開始できることを楽しみにしています。

CYB003のこれまでの臨床プロフィールの強さは、投与後4ヶ月の時点で、2つの投与量にわたって、CYB003 12mgを投与された患者の60%、CYB003 16mgを投与された患者の75%がうつ症状の寛解を達成したことを示しています。

少なくとも4カ月まで効果が持続することを示す良好な耐久性データ、BTD、そしてフェーズ3計画に関するFDAとの整合性により、私たちは迅速にプログラムを進め、切実に待ち望んでいる人々に救済と治療の選択肢をもたらすことができます。

翌日には、第三者割当増資をアナウンスし、募集を超えた第三者割当増資は Deep Track Capital が主導し、RA Capital、Avidity Partners、Acorn Bioventures、Altium Capital、Logos Capital、Octagon Capital、Rosalind Advisors、Sphera Healthcare およびその他の機関投資家が参加しています。

【関連記事】バイオテクノロジーに精通した専門のファンドを知ろう

何と同じような時期にサイケデリック治療薬のパイプラインが2つ、FDAの画期的治療薬指定 (BTD) を受けているんですね。更にバイオファンドの Deep Track Capital が両者の第三者割当増資に参加していることも非常に興味深いです。

サイケデリック医薬品が利用可能な精神科治療薬よりも実質的な改善を提供する可能性がある

Pharmacy Times の記事「LSD D-酒石酸塩が全般性不安障害でFDAから画期的治療薬指定を受ける」で、マネージング・エディターのアラナ・ヒッペンスティール氏は次のように記しています。

FDA がLSD [d-酒石酸塩]を画期的治療薬に指定したことは、サイケデリック医薬品の治験薬としては5番目、サイビンの重水素化シロシビンと並んで2週間で2番目の承認であり、サイケデリック医薬品が利用可能な精神科治療薬よりも実質的な改善を提供する可能性があるという FDA の見解を明確に示すものです。

バイオファンドによる購入

MindMed (マインドメッド / MNMD) と Cybin (サイビン / CYBN) がFDAの画期的治療薬指定 (BTD) を受けた後にバイオ専門のファンド Deep Track Capital が MindMed の株式を追加、Commodore が新規で MindMed を購入しています。更に3月下旬には、Deep Track と RA Capital が Cybin を新規で購入しているのです。

2020年以降のサイケデリック治療薬の IPO から臨床試験の経過、FDA の BTD などの流れて見るに、当時の期待から一歩づつ確信へと準備が整ってきたのかもしれません。革新的技術が登場し、社会のパラダイム変革を起こるには、その間に「革新的技術が登場」→「投資家による発見」→「バブル崩壊」→「再評価」→「社会のパラダイム変革」のような流れを辿るとされています。

2020年の金融相場でサイケデリック治療薬が続々とIPOやSPAC上場し、”ピーター・ティールも支援する” などのキャッチ、バイデン大統領の政策で大麻株がどうだの等も含めてブームとなりましたが、このような全てのグロース株 (サイケデリック治療薬の臨床段階のバイオ銘柄も含む) が大きな山を形成し、その後 FRB の利上げを前にして時間をかけて暴落しました。

そして約3年くらいの時を経て、再びFRBによる利下げが今年行われるかもしれない、という背景も相まってか、サイケデリック治療薬の銘柄も練り底から反発し、臨床バイオでお馴染みのデータ + PIPE のコンボをこなして、第二ラウンドに向かう銘柄も幾つか出てきているように見受けれれます。

ある投資家は、「サイケデリックがタブーでなくなる日を夢見てきた。サイケデリックは、現在市場に出回っているどんな薬よりも、精神疾患の治療に効果的であることが証明されるだろう。」と熱く語るなど、再び「再評価」される段階に来ているのかもしれません。

最後のフロンティア、ニューロサイエンス (神経科学) の領域に迫る

個人的にこの領域に興味があるのは、2023年のNYでのカンファレンスで伝説の投資家スタンレー・ドラッケンミラーが「脳が最後のフロンティアになるかもしれない」ということを話していたのと、TDコーウェンの2024年のサプライズ予想の一つにネタかどうかは分かりませんが、「大手製薬会社がサイケデリック医薬品市場に参入 (サイケデリック医薬品の企業を買収)」というような予想があり、それらの断片的な情報を見聞きしていたので、このようなテーマもチャンスがあるのではないか?と思った次第です。

サイケデリック (精神薬) 関連の上場企業一覧

Compass Pathways: CMPS
atai Life Sciences: ATAI
GH Research: GHRS
MindMed: MNMD
Incannex Health: IXHL (米国市場でのティッカー、オーストラリア市場ではIHL)
FSD Pharma: HUGE
Cybin: CYBN
Numinus: NUMI (カナダ市場でのティッカー)
Optimi Health: OPTI (カナダ市場でのティッカー)
PharmAla Biotech: MDMA (カナダ市場でのティッカー)
BetterLife Pharma: BETR
Red Light Holland: TRIP (カナダ市場でのティッカー)
Revive Therapeutics: RVVTF (米国市場でのティッカー、カナダ市場ではRVV)
Psycheceutical: BWVI
Seelos Therapeutics: SEEL
Awakn Life Sciences: AWKN (カナダ市場でのティッカー)
Filament Health: FH (カナダ市場でのティッカー)
Trip Therapeutics: TRYP
Bright Minds Biosciences: DRUG
Psyched Wellness: PSYC (カナダ市場でのティッカー)
Silo Pharma: SILO
Enveric Biosciences: ENVB
Mydecine Innovations Group: MYCO (カナダ市場でのティッカー)
Nova Mentis: NOVA (カナダ市場でのティッカー)
Mindset Pharma: MSET (カナダ市場でのティッカー)
Aion Therapeutic: AION (カナダ市場でのティッカー)
Clearmind Medicine: CMND (カナダ市場でのティッカー)

参考図書『幻覚剤と精神医学の最前線』デヴィッド・ナット (著)

選書『幻覚剤と精神医学の最前線』デヴィッド・ナット (著)