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FDA承認された後のバイオ株トレードについて

FDA承認された後のバイオ株トレードについて

今回はFDA承認された後の臨床段階のバイオ株トレードについて、2024年1月にFDA承認された Heron Therapeutics と、同年2月にFDA承認された Iovance Biotherapeutics、2023年にFDA承認されその後に大手製薬会社に買収された ImmunoGen の例を元に考えてみたいと思います。

私がロングしているバイオ企業で、Heron Therapeutics (HRTX) という企業があります。同社のパイプラインである ZYNRELEF® (ジンレフ) が2024年1月23日にFDA承認されました。

これにより ZYNRELEF は、軟部組織および整形外科手術手順、特に足と足首の手術、および関節軟骨に直接触れないその他の手順に使用できるようになりました。

しかしFDA承認されても株価は21%ぐらい上昇しました。株価はその後FDA承認を織り込み利食いされた後、再び小幅に上昇しています。一方で、IOVA は2024年2月16日のマーケット終わりに、FDAの早期承認され株価はアフターで34%上昇し、投資家は Iovance Biotherapeutics の話題で持ちきりとなりました。

比べる対象がかなり異なりますが、参考として Heron Therapeutics と Iovance Biotherapeutics のFDA承認を比較しますと、Heron Therapeutics の場合は、Zynrelef の市場規模、アンメットニーズや市場規模が小さいこと、FDA承認は投資家の期待を既に株価に織り込んでいたこと、同社の財務状況や将来の収益性などの不確実要素がまだ多いことから、FDA 承認で株価は21%くらい上昇したものの、静かなイベントだったと思います。

一方の Iovance Biotherapeutics は、FDA早期承認されたことにより、マーケット後のアフター取引で急騰、同社には伝説のバイオ投資家ウェイン・ロスバウムが株式を買い占めるなど、既に何年も前から一部で話題となっていました。

バイオ株伝説の投資家ウェイン・ロスバウムとアイオワンス・バイオセラピューティクスの物語

Iovance Biotherapeutics の「AMTAGVI™(lifileucel)」は、FDAが承認した固形がんに対する初のT細胞療法、抗PD-1および標的治療後の進行メラノーマに対する最初の治療選択肢となります。

AMTAGVI の生物製剤承認申請(BLA)はFDAにより審査され、PDUFA (Prescription Drug User Fee Act:処方薬ユーザーフィー法) の目標措置日は2024年2月24日でありましたが、PDUFA 期限前に早期承認されたことは、この治療法の可能性と、重要なニーズに対する治療を迅速に行うというFDAのコミットメントを強調するものです。

自動車会社が組立ラインから最初の車を送り出すようなもの

Iovance Biotherapeutics に投資しているバイオ分野に優れた投資家は、同社について次のように評価します。

自動車会社のようなものだと考えてほしい。最初の車は作るのに何年もかかるが、その後はずっと簡単になる。Iovance Biotherapeutics は基本的にTIL (腫瘍浸潤性リンパ球) 療法を独占している。患者一人当たり515,000ドルです。この承認はアメリカでのものだ。次はEUやその他の国々だ。しかし、もっと簡単になるだろう。

これは2023年11月中旬に、イギリスで CRISPR によるゲノム編集治療「CASGEVY」が英国で承認され、その後同年12月に米国でも承認されたことにも繋がると思います。

AMTAGVI の商業展開については、30施設が上市に向けて準備中とのことです。有効性、耐久性、強力な価格戦略  (1治療あたり51万5000ドル) が、前向きな見通しを支えています。このような観点から、FDA承認されれば後は楽になるというようなニュアンスだと思います。

AMTAGVI のポテンシャル

AMTAGVI が10万人の候補者のうちわずか1,000人で、年間5億ドルを生み出す可能性がある。1回の治療あたりの価格を515,000ドルと仮定すると、5%の市場浸透を達成すれば、進行メラノーマだけで年間約25億ドルの収益の可能性がある。

更に同社は、子宮頸がんへの拡大も進めており、子宮頸がんが承認されれば、治療ポートフォリオに子宮頸がんを追加することで、少なくともさらに5億ドルの収益増が見込まれ、年間約30億ドルの可能性がある。この拡大は、アイオバンス社の市場での地位と財務の安定性を著しく高めることになる。

Iovance Biotherapeutics の AMTAGVI 評価要素

・早期FDA承認
・アンメットニーズの高い領域で希少な完全自社所有のがん治療薬として位置づけ
・ファーストライン(1L)治療への拡大の可能性
・大手製薬企業にとって買収や提携の可能性のある魅力的なターゲット
・商業展開の準備中
・強力な価格戦略 (1治療あたり51万5000ドル)

AMTAGVI のFDA承認は Iovance Biotherapeutics にとって重要なマイルストーンであり、メラノーマの治療状況に大きな影響を与える可能性がある。商業上市の成功に向けた準備が整っていることと、完全所有資産としての AMTAGVI の戦略的価値が相まって、Iovance Biotherapeutics は将来の成長や提携・買収の可能性に向けて有利な立場にある。

Iovance Biotherapeutics、2024年のマイルストーン

Iovance Biotherapeutics が2024年2月16日にアップした資料によると、2024年のマイルストーンが次のように紹介されています。

規制
✅ 進行性メラノーマに対するリフィリューセルのFDA承認取得(PDUFA date: 2024年2月24日)
– EMA承認申請書類の提出(上半期:2024年2月24日)
– 米国外申請書類の追加提出(下半期24)
– NSCLCの登録パス/フロントライン試験についてFDAと協議

パイプライン
– 臨床データおよび前臨床データの報告
– IOV-LUN-202の登録再開
– 子宮内膜がんを対象としたフェーズ2試験を開始
– 進行メラノーマ、NSCLC、婦人科がんを対象とした臨床試験への患者登録の継続
– 遺伝子組換えTIL療法の追加など、新製品を臨床に向けて前進させる

製造
– 上市および臨床試験に対する患者の需要を満たす
– 米国および米国外の需要に対応するため、生産能力をさらに拡大

商業
– 商業販売開始(1Q24)
– PDUFA発行日から90日以内に50のATCを導入

買収の可能性

このような大きな収益の可能性と先駆的なT細胞治療プラットフォームにより、アイオバンスは魅力的な買収候補となる。大手製薬会社、特に輸液センターのような既存のインフラを持つ製薬会社は、Iovance Biotherapeutics の技術とパイプラインを活用し、がん領域のポートフォリオを強化することができる。

2023年に AbbVie (アヴィ / ABBV) に買収された ImmunoGen (イミュノジェン / IMGN) も似たような流れで買収されました。がん領域と個別化医療に戦略的な重点を置く企業は、アイオバンス社の技術と製品パイプラインに特に魅力を感じる可能性があります。

固形がんに対する斬新な治療法を提供できることは、急速に進化するがん治療の状況において競争力をもたらします。

ImmunoGen の買収から学ぶ

ImmunoGen (イミュノジェン / IMGN) 買収までの流れ

Iovance Biotherapeutics がFDAから AMTAGVI™ (lifileucel) の承認を受け、その結果として大手製薬会社による買収の可能性が高まっている状況は、2023年に AbbVie によって買収された ImmunoGen のケースと比較することができます。

両社ともに、革新的ながん治療薬の開発において重要なマイルストーンを達成しており、FDA承認、パイプラインの充実度、および市場でのポジショニングの面で特徴があります。

ImmunoGen は、特定の再発性または難治性の卵巣がんを対象とした ADC (抗体薬物複合体) である Elahere の開発で注目されました。Elahere は、特定の患者群に対する新たな治療選択肢として、2023年にFDAの承認を受けました。

その半年後くらいに AbbVie によって買収されています。つまり、素晴らしい市場やニーズを持つパイプラインがFDA承認されると、今度は大手製薬会社からの買収への期待が高まる訳です。

まとめ

Heron Therapeutics のパイプライン ZYNRELEF のFDA承認は素晴らしいものですが、市場規模や同社の財務事情、収益の観点から、一旦はある種材料の出尽くしであり、今から Heron Therapeutics を買いに入っても、あまりアップサイドは期待しにくいのかもしれません。今後収益が上がることが確認されれば注目を集めるのかもしれませんが。

一方の Iovance Biotherapeutics は AMTAGVI がFDA承認されたことで、ImmunoGen と似たような経緯を辿る可能性があり、ここから第二ラウンドが期待できるのかもしれません。

このようにパイプラインの市場規模、アンメットニーズなどにより、FDA承認された後のバイオ株トレードにはいくつもの物語があります。材料が出尽くしになるもの、第二ラウンドへと向かうもの … この点は、過去にFDA承認後にどのような経過を辿ったのか?というのを辛抱強く観察必要があるでしょう。