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臨床バイオ企業の合併・逆合併は買いなのか?

臨床バイオ企業の合併・逆合併は買いなのか?

2024年に入って、バイオ企業の間では好条件の合併・逆合併ことリバースマージャー (IPO するのではなく、既に存在している会社と合併または子会社化して上場する手法) が増えています。

更にライフサイエンを専門とした強力な機関投資家のサポートに加え、合併完了と同時に資金調達も果たしています。合併や戦略的代替案は、最近臨床バイオテクノロジーの企業で活発な戦略となっており、企業が公開市場にアクセスしたり、継続的な開発や商業化の努力を支援するために資本を再編成したりするのに役立っています。

まずは活発化するバイオ企業の「合併」と「逆合併」と違いを確認しておきましょう。

合併 (Merger)

合併は、二つ以上の企業が一つの法的な統合体を形成するプロセスです。合併には主に以下のような特徴があります。

・シナジー効果
合併することで、リソースの共有、コスト削減、市場シェアの拡大など、シナジー効果を生み出すことが期待されます。

・共同経営
合併後、元の企業の株主は新会社の株式を持つことになり、共同で事業を運営していくことになります。

・市場競争力の強化
製品ライン (医薬品やパイプライン) の拡充や研究開発能力の向上を通じて、競争力を強化することができます。

合併は主に企業間の相乗効果を目的として行われます。技術の統合や市場へのアプローチ、経営資源の最適化を図ることができます。

逆合併 (Reverse Merger)

逆合併は、通常、プライベート企業が公開企業を買収し、その公開企業と合併することによって、比較的迅速かつ効率的に株式市場に上場する方法です。逆合併の特徴は以下の通りです。

・上場の迅速化
通常のIPOプロセスは時間がかかり、コストも高くなりますが、逆合併を利用することでこれらの問題を回避し、短期間で市場へのアクセスを実現できます。

・資本市場へのアクセス
逆合併により、プライベート企業は迅速に公開市場で資金を調達するチャンスを得ることができます。

・規制と監査
逆合併は規制が厳しくなる可能性があるため、事前の準備と透明性が求められます。

逆合併は特に資金調達や市場への速やかなアクセスが必要な場合に選ばれる方法です。プライベート企業が公開企業を買収することで、上場プロセスを迅速に済ませることができるため、戦略的に利用されます。

2024年に合併・逆合併を発表したバイオ企業

臨床段階のバイオ企業が合併、逆合併することでパイプラインの強化、資金調達をすることができます。以下では2024年に合併を発表した、興味深い事例がいくつご紹介します。

LENZ Therapeutics が Graphite Bio と合併

LENZ Therapeutics が Graphite Bio と合併

2024年3月21日、LENZ Therapeutics (LENZ) が Graphite Bio (グラファイト・バイオ / GRPH) との合併を完了し、最近の臨床および企業の進展に関する最新情報を発表しました。チャートの赤い矢印が、合併完了を発表した日になります。

LENZ Therapeutics は、老眼の人の近見視力を改善することが示されている初のアセクリジンベースの点眼薬の開発に注力している後期臨床段階のバイオ医薬品企業で、以前に発表した Graphite Bio (以前はティッカーシンボル「GRPH」でナスダック取引されていた) との合併が完了したことを発表しました。

合併後の新会社は、LENZ Therapeutics の社名で運営され、ナスダックにてティッカーシンボル「LENZ」で取引を開始しました。合併の完了と同時に、Graphite Bio は LENZ の既存投資家が率いるヘルスケア投資家のシンジケート団から5,350万ドルの第三者割当増資を完了し、新規投資家の参加も得た。

合併後、LENZの主要ヘルスケア投資家には、Versant Ventures、RA Capital Management、Alpha Wave Global、Point72、Samsara BioCapital、Sectoral Asset Management、RTW Investments などが含まれる。

Q32 Bio が Homology Medicines と合併

Q32 Bio が Homology Medicines と合併

2024年3月25日、Q32 Bio (QTTB) は、Homology Medicines (ホモロジー・メディシンズ / FIXX) との合併の完了と同時に4,200万ドルの第三者割当増資を発表しました。

合併の完了と同時に、Q32 Bio は OrbiMed、Atlas Venture、Abingworth、Bristol Myers Squibb、Acorn Bioventures、Osage University Partners、CU Healthcare Innovation Fund、Sanofi Ventures、Agent Capital、その他非公開の投資家を含む既存および新規の投資家からなるシンジケート団から4,200万ドルの第三者割当増資を完了した。

この取引後、Q32バイオの現金、現金同等物および投資額は、最終的な取引関連費用の支払い前で約1億3,000万ドルに達し、2026年半ばまでの運営資金を賄うことができる見込みである。

Q32 Bio は、現在進行中のアトピー性皮膚炎(AD)および円形脱毛症(AA)の第2相臨床試験における「bempikibart(ADX-914)」の進展と、補体疾患患者を対象とした「ADX-097」の第2相腎バスケット臨床試験の開始に注力する。買収後の現金、現金同等物および投資額は約1億3000万ドルで、2026年半ばまでの事業運営に必要な資金を賄うことができる。

ARCA Biopharma と Oruka Therapeutics が合併

2024年04月03日、ARCA Biopharma (ABIO) と株式非公開のバイオ企業 Oruka Therapeutics と慢性皮膚疾患の新規治療薬開発を目的とした合併契約を締結したと発表しました。Oruka が保有する尋常性乾癬などの慢性皮膚疾患治療用の新規生物学的製剤のポートフォリオにより、IL-23p19阻害剤である「ORKA-001」およびIL-17A/F阻害剤である「ORKA-002」の開発を進める。

合併完了後、統合会社は Oruka Therapeutics の社名で営業し、ナスダックでは「ORKA」のティッカーシンボルで取引される予定です。合併は両社の取締役会によって承認され、2024年第3四半期に完了する予定である。

この合併を支援するため、Oruka は Fairmount と Venrock Healthcare Capital Partners が率いるヘルスケア投資家シンジケート団から、同社の普通株式に対する2億7500万ドルの私募投資と、同社の普通株式を購入するためのワラントの事前資金調達の約束を取り付けました、Access Biotechnology、Commodore Capital、Deep Track Capital、Perceptive Advisors、Blackstone Multi-Asset Investing、Avidity Partners、Great Point Partners LLC、Paradigm BioCapital、Braidwell LP、Redmile Group のほか、複数の大手投資顧問会社を含む他の投資家も参加しています。

資金調達は合併完了の直前に完了する予定である。合併完了時の統合会社の現金残高は、2027年までの Oruka の事業運営資金と、「ORKA-001」および「ORKA-002」の初期臨床実証試験までの進展をサポートするものと見込まれています。

Oruka は、アンメットニーズの高い様々な疾患治療のための生物製剤を開発するバイオテクノロジー企業、パラゴン・セラピューティクスが生み出した資産を基に設立された3番目の企業である。パラゴンは2021年にヘルスケア投資家のフェアマウントによって設立され、アポジー・セラピューティクスとスパイア・セラピューティクスも開発した。

Eliem Therapeutics が Tenet Medicines を買収

2024年4月11日、神経細胞の興奮性障害に対する新規治療法の開発に注力しているバイオテクノロジー企業 Eliem Therapeutics (ELYM) が非上場のバイオ医薬品会社 Tenet Medicines との買収合意と同時に1億2000万ドルの第三者割当増資を発表しました。

Eliem Therapeutics と開発段階にある非公開バイオテクノロジー企業である Tenet Medicines 統合会社は、全身性エリテマトーデス、免疫性血小板減少症、膜性腎症などの幅広い自己免疫疾患を対象に、クラス最高の抗CD19抗体である可能性のあるTNT119の開発に注力する予定です。

この買収を支援するため、Eliem は、RA Capital Management, Deep Track Capital, Boxer Capital, Janus Henderson Investors, Pontifax and Samsara Biocapital を含む新規および既存のライフサイエンス機関投資家のシンジケート団との間で、普通株式1億2000万ドルの第三者割当増資に関する証券売買契約を締結した。この第三者割当増資は、買収完了と同時に完了する予定である。

買収と第三者割当増資の完了直後、統合会社の現金および現金同等物の総額は約2億1,000万ドルになる見込みです。Eliem は、これは統合会社の2027年までの計画的な事業運営に十分な資金であり、TNT119の主要な臨床および開発のマイルストーンを達成できる可能性があると見込んでいる。買収と第三者割当増資は、Eliem の株主による承認とその他の慣例的な完了条件に従い、2024年半ばに完了する予定である。

過去に合併後に買収されたバイオ企業の事例

・AstraZeneca が MedImmune を買収
2007年、AstraZeneca は MedImmune を約156億ドルで買収しました。MedImmune はその前に、Aviron というバイオテクノロジー企業と合併しており、この合併によりインフルエンザワクチンなどの製品ポートフォリオが強化されました。AstraZeneca による買収は、特に生物製剤分野での同社の立場を強化する戦略的な動きでした。

・Biogen と IDEC Pharmaceuticals の合併後の買収
2003年に合併した Biogen Idec (現在のBiogen) は、合併後の強化された研究開発能力と製品ポートフォリオを背景に、数多くの買収を行いました。

特に注目されるのは、2015年に発表された Convergence Pharmaceuticals の買収で、これによりBiogenは疼痛管理領域での開発能力を強化しました。

・Pharmasset と Gilead Sciences の買収
Pharmasset は、元々小規模なバイオテクノロジー企業で、C型肝炎治療薬の開発で注目を集めました。2004年に Triangle Pharmaceuticals を買収した後、2011年に Gilead Sciences によって約110億ドルで買収されました。この買収により、Gileadはその後のC型肝炎治療薬市場でのリーダーの地位を確立しました。

結論

Eliem Therapeutics は買収のため少しニュアンスは異なりますが、バイオ企業における合併・逆合併は、ライフサイエンスに特化したファンドの強力な支援により上記の例では株価は上昇傾向にあります。

これは、2021年以降の FRB による利上げによって、バイオセクターは数年に渡る冬の時代を迎え、ようやく利上げが終了したことで、2023年の肥満薬のブーム、大手製薬会社の特許の崖 (医薬品の特許切れが続く) などに後押しが反映されています。

また、「合併・逆合併を発表というニュース」が流れてから「合併・逆合併を完了というニュース」が出るまでに、株価は結構上昇しますので、「合併・逆合併を発表というニュース」が出た時点で、その銘柄を支援するバイオファンドを確認してから入るのも一つの手かもしれません。

以上のように、2024年以降のバイオ企業の合併は “買い” であるケースが多く見られました。特にバイオテクノロジー、ライフサイエンスに特化したファンドが買っている場合は “買い” であると言えるかもしれません。