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『習慣と脳の科学』習慣はどのように形成されるのか?

同じような日々、習慣 (ルーティン) から抜け出す思考

私たちは気づかぬうちに、記号のように同じような日々を繰り返してしまう傾向があります。これは習慣、ルーチンと呼ばれるもので、人が考えないで済むようにするものです。私もここ数年、同じようなことを繰り返して、気付けば歳だけ取っている … ということを痛感しています。流石にこの日常、繰り返しから少し変化を付けたいと思い、一冊の本を手に取りました。

習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか

それがラッセル・A・ポルドラック氏の著書『習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか』です。この本は、習慣と脳の科学について紹介しています。本書を参考に、私たちが知らず知らずのうちに習慣 (ルーティン) 化し、日常という名の海に如何にして溺れてしまうのか?について見てみたいと思います。

習慣とは?

まず、習慣とは何なのか?ということを理解する必要があります。「習慣」とは、一般的には、我々が自動的に行う、反復的な行動やルーチンを指します。これらの行動は、時間と共に我々の行動パターンの一部となり、意識的な思考や意志決定を必要としなくなります。

アメリカの哲学者、心理学者のウィリアム・ジェームズは、習慣を「私たちが考えなくても済むように自動化されたルーチン」と定義しました。これは、私たちが日常生活を効率的に過ごすために必要な概念です。

もし私たちが毎日のすべての行動について深く考えなければならないなら、それは非常に時間とエネルギーを消費することになります。例えば、朝にコーヒーマシンのスイッチを入れる行動は、多くの人にとっては習慣的な行動です。

これは、私たちが毎日同じ行動を繰り返すことによって、その行動が自動化され、意識的な思考を必要としなくなる例です。このような習慣的な行動は、私たちが日常生活をスムーズに過ごすために大切なものです。

一方で、この習慣という概念 = 「考えなくても済むように自動化されたルーチン」をしっかりと理解しておかないと、私たちの日々の生活が、習慣の中に埋もれてしまう … という事態が起こります。

日常生活を効率的に過ごすための重要なメカニズム

習慣は、一貫性のある環境や行動に対する私たちの反応を自動化することで、日常生活を効率的に過ごすための重要なメカニズムです。これは、私たちが一貫性のある環境や行動に対して反応するたびに、その反応が強化され、最終的には意識的な思考を必要としないほど自動化されるというプロセスを通じて行われます。

たとえば、車の運転は一般的に習慣化された行動の一つです。車のペダルの効き方は一貫しているため、私たちはそれに対する反応を自動化します。しかし、毎日の駐車場のスペースは、状況によって変化するため、これに対する反応は自動化されません。

このように習慣は、反復的な行動が自動化されることで形成されます。これは、日常生活を効率的に過ごすために重要なメカニズムですが、同時に、私たちが同じルーチンを繰り返すことで、新しい経験や視点を見逃す可能性もあります。

したがって、日々のルーチンに違和感を感じたら、それは習慣を見直す良い機会かもしれません。自分がどの行動を習慣化しているのかを認識し、それらの行動が自分の目標や価値観と一致しているかを評価することから始めることができます。

そして、必要であれば、新しい習慣を形成したり、古い習慣を打破したりすることで、自分の行動をより意識的にコントロールすることができます。これは、自分の生活を自分自身の手に取り戻すための重要なステップです。

習慣化された行動

習慣化された行動は、意識的な記憶とは異なる脳のシステムによって管理されます。これは、我々が習慣化された行動を行ったことを必ずしも覚えていない理由です。

たとえば、ドアに鍵をかける行動はしばしば習慣化され、我々はそれを行ったことを覚えていないことがあります。これは、その行動が自動化され、意識的な思考を必要としなくなったためです。

「目的指向型行動」と「習慣行動」

何が習慣で、何が習慣でないのか?を探求しましょう。私たちは、初めて何かをするとき、通常特定の目標を達成するために行動します。これを「目的指向型行動」と呼びます。

しかし、行動が繰り返されると、それは徐々に自動化され、目標から切り離されることがあります。これが「習慣行動」です。習慣行動は、報酬がなくなったり、目標が変わったりしても続くことがあります。

これは、習慣が神経レベルで自動化され、意識的な思考や意志の力を必要としないためです。これは、習慣が持続する一因となります。つまり、新しい習慣を形成するには、目的指向型行動を繰り返し行うことが必要です。

一方、不健康な習慣を変えるには、その習慣行動を意識的に認識し、新しい目的指向型行動に置き換えることが必要になります。このことからも、しっかりと「目的指向型行動」と「習慣行動」の違いを認識する必要があります。

習慣の粘着性

習慣は「粘着性」があり、一度形成されると容易には変わらないという特性があります。これは、習慣が私たちの行動パターンの深い部分に根ざしているためで、これは進化の結果として形成されたものです。

私たちの祖先は、環境が比較的安定していて、一度学んだ行動が長期間有効であった時代に生きていました。そのため、一度学んだ行動を繰り返すこと、つまり習慣を形成することが生存に有利だったのです。

これは、新しい行動を学ぶためのエネルギーや時間を節約し、既知の行動を効率的に行うことを可能にしました。しかし、現代の世界では、環境や技術が急速に変化し、古い習慣がもはや有効でない、または有害であることがしばしばあります。

このような状況では、習慣の「粘着性」が問題となることがあります。それでも、習慣を変えることは可能です。それには意識的な努力と時間が必要ですが、新しい習慣を形成し、古い習慣を置き換えることは可能です。

ドーパミンは習慣形成において重要な役割を果たす

ドーパミンは習慣形成において重要な役割を果たしています。これは、ドーパミンが報酬予測誤差の信号として機能し、私たちが予想外の報酬を得たときに学習を促進するからです。

このプロセスは、私たちが新しい行動を学習し、それを繰り返す動機を持つための基礎となります。たとえば、ある行動をした結果として予想外の報酬を得たとき、ドーパミンが放出されます。

これにより、その行動と報酬の間の関連性が強化され、その行動を再度行う動機が生まれます。これが繰り返されると、その行動は習慣となります。

また、ドーパミンは予測と期待にも関与しています。私たちが報酬を予測すると、ドーパミンが放出され、その報酬に向かって行動する動機が生まれます。

例えば、私たちが好きな食べ物を見たときに食べることに対する欲求が生まれるメカニズムと同じです。このように、ドーパミンは私たちの行動を報酬に向けて動機づけ、その行動を繰り返すことで習慣を形成するのに重要な役割を果たしています。

これは、ドーパミンが「神経伝達物質のキム・カーダシアン」と呼ばれる理由の一つかもしれません。つまり、ドーパミンは私たちの行動、学習、動機づけ、そして習慣形成において非常に重要で、その影響力は広範で深遠です。

ドーパミンは行動選択と学習にどのように関与しているのか?

ドーパミンは行動選択と学習にどのように関与しているのか?

ドーパミンが我々の行動選択と学習にどのように関与しているのでしょうか?大脳皮質から大脳基底核への神経回路は、我々が行動を選択する際の重要な役割を果たしています。これらの神経回路は、互いに競争する形で働き、特定の行動が選択されます。

たとえば、あなたが述べたように、分かれ道に立って左に行くか右に行くかを選ぶとき、それぞれの選択を推奨する神経細胞が競争します。そして、一方の選択が勝つと、その選択を強化するためにドーパミンが分泌されます。

ドーパミンが分泌されると、それが影響を受ける神経細胞のつながりが強化されます。これは、神経細胞が同時に発火することで起こります。このプロセスは、我々が新しい行動を学習し、それを繰り返す動機を持つための基礎となります。これは、ドーパミンが「報酬予測誤差」の信号として機能し、我々が予想外の報酬を得たときに学習を促進するという考え方と一致します。

ドーパミンは単に、快楽ホルモンではない

ドーパミンは単に、快楽ホルモンではない

ドーパミンが単に「快楽ホルモン」ではありません。ドーパミンは、快楽だけでなく、報酬への動機付けや期待にも関与しています。神経科学者ケント・ベリッジ教授の研究は、ドーパミンが「好き (快楽)」と「欲しい (欲求)」の間の区別を可能にするという重要な視点を提供しています。

例えば、ラットにドーパミンの働きを抑える薬を投与すると、ラットは快楽を感じる能力を失わないことが判明します。これは、ラットの外見的な喜びのサインを観察すればわかることです。

ドーパミンの働きが低下しても、ラットは外見上、喜びを感じることができるのですが、食べ物を得るために働くことはありません。好きなものを手に入れるのが難しければ、それをやらず、どこかカウチポテトのようになってしまうのです。

ドーパミンの活動が抑制されると、ラットは依然として快楽を感じることができますが、報酬 (この場合は食べ物) を得るための動機付けが失われます。これは、ドーパミンが行動を駆動する力であり、私たちが目標に向かって行動する意欲を維持する役割を果たしているからです。

このように、ドーパミンは単に快楽を生み出すだけでなく、私たちが目標を追求するための動機付けを提供する重要な役割を果たしています。ドーパミンが「欲しい」ことと「好き」なことの間の区別を可能にするという観点から、その役割を理解することが重要です。

ドーパミンは「欲しい」という感覚を生み出す

ドーパミンは、報酬への欲求や動機づけにおいて中心的な役割を果たしています。これは、ドーパミンが依存症のメカニズムに深く関与している理由の一つです。

依存症になった人々は、しばしば物質を摂取することで得られる快楽そのものよりも、物質を摂取しないと生じる不快な離脱症状を避けるため、または物質を摂取することによる欲求を満たすために物質を摂取します。これは、物質がドーパミンシステムに影響を与え、物質を摂取することによる強い欲求や動機づけを生み出すためです。

以上のように、ドーパミンは「欲しい」という感覚を生み出し、我々が行動を起こす動機を提供します。これは、依存症のメカニズムにおいて重要な役割を果たしています。

ドーパミンは「欲しい」という感覚や報酬に対する期待感を生み出す神経伝達物質です。ドーパミンが放出されると、私たちは何かを追求したいと感じ、それによって行動を起こします。このメカニズムは、私たちが食物を探す、新しい情報を得る、社会的な関係を築くなど、生存に必要な行動をとるための原動力となっています。

しかし、現代の生活環境や物質の摂取、特定の行動などによって、このドーパミンシステムが過剰に刺激されることがあります。例えば、薬物やアルコール、ギャンブル、インターネットの使用などがドーパミンの放出を促進することが知られています。これにより、人々はこれらの行動や物質を摂取することで得られる一時的な快楽や報酬を追求するようになります。

依存症になった人々は、物質や行動によってドーパミンが放出されることに慣れてしまい、それがないと不快な離脱症状を感じるようになります。このため、物質や行動を摂取・実行することで、一時的に離脱症状を和らげることができます。しかし、これは一時的な解決策に過ぎず、長期的には依存症を悪化させる原因となります。

ドーパミンは私たちの行動や欲求を制御する重要な役割を果たしていますが、そのバランスが崩れると依存症などの問題が生じる可能性があります。依存症の予防や治療には、ドーパミンシステムの正常な機能を回復することが重要です。

アディクション (強烈な依存や中毒状態が生じること) とは?

アディクション (依存症や中毒) は、単なる習慣以上のものです。習慣は、特定の行動を反復的に行う傾向を指しますが、アディクションはそれ以上の深刻さを持ちます。

アディクションは、物質 (薬物やアルコールなど) や行動 (ギャンブルやインターネット使用など) に対する強迫的な欲求を伴います。これは通常、その物質や行動がもたらす快感や安心感、または不快な感情や身体的な不快感を避けるために引き起こされます。

アディクションは、脳の報酬システムに深刻な変化を引き起こします。特に、ドーパミンという神経伝達物質が重要な役割を果たします。ドーパミンは、報酬や快楽を感じるために必要な物質で、物質や行動に依存すると、脳はその物質や行動を経験するたびにドーパミンを放出します。

これにより、その物質や行動に対する強迫的な欲求が生じます。しかし、時間とともに、脳はその物質や行動に対する反応を調整し、同じ量の物質や行動では以前と同じレベルのドーパミン放出が得られなくなります。

これは「耐性」の発達と呼ばれ、これにより、人々は以前と同じレベルの快感を得るために、より多くの物質を摂取したり、より頻繁に行動を行ったりする必要があります。これがアディクションの「スパイラル」を形成します。

したがって、アディクションは単なる習慣以上のものであり、脳の報酬システムに深刻な変化を引き起こす可能性があります。これは専門的な治療とサポートを必要とする深刻な医療問題であり、単なる意志の問題ではありません。

習慣を変えるの難しい

ここで再びふりだしに戻ってしまうのですが、習慣を変えるの難しいのです。現代社会では、我々は自然の進化が予測した以上に強力な報酬を経験する機会が増えています。

薬物、過食、デジタルメディアなどは、脳の報酬システムを過剰に刺激し、ドーパミンの分泌を増加させることができます。これらの強力な報酬は、新しい習慣を形成しやすくしますが、それらを変えるのは難しくなります。

これらの行動が強力な即時的な報酬を提供するため、脳はそれらを繰り返すことを強く動機づけられます。しかし、これらの行動は長期的には健康や幸福に悪影響を及ぼす可能性があります。

以上のように習慣を変えるためには、強力な即時的な報酬に対抗するような新しい報酬を見つけるか、または環境を変えてこれらの報酬へのアクセスを制限する必要があります。

習慣がいかに無意識的なものなのかを認識する

習慣を定着させる要因のひとつに、習慣がいかに無意識的なものになるかがあります。習慣に没頭しているときは、そのことをまったく意識していないことが多いので、それを止めるのは非常に困難です。習慣を洞察することは、難しい課題です。

習慣は、反復的な行動パターンを形成する過程で、しだいに自動化され、意識的な思考を必要としなくなります。これは、習慣が形成される主な理由の一つであり、それが習慣を変えることを難しくしています。

習慣を変えるためには、まずその習慣を認識し、それが自分の生活にどのように影響を与えているかを理解する必要があります。これには、自己観察や自己反省を通じて行うことができます。

次に、新しい習慣を形成するためには、新しい行動を反復的に行うことが必要です。これは、新しい行動が自動化され、新しい習慣が形成されるまで続ける忍耐力が必要です。

この過程は時間と努力を必要としますが、新しい習慣が形成されると、それは以前の習慣と同じように自動的に行われるようになります。

また、環境を変えることも有効な方法です。環境は、我々の行動に大きな影響を与えます。習慣を変えるためには、その習慣を引き起こす環境を変えることが最も有効です。

まとめ : 習慣化された日常から抜け出すには?

以上のように、私たちが日々知らず識らずのうちに行っているであろう、習慣、ルーチンのメカニズムについて見てきました。同じような日々にウンザリしてしまっている … という人は、まずはそのことに気付き、思考することがスタート地点になります。そしたら次のステップでルーチンから抜け出しましょう。

・自己認識
まずは、自分の習慣化されたルーチンを認識する。

・日常にノイズを加える
いつもとは違うカフェに入ってみる、いつもとは違う道で帰る、など、これまでの自分では考えられなかった、ちょっとしたノイズを加えてみましょう。

・環境の変更
習慣はしばしば特定の環境に結びついています。その環境を変えることで、習慣のトリガーを除去することができます。例えば、毎晩テレビを見る習慣を断ち切りたい場合、リモコンを見えない場所に置くなどして、その習慣を引き起こす環境を変えることができます。

・新しい習慣の形成
古い習慣を打破する最善の方法の一つは、新しい習慣を形成することです。新しい習慣は、古い習慣と競合することで、古い習慣を置き換えることができます。

・報酬の再評価
習慣は報酬によって強化されます。その報酬を再評価し、それが本当に価値があるものなのかを考えることで、習慣を変える動機を見つけることができます。

習慣の変更は自己認識、思考、時間と努力を必要とするため、自分自身に対して忍耐強く、寛大であることが重要です。

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