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『欲望の資本主義2022』を読書する

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2022年の年始に放送されていた『欲望の資本主義2022 成長と分配のジレンマを越えて』がかなり面白かったので、その内容と、面白かった部分 “人新世の危機” について、グラフが示す日本の凋落についてなど、簡単なまとめや感想、豪華な番組出演者の参考図書をご紹介します。

この『欲望の資本主義』シリーズはここ数年毎年放送されていますが、年始、1年の始まりの頭の準備運動として非常に優れたコンテンツだと思います。

どうしてもコロナウイルスの最新動向に振り回されてしまいますが、その先を見据えた動きが必要になってきているのも事実です。

内容

やめられない止まらない欲望の資本主義。2017年から恒例新春巻頭言。成長、分配、生産性、循環。議論百出の中どこへ向かう?世界の知性と考える異色教養ドキュメント。

困窮者の救済が議論される一方で金融市場は世界的な緩和で潤い、K字と呼ばれる二極化の中叫ばれる生産性向上…。歪な状況の打開策は?人的資本への投資を進めるスウェーデン、循環型経済を試みるオランダなど取材。共産主義の苦い記憶から資本主義内での改革を語るチェコのセドラチェクと脱成長を主張するマルクス経済学者・斎藤幸平が徹底的に議論。ジム・ロジャーズからバルファキス、ラワースまで、資本主義の本質に切り込む。

引用: 欲望の資本主義2022

名だたるメンツが出演

『欲望の資本主義2022』で、面白かったポイントがいくつかピックアップしてご紹介します。まず様々な知識人による示唆に富んだ発言が面白いです。

今回の番組では、名だたるメンツがコメントやインタビューで参加しています。番組の前半に登場するのは、インドの投資家兼ファンドマネージャーのルチル・シャルマ、アメリカの週刊投資金融専門紙『バロンズ』の経済論説担当するマシュー・クレイン、ボストン大学パーディースクール経済学教授のペリー・メーリング、投資家のジム・ロジャース、経済学者ミルトン・フリードマンの孫であるパトリ・フリードマン、(ミルトン・フリードマン)、英国の経済学者ケイト・ラワース、オランダの循環型デニム・ブランド MUD Jeans のCEOバート・ファン・ソン、チェコ共和国の経済学者トーマス・セドラチェク、大阪市立大学准教授の斎藤幸平が出演しています。

続いて番組の後半には、ギリシャの経済学者ヤニス・バルファキス、京都大学大学院教授の諸冨徹、元スウェーデン財務相のアンダース・ボルグ、(ヨーゼフ・シュンペーター)、経済学者のダイアン・コイルが出演しています。

中でも、番組中盤の見所である、大阪私立大学准教授の斎藤幸平氏と、チェコスロバキア貿易銀行マクロ経済チーフストラテジストのトーマス・セドラチェク氏との白熱した議論が見物です。この議論の中では、資本主義、社会主義、共産主義、コモンズ (資源の共同利用地のこと) などが様々なトークが繰り広げれますが、私が最も気になった箇所は “人新世の危機” という議題です。

人新世の危機

そもそも、人新世 (ひとしんせい) の危機とは?どのようなことでしょうか。白熱した議論を展開する、斎藤幸平さんが2020年に上梓した著書『人新世の「資本論」』に書かれている通り、人類の経済活動が地球を破壊する「人新世」=環境危機の時代のことを指します。番組の中で斎藤幸平氏とトーマス・セドラチェック氏の会話を以下に抜粋します。

斎藤幸平:
人類の影響が巨大になり我々の経済活動によって、今後数千年も続くほどの変化を地球全体にもららし、地政学的にも大きな影響力を及ぼす課題が浮上しています。

そしてこのパンデミックが、人新世の危機を象徴しています。悪いニュースとして、コロナが最後の危機ではないということです。むしろこれがスタートで、来る慢性的な緊急事態への最後のリハーサルなのです。

トーマス・セドラチェク:
私はデモ版と呼んでいます。

斎藤幸平:
そうですね 笑

トーマス・セドラチェク:
予告編です

斎藤幸平:
予告編、来る慢性的な緊急事態。つまり気候危機も予告編ですね。摂氏2度上がった世界を想像してください。すぐにその時が来ます。そうなると台風やハリケーン、山火事、干ばつが増え、海面上昇も起き人間の手に負えなくなります。

確実に水不足や食料危機が起き起き、多数の気候難民が生まれます。それが社会に大きなマイナスの影響を及ぼし、迫害主義や極左運動等を生み出し、例えば戦争や、その他の紛争に繋がるのです。

Z世代の不安や怒りは理解できます。彼らは現代に失望し、近い将来に起こることを恐れています。思うに彼らは気候ききに対する、説得力のある魅力的な解決策を提供できない。

そして既存の制度が解決策を提供できないなら外に求めるべきだと思っています。社会主義が再び候補に上がる所以です。

トーマス・セドラチェク:
気候危機が人々が解くべき重要な問いであることは同意です。私たちはその答えを知らず、この惑星で起きたのは初めてですからね。確かにその原因は普通に考えれば資本主義です。しかし私はそうでないと考えています。

引用 : 『欲望の資本主義2022』

パンデミックは、これから始まる悲惨の序章に過ぎない…

まず確実に言えることは、コロナウイルスによるパンデミックは、これから始まる悲惨の序章に過ぎないということです。多くの人がコロナウイルスの収束を願っていますが、このコロナを過ぎれば以前の生活が戻ってくるかというと、実はそうではないということを忘れてはなりません。

ビル・ゲイツが2021年にした『地球の未来のため僕が決断したこと』にも書かれていますが、暴風雨、高潮、干魃、感染症の拡大 …。気候大災害が今世紀中に奪う命の数は、COVED-19 の5倍にものぼる、というような試算も出ています。

要は、コロナが過ぎるのを待つのではなく、コロナ禍の今すぐにでも動き出さなければならないのです。どのように動き出すかは、それぞれ個人によると思います。

日本の凋落を示すグラフ

主な国の債務残高

今に始まったことではありませんが、日本の債務残高が世界に比べて桁違いなのが分かります。今回のコロナ救済金、政治家の失策などにより、更に借金が跳ね上がりました。

CO2の排出量と経済成長の比較 (スウェーデン)

サーキュラーエコノミー (循環型経済)

参考図書 : サーキュラーエコノミー実践: オランダに探るビジネスモデル

番組では環境問題を解決させる取組みとして、英国の経済学者ケイト・ラワースが循環型の経済モデル “サーキュラーエコノミー (循環型経済)” を取り上げています。

オランダの循環型デニム・ブランド MUD Jeans (マッドジーンズ) とは?

ビジネスモデルとして、デニム大国オランダに拠点を置く、サステイナブルでフェアトレード認証を受けたデニムブランド MUD Jeans (マッドジーンズ) の取組みが紹介されます。

参考図書『サーキュラーエコノミー実践: オランダに探るビジネスモデル』では、脱成長へ舵を切り、デジタルテクノロジー、インフラ、建築、フード、アパレル等、官民一体で先進的サーキュラーエコノミーへ移行するオランダの事例を紹介しています。廃棄を出さない仕組みづくりは、経済効果・環境負荷軽減・リスク管理等を同時に達成する手法として世界の注目を集めています。

CO2の排出量と経済成長の比較 (日本)

OECD主要国 平均賃金の推移

日本は欧州でも若者の貧困が問題になっている、イタリア、スペインに次ぐ位置につけています。少し前に日本人の平均賃金が韓国に抜かれたことも話題になりましたが、日本はこのグラフが示す通り、1991年から平均賃金が横ばいで変わっていません。一方のドイツ、フランス、米国、英国、スウェーデンは右肩上がりに賃金が上昇しています。

福祉国家スウェーデン

福祉 × 競争を市場に取り入れた福祉国家スウェーデンでは、この20年間で50%の賃上げを実現しています。詳しくはOECDの平均賃金 (Average wage) で確認できます。

参考図書 : 福祉国家という戦略―スウェーデンモデルの政治経済学

参考図書『福祉国家という戦略―スウェーデンモデルの政治経済学』は、1999年に出版された本で、20年以上前の本ですが、経済と福祉の新しい関係、社会民主主義の過去と未来、自由選択社会、ジェンダー平等、非営利組織と福祉システムなど、スウェーデンモデルの成り立ちを体系的、構造的に描き出しています。

全てのグラフは : 『欲望の資本主義2022』

多彩な出演者の参考図書

こちらでは『欲望の資本主義2022』に出演している、多彩な出演者の参考図書をご紹介します。

インドの投資家兼ファンドマネージャー Ruchir Sharma (ルチル・シャルマ)

グローバルな経済と政治について幅広く執筆しているインドの投資家兼ファンドマネージャー Ruchir Sharma (ルチル・シャルマ) 氏は、2018年に『シャルマの未来予測 これから成長する国 沈む国』を上梓しています。この本では、BRICs、VISTA の台頭を予見したシャルマが、10の評価基準で主要国や新興国の動向を、成長する国、現状維持、沈む国に分けて徹底予測しています。

『バロンズ』の経済論説担当 Matthew C. Klein (マシュー・クレイン)

アメリカの週刊投資金融専門紙『バロンズ』の経済論説担当、Matthew C. Klein (マシュー・クレイン) は、2021年に『貿易戦争は階級闘争である――格差と対立の隠された構造』を上梓しています。

この著書では、貿易黒字国である中国・ドイツ内の不均衡がアメリカの巨額赤字を生み、国際紛争へと至る構造を解明し、解決策を提言します。「貿易戦争は国家間の対立として表現されることが多いが、そうではない。これは主に、銀行や金融資産の所有者と一般世帯の対立、すなわち超富裕層とその他大勢の対立である」。

ボストン大学の経済学教授 Perry G. Mehrling (ペリー・メーリング)

ボストン大学の Pardee School of GlobalStudies の経済学教授 Perry G. Mehrling (ペリー・メーリング) は、2021年に『21世紀のロンバード街』を上梓しています。金融市場のあり方をつぶさに観察して書かれた古典的名著、バジョットの『ロンバード街』。この本では、中央銀行の役割について「最後の貸し手」と整理して、金融関係者の間では、それが常識となってきたました。

しかし、ここ最近の金融危機では、中央銀行はその役割を超えて、金融市場の崩壊を防ぐためにあらゆる手段で買い支えを行う「最後の買い手」(Dealer of last resort)、つまりだれもポジションを取って価値のバックストップを提供しないときに、あえて大量の資産購入を通じて現在の価値の根拠を提供する機能を果たしている。従来の経済学や金融論が見落としてきた金融市場の特質をとらえたユニークな一冊です。

投資家の Jim Rogers (ジム・ロジャース)

クォンタム・ファンドの共同設立者としても知られるアメリカの投資家 Jim Rogers (ジム・ロジャース) は、2020年に『大転換の時代 世界的投資家が予言』を上梓しています。この本では、コロナ禍、バイデン新大統領誕生、米中激突・・・2021年以降の新たな世界と市場について予言しています。

Patri Friedman (パトリ・フリードマン)

経済学者ミルトン・フリードマンの孫である Patri Friedman (パトリ・フリードマン)。日本語の本は出ていないが、2018年に出版された著書『Seasteading: How Floating Nations Will Restore the Environment, Enrich the Poor, Cure the Sick, and Liberate Humanity from Politicians (シーステディング: どのようにして浮遊国家が環境を回復し、貧しい人々を豊かにし、病気を治療し、人類を政治家から解放するのか。)』が有名です。

パトリ・フリードマンは、どこの国にも属さない公海上に人工の島をつくり「独立自由国家」を樹立するプロジェクト Seasteading で知られています。この本では、「示唆に富む未来のビジョン」の中で、Seasteading Institute のジョー・クワークとパトリ・フリードマンは、海洋都市がいかにして私たちの環境、技術、市民の問題の多くを解決できるかを説明し、現在Seasteadingを実現している先見者やパイオニアたちを紹介しています。

英国の経済学者 Kate Raworth (ケイト・ラワース)

脱成長を説く、オックスフォード大学環境変動研究所の講師兼上級客員研究員 Kate Raworth (ケイト・ラワース) は、著書の『ドーナツ経済』で、従来の成長依存から脱却し、限りある地球上の資源の中で、全ての人が幸福に暮らす社会を築き上げることを目標とするという経済モデルを紹介しています。

大阪市立大学准教授の斎藤幸平

トーマス・セドラチェクと白熱の議論を展開した、大阪市立大学准教授の斎藤幸平さんは、2020年に『人新世の「資本論」』を上梓しています。この本では、人類の経済活動が地球を破壊する「人新世」環境危機の時代。

このまま気候変動を放置すれば、この社会は野蛮状態に陥るだろうと予言し、それを阻止するには資本主義の際限なき利潤追求を止めなければならないと説く。
果たしてこの危機を解決させる策はあるのか?ヒントは、著者が発掘した晩期マルクスの思想の中に眠っていた。世界的に注目を浴びる俊英が、豊かな未来社会への道筋を具体的に描きだします。

チェコ共和国の経済学者 Tomas Sedlacek (トーマス・セドラチェク)

番組で白熱の議論を繰り広げた、チェコ共和国の経済学者 Tomas Sedlacek (トーマス・セドラチェク)。2015年の著書『善と悪の経済学』では、2008年のリーマンショックを機に、経済学への信用は失墜した。経済学は、いつから、どのようにして象牙の塔の学問となったのか?失われた信用を取り戻すために、経済学はこれからどこへ向かえばいいのか?チェコ共和国で大統領の経済アドバイザーを務めた気鋭の論客が、神話、哲学、宗教、経済学の文献を渉猟しながら、21世紀の経済学の進むべき道を示しています。

ギリシャ議会議員 Yanis Varoufakis (ヤニス・バルファキス)

ギリシャ議会議員 Yanis Varoufakis (ヤニス・バルファキス) は、2021年に『世界牛魔人ーグローバル・ミノタウロス: 米国、欧州、そして世界経済のゆくえ』と『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』2つの著書が日本で発売されました。

最新作では、「株式市場をぶっ壊せ。21世紀の革命は、いま始まったばかりだ」「公平で正しい民主主義」が実現した2025年にいるもう一人の自分と遭遇した。分岐点は2008年、そうリーマンショックがあった年だ。2011年に「ウォール街を占拠せよ」と叫んだ、強欲な資本家と政治家に対する民衆の抗議活動はほどなく終わったが、「もう一つの世界」では別の発展をたどることになった。資本主義消滅後のパラレルワールドは、はたして新たなユートピアなのか、それとも?衝撃のストーリーが展開される。