現在、金融市場環境は30年以上続いた低金利の時代から高金利の時代に移行しています。ハワード・マークス氏が「Sea Change」というメモを2022年の年末に公開して以降、市場環境が大きく様変わりしています。
その中で低金利環境がもたらした、SPAC、WEB3、NFT、仮想通貨 (memeコイン)、時代遅れになったハイテク企業 … etc のバブルが次々に弾けています。
注目したい点は、全てのバブルが足並みを揃えて崩壊するのではなく、例えば2022年に起こった Sam Bankman-Fried による FTX の米史上最大規模の金融詐欺によってビットコインは早くもそのバブルを崩壊させました。
しかし2023年 ChatGPT など Generative AI の勃興・民主化、戦争や内戦による地政学リスク、基軸通貨ドルの終焉 (ある種の噂) という要因により、ビットコインに関しては既に次にサイクルに向けて移行した動きを見せています。
ビットコインに関しては、ソロスの右腕と言われた Stanley Druckenmiller (スタンレー・ドラッケンミラー)、『Broken Money』の著者で投資アナリスト Lyn Alden (リン・オールデン) 等、著名人が強気である点に注目しています。
ドラッケンミラー氏は、10月下旬にNYで行われたポール・チューダー・ジョーンズとの対談の中で、「金とビットコインについて」について、ビットコインを若者における価値の貯蔵手段と言及しています。
私は70歳で、金を持っている。ビットコインが盛り上がったのには驚いた。若い人たちがビットコインを価値の貯蔵手段として見ているのは明らかだ。
私は金が好きだし、5000年の歴史を持つブランドだ。でも、若い人たちはみんなお金を持っている。だから両方好きなんだ。ぶっちゃけ、ビットコインは持っていないけど、持つべきだね。金は持っている。
SPACバブルの崩壊
2020年に大ブームとなった SPAC 上場した企業に関して、現在までに破綻した企業も多数あり、現在資金難に陥ってる企業の噂も聞こえてきています。一部 SPAC 銘柄、例えば SpaceX のライバル企業 Rocket Lab (ロケットラボ / RKLB)、量子コンピューティングの IoNQ (イオンQ / IONQ) など期待値の高い企業も存在しますが、多くの SPAC 企業がこれまでに株式併合を行うなど上場廃止を間逃れる措置を取っています。
今後は徐々に資金が無くなり、にっちもさっちもいかなくなる企業を増えていくはずです。小型ロケット打上げの宇宙企業 Astra が現在そのような状況だと思います。
【関連記事】宇宙SPACの収益予測はどれ程間違っていたのか?
NFT、WEB3バブル
JUST IN : WORLD’S LARGEST NFT PLATFORM OPENSEA JUST LAID OFF OVER 50% OF ITS EMPLOYEES pic.twitter.com/V7rDznIGDU
— GURGAVIN (@gurgavin) November 3, 2023
一時はブームとなった NFT、WEB3 に関してはもう大分聞かなくなりましたが、2023年11月に入り、NFT最大級のマーケットプレイス OpenSea が50%のレイオフを発表し、バブルの残骸が燃え続けている状況だと思います。
IDEOが25%のリストラ。東京とミュンヘンオフィスは閉じるそう、、、
デザインシンキングの終焉感でてるなhttps://t.co/ssqc1gwxsP
— 小野 直紀|Naoki Ono (@ononaoki) November 4, 2023
この鞘も、恐らくもう閉じていくんだなあ ('ω') https://t.co/EF69ATbHJg
— 小塚崇史@バリュー株投資 安全域を保つ (@keeping_safety) November 5, 2023
他にも生成AIなど時代の流れにより、これまでリードしてきた企業が市場を失う、物事のトレンドが一転しトレンドが終わる、(例えば2023年11月上旬であれば、短期金利、為替、原油) という動きも出てきていると思います。このようにバブルは絶頂を迎え、燃え尽き、灰の中から次のバブルの芽が形成されるのです。
何でもバブルとされる、経済学者小幡績氏の著書『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』の冒頭は次のように始まります。
バブルとは常にバブル・アフターバブルである。これこそがバブルの基本構造であり、バブルの本質である。バブルにおいては、バブルの次にバブルが来て、バブルが崩壊すると、それを救済するためにバブルが作られる。そして、またバブルが崩壊し、そこから立ち直るためには再びバブルが必要となるのである。これを繰り返しているのである。
まずはこのバブルの基本構造をしっかりとおさせる必要があります。
AIは本物の技術革命
一つ謝らなければならないのが、私は今年の5月にAIバブルについての記事「“黄昏の時”、AI (人工知能) バブルに想いを馳せる」を投稿したのですが、この記事は稚拙なものだったと反省しています。
AIに関しては、後にドラッケンミラー、I/Oファンドのリード・テクノロジー・アナリスト Beth Kindig (ベス・キンディグ) 氏が述べているように本物のサイクルかもしれません。世の中、弾けるという点で何でもバブルであると言えると思いますが、バブルにも構造やサイクルがあることを理解する必要があります。
英の金融史家エドワード・チャンセラー氏は、2008年のスーパーバブル金融危機が起こるまでの時間軸と流れを解説しています。その中でチャンセラー氏は、次のように指摘しています。
このスローモーションのような列車事故に気づいていた。それがシステムを通じて伝わるまでには非常に長い時間がかかった。
つまり、何でもバブルと言うことは誰にもできるのですが、ではそのバブルはいつ弾けるのか?という質問に答えられる人はいないのです。バブルの構造に関しては、ベネズエラの経済学者カルロタ・ペレスの著書『技術革命と金融資本:バブルと黄金時代の力学』で詳しく語られていますが、技術革命の歴史、技術革命が起こる際のパターンなどを学ぶ必要があると思います。
総じて言うと、はI/Oファンドのリード・テクノロジー・アナリスト Beth Kindig (ベス・キンディグ) 氏が述べているように、AIは正にカンブリア紀に入ったということです。
AIや、私がエクスポネンシャル・エイジと呼ぶこれらのテクノロジーは、AIがほぼ基礎層となり、その上にすべてが構築されるこのネクサスは、カンブリア紀の瞬間だと思う。
今進行しているAIの世代は、原子の分裂と並んで、私たちがこれまでに経験したことのない大きなブレークスルーです。このような無限の知識を創造することは、私たちがまだ理解できないことであり、すべてのことに結びついている。
人々はそれをチャットボットやいくつかのものと考えていますが、そうではありません。それは文字通り、私たちの世界を動かしていくものなのです。
カルロタ・ペレスは、産業革命以降に起こった技術革命を次のように記載しています、ここに新たに以降に起こった技術革命「モバイル」、「インターネット」、「AI」を追加すると次のようになると思います。
・産業革命 (1771年)
・蒸気機関車と鉄道の時代 (1829年)
・鉄鋼と重工業の時代 (1875年)
・石油、自動車、大量生産の時代 (1908年)
・情報・通信の時代 (1971年)
NEW!
・モバイル通信とインターネットの時代 (1990年〜2000年くらい)
・AIと自動化の時代 (2020年〜 )
・モバイル通信とインターネットの時代
1990年代後半〜2000年代にかけて、インターネットの商業化とモバイル通信の普及が進みました。インターネットは情報のアクセス性を劇的に向上させ、モバイルデバイスは人々の生活に常時接続の利便性をもたらしました。この時代は、デジタル経済の基盤を形成し、eコマース、ソーシャルメディア、クラウドコンピューティングなどが登場しました。
この流れを受けて、例えばソーシャルゲーム会社の Zynga (ジンガ) などがその恩恵を受けましたが、今は見る影もなく「モバイル・ゲーム」などはバブルが既に崩壊している訳です。
・AIと自動化の時代
一方、2010年代以降、AI技術の進化が加速し、ディープラーニングや機械学習の応用が多様な分野で見られるようになりました。自動運転車、スマートアシスタント、個人化された広告、ロボティクス、アルゴリズムによる意思決定支援など、AIは産業や日常生活のさまざまな側面に影響を与えています。
2023年の ChatGPT の登場、その後の生成AIの勃興はAIの民主化であり、ゲームチャンジャー、カルロタ・ペレスが述べている「技術革命」の導入期にあたるのではないか、と思います。
AI が恩恵をもたらすとされる分野は多岐にわたる
そして AI が恩恵をもたらすとされる分野にも順番があるようです。AIの本命企業と言えば、Nvida、マイクロソフトということは既にご存知だと思いますが、AI にも様々な分野があります。
・AI半導体
AIは半導体設計の最適化、製造プロセスの改善、およびチップの性能向上に貢献しています。NVIDIAはGPUを中心にAI計算の高速化を牽引しており、AIアルゴリズムの実行に必要な高い計算能力を提供しています。
・合成生物学
AIは、遺伝子配列の解析、新しい生物学的経路の設計、薬物開発などに利用されています。大量の生物学的データから有用な情報を抽出し、新しい生物学的製品の開発を加速させることができます。
【関連記事】AIと合成生物学の波がいかに世界を変貌させ、新たなリスクをもたらすのか?
・サイバーセキュリティ
AIは、不正アクセスの検出、マルウェアの同定、セキュリティインシデントの予測などに活用されています。マイクロソフトは、その広範なクラウドサービスと組み合わせて、AIを使ったセキュリティソリューションを提供しています。
・ロボティクス
AIは、ロボットの自律性を高め、より複雑なタスクの実行を可能にしています。工業用ロボットからサービスロボットまで、AIによる学習と環境適応能力がロボティクスの進化を推進しています。
・データ
データ分析はAIの最も一般的な応用の一つであり、ビッグデータからの洞察の抽出、予測分析、顧客行動の理解などに利用されています。AIは、データを価値ある情報に変換することで、ビジネスの意思決定を支援しています。
AIが各分野に恩恵をもたらす順番
「AI半導体」に関しては、既に恩恵を受けており最もホットな分野だと思います。次に注目したいのが、生成AIブームの裏で急増しているサイバー攻撃を防御するための「サイバーセキュリティ」企業です。ベス・キンディグ氏は、サイバーセキュリティは2024年の重要なテーマになると予測しています。
一方で、「ロボティクス」に関しては時期尚早とし、「データ」に関しては、
特に機械学習モデルに不可欠なデータ・タイプの多様化に伴い、その将来的な重要性に疑いの余地はない。しかし Snowflake、Confluent、MongoDB のような企業を見ると、その重要な瞬間はまだ見えてこない。それは、AIが大手ハイテク企業の領域を超えて拡大したときに初めて明らかになるかもしれない。
という意見を述べています。先日 Confluent が第三四半期の決算後に-44%下落しました。売上が伸び悩んだことなどがその要因のようですが、これらの企業も AI の発展と共に恩恵を受ける順番がくるものだと思います。
$CFLT What if?
*Data in motion is real!
*Confluent is the leader!
*The customer who shifted to on-prem really did it for some cost savings best known to them.
*Israel is a top 10 customer.
*Data & cloud continue to grow.Then the shares I bought at $15 was a gift 🎁 pic.twitter.com/4Yb99xXIsc
— ronjonbSaaS (@ronjonbSaaS) November 2, 2023