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ADC (抗体薬物複合体) を手掛ける注目のオンコロジー企業について

期待のオンコロジー・バイオ企業の近況

2023年の後半あたりから、バイオテクノロジーの分野では「ADC」というワードを頻繁に目にするようになりました。このACDとは、抗体薬物複合体のことで、抗体 (antibody)、薬物 (Drug)、複合体 (conjugate) の略からきており、抗体に薬物を結合させたバイオ医療品のことです。

ADC (抗体薬物複合体) は、化学療法の腫瘍細胞殺傷能力と合成抗体の標的化技術を組み合わせたものです。組み合わされた薬剤ががん細胞と結合すると、化学リンカーが細胞内に毒素を放出し、周囲の健康な組織への影響は免れる。この分野は数十年前より研究されており、近年その成果が報告されています。

WIRED の最新号 Vol.51『THE WORLD IN 2024』では、新型コロナウイルスのmRNAワクチンを開発したドイツのバイオテクノロジー企業 BioNTech の共同創業者の2人ウール・シャヒンとオズレム・テュレジによる特集記事「がん細胞を“狙い撃つ”抗体薬物複合体(ADC)の開発が進む」で、ADCが取り上げられています。

がん治療の新しいアプローチ「抗体薬物複合体 (ADC)」

WIRED の記事では、がん治療の新しいアプローチとして「抗体薬物複合体(ADC)」の開発に焦点が当てられています。ADCは、モノクローナル抗体の標的認識能力と細胞傷害性抗がん薬のがん殺傷能力を組み合わせたものです。

この技術により、薬剤が直接がん細胞に届けられ、細胞を内部から破壊します。ADCは、標的とするがん細胞に取り込まれて初めて毒素を放出するよう設計されており、隣接するがん細胞も死滅させる能力があることが臨床試験で明らかになっています。

オンコロジーは市場規模が大きい

このグラフは、2028年の治療領域(TA)別世界医薬品支出を紹介しています。バイオテクノロジーへの投資を検討する際、投資家はしばしば特定の治療領域における現在の市場規模とその成長率の予測値の両方に注目します。

このグラフは、腫瘍学、免疫学、糖尿病、中枢神経系、心血管系など様々な治療領域における支出に関するデータを提供しています。例えば、オンコロジーは、市場規模が大きいことを示す高い支出レベルを示しており、成長率も比較的高いことから、その規模と成長性の両方から、投資対象として特に魅力的な分野であることが分かる。

バイオ企業の巨人が次々に抗体薬物複合体(ADC)分野参入

この癌治療薬への抗体薬物複合体(ADC)分野には、昨今バイオ企業の巨人である、Pfizer (ファイザー / PFE)、AstraZeneca (アストラゼネカ / AZN)、Gilead (ギリアド / GILD)、Bristol Myers (ブリストル・マイヤーズ / BMY)、Eli Lilly (イーライリリー / LLY)、Merck (メルク / MRK) などが続々と参入しています。

– Pfizer は、ADC分野のパイオニアである Seagen を430億ドルで買収することに合意しました。

– AstraZeneca は、2019年に Daiichi Sankyo (第一三共株) に10億ドル以上を前払いし、追加で56億ドルの支払いを約束して、「Enhertu」となる薬の権利を獲得しました。この取引は、35億ドルの株式公開で資金調達。

– Gilead は、Immunomedics を210億ドルで買収し、そのADCである「Trodelvy」を手に入れました。

– Bristol Myers は、2021年に Eisai (エーザイ) から、葉酸受容体アルファ陽性の腫瘍(子宮内膜がん、卵巣がん、肺がん、乳がんなど)に対するADCの権利を6億5000万ドルで獲得しました。

– Eli Lilly は、ADCパイプラインを持つドイツのバイオテク企業 Emergence を買収し、フランスのADC開発企業 Mablink Bioscience を買収しました。

– Merckは、Daiichi Sankyo とのがん薬に関する広範な提携を行い、最初の2年間で55億ドルを支払うことに合意しました。この取引の総額は、すべての販売マイルストーンが達成された場合、最大220億ドルに達する可能性があります。

また、mRNAワクチンの開発で有名になったドイツの BioNTech (バイオエヌテック) は、2023年初めに、2つのADCの権利について中国の Duality Biologics と1億7000万ドルの前払い契約を結んでいる。

Stifel によると、オンコロジー領域が大手製薬企業のM&Aを大きくリードしている。

ADCの開発を手掛けるバイオ企業のM&Aが活発

例えば、昨年末に AbbVie (アヴィ / ABBV) に買収された ImmunoGen (イミュノジェン / IMGN) は商業段階のバイオテクノロジー企業です。

ImmunoGen (イミュノジェン / IMGN) 買収までの流れ

ImmunoGen は、癌患者の転帰を改善するための抗体薬物複合体 (ADC) の開発と商品化に注力しています。同社の技術を用いた ADC は、腫瘍細胞上のターゲットに結合する抗体と、ADC がターゲットに結合した後に腫瘍細胞を死滅させるペイロードとして強力な抗癌剤の1つとが結合したものです。

ImmunoGen の主要なパイプライン「ELAHERE(Mirvetuximab Soravtansine)」は、卵巣癌、子宮内膜癌、非小細胞肺癌などの多くの上皮性腫瘍で過剰発現する細胞表面タンパク質である葉酸受容体α(FRα)を標的とするファーストインクラスADCです。

抗体薬物複合体(ADC)の開発に携わるバイオ医薬品企業、株価の推移

こちらのグラフは、抗体薬物複合体(ADC)の開発に携わるバイオ医薬品企業の3ヶ月間の株価変動率が示されています。

– ImmunoGen (IMGN) → AbbVie が101億ドルで買収することで合意した
– Sutro Biopharma (STRO)
– Zymeworks (ZYME)
– Mersana Therapeutics (MRSN)
– MacroGenics (MGNX)
– Elevation Oncology (ELEV)
– Ambrx Biopharma (AMAM) → J&Jが20億ドルで買収、がん標的療法取り込み
– Corbus Pharmaceuticals (CRBP) → 新しい初期のADCデータ発表
– ADC Therapeutics (ADCT)
– BioAtla (BCAB)

これらの企業は主にバイオテクノロジーと製薬部門に携わっており、腫瘍学や抗体薬物複合体(ADC)を含む様々な治療分野に重点を置いている。

更に、この ADC のトレンドと、注目のオンコロジー・バイオ企業 Gilead Sciences (ギリアド・サイエンシズ / GILD)、Arcellx (アーセルクス / ACLX)、Elevation Oncology (エレベーション・オンコロジー / ELEV)、Kura Oncology (クラ・オンコロジー / KURA)、Corbus Pharmaceuticals (コーバス・ファーマシューティカルズ / CRBP) の近況についてレポートします。

ギリアドのNSCLC治療薬トロデルヴィの臨床試験、主要評価項目を達成できず

2024年1月23日に発表された、ギリアドのNSCLC治療薬トロデルヴィの臨床試験、主要評価項目を達成できず。本薬剤の忍容性は良好であり、安全性プロファイルは過去の試験で報告されたものと同等であることが確認された。

ギリアド・サイエンシズは、転移性非小細胞肺がん(NSCLC)を対象とした Trodelvy (トロデルヴィ / サシツズマブ・ゴビテカン-hziy;SG) の第III相 EVOKE-01 試験が主要評価項目を達成できなかったと報告した。

この多施設共同非盲検試験は、プラチナ製剤ベースの化学療法とチェックポイント阻害薬による治療を受けた後に病勢が進行した、前治療歴のある進行NSCLC患者を対象に、ドセタキセルに対する本療法を評価したものである。

この状況を見て、バイオ投資に精通した投資家の間では、CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)治療領域におけるギリアドとアーセルクスとの提携の重要性が高まったと述べている。このことから、ギリアドの戦略的な動きとしてM&Aにつながる可能性についても触れている。

エレベーション・オンコロジー、ADCの波に乗る!今年半ばには新データを発表

Elevation Oncology (エレベーション・オンコロジー / ELEV) は、標的がん治療の一種であるADC(抗体薬物複合体)への関心が高まっており、今年半ばに新たなデータが発表される予定です。

そういった背景もあってか、2024年1月22日にバイオテクに精通したファンド LOGOS が新たに 3,650,000 株(約 814 万ドル)を取得しており、同ファンドもこの新たなデータに向けた dip ではないかと思われます。同日に Farallon Capital もインサイダー買いを報告しています。

エレベーション・オンコロジーは、2024年ASCO消化器がんシンポジウムにおいて、EO-3021の第1相試験の「治験進行中」ポスターを発表した。この情報によると、EO-3021 はクローディン18.2を標的とする抗体薬物複合体(ADC)であり、クローディン18.2はある種のがん細胞、特に消化器がんに多く見られるタンパク質である。

注目ポイント

・EO-3021のフェーズ1試験
本試験は現在参加者を登録中であり、臨床研究の活発な段階にあることを示している。EO-3021の患者さんにおける安全性、忍容性、予備的な有効性を評価することに焦点を当てています。

・クローディン18.2
Claudin18.2 はタイトジャンクションタンパク質であり、特定の悪性形質転換において露出することから、ADC療法の有望なターゲットとなる。EO-3021 は、このタンパク質を発現しているがん細胞に直接細胞傷害性薬剤を送達することを目的としており、より標的を絞った効果的な治療アプローチが期待される。

・2024 ASCO消化器がんシンポジウム
このシンポジウムでの発表は特筆すべき業績である。米国臨床腫瘍学会(ASCO)のイベントは、がん研究の進歩を共有する権威ある場である。Trial in Progress ポスターは、進行中の研究、方法論、予備的な知見や期待について洞察を提供する。

中国の製薬会社CSPCからADCのライセンス供与を受けている

2024年1月26日の市場で新しい初期のADCデータを発表し200%以上急騰した Corbus Pharmaceuticals (コーバス・ファーマシューティカルズ / CRBP) とエレベーション・オンコロジーの両社は、中国の製薬会社CSPCからそれぞれの抗体薬物複合体(ADC)のライセンス供与を受けている。

中国の著名な製薬会社である CSPC Pharmaceutical Group は、ADC開発において重要な役割を果たしているようだ。エレベーション・オンコロジーやコーバス・ファーマシューティカルズのような複数の企業との関わりは、CSPCがこの分野でニッチな専門知識やプラットフォーム技術を開発し、国際的なバイオテクノロジー企業にとって魅力的であることを示唆している。

CSPCにとって、自社のADCを異なる地域(米国など)の企業にライセンスすることは、自社製品の市場範囲を拡大する戦略的な動きとなり得る。ADCの開発・商業化に関する専門知識を、その地域のパートナーから享受することができる。

カタリスト

エレベーション・オンコロジーは、2024年半ばに進行中の EO-3021 の第1相試験の最新情報を提供する予定であり、2025年の前半には追加のデータが提供される予定であると述べている。

エレベーション・オンコロジーとは?

エレベーション・オンコロジーは、アンメット・メディカル・ニーズの高い様々な固形がん患者を治療するための、選択的がん治療薬の発見と開発に重点を置く革新的なオンコロジー企業である。エレベーション・オンコロジーは、患者さん固有の腫瘍特性に適合する革新的な選択的がん治療薬を追求することで、医薬品開発を再考しています。

エレベーション・オンコロジーのリード候補である EO-3021 は、臨床的に検証された分子標的であるクローディン18.2をターゲットとして設計されたクラス最高の抗体薬物複合体 (ADC) である可能性があります。EO-3021 は、クローディン18.2を発現している癌細胞に選択的に直接細胞毒性を発揮します。

エレベーション・オンコロジーは、胃がん、胃食道がん、膵がん、食道がんなど、クローディン18.2を発現している可能性が高い切除不能または転移性の進行性固形がん患者を対象としたフェーズ1試験で EO-3021 を評価しています。また、がん領域のパイプラインを拡大するため、新規または既存のパートナーシップや事業開発機会を通じて、その他の機会も模索しています。

クラ・オンコロジー、がん治療薬の検査結果発表前に46%急騰

Kura Oncology (クラ・オンコロジー / KURA) は、がん治療薬の検査結果発表前に投資家から1億5000万ドルを獲得し、46%急騰した。同社が手がける、ジフトメニブは、急性骨髄性白血病の背景に特定の遺伝子を持つ患者を対象とした標的薬です。

同社のメニン阻害剤ジフトメニブが、白血病リンパ腫協会の小児急性白血病マスター臨床試験(PedAL)に採用。これは、クラ・オンコロジーの腫瘍学研究、特に小児への応用が進展していることを示しています。

クラ・オンコロジーは、1月30日の株式市場が開く前に、ジフトメニブと標準的な治療法を組み合わせた試験結果を発表する予定になっている。

クラ・オンコロジーとは?

クラ・オンコロジーは、がん治療におけるプレシジョン・メディシンの実現に取り組む臨床段階のバイオ医薬品企業である。当社のパイプラインは、がんシグナル伝達経路を標的とする低分子医薬品候補で構成されている。

ジフトメニブは、アンメットニーズの高い遺伝的に定義された急性骨髄性白血病(AML)患者を対象とした、メニン-KMT2A蛋白質間相互作用を標的とする1日1回経口投与の薬剤候補である。クラ社は現在、NPM1変異再発難治性AMLを対象とした ziftomenib の第2相登録指向性試験(KOMET-001)に患者を登録している。

また、NPM1 変異型および KMT2A 配列の新規診断・再発・難治性 AML を対象に、venetoclax、アザシチジン、7+3 を始めとする現在の標準治療とジフトメニブを併用する一連の試験を実施中です(KOMET-007)。

強力かつ選択的なファルネシルトランスフェラーゼ(FTI)阻害剤であるティピファルニブは、PIK3CA依存性の頭頸部扁平上皮がん患者を対象に、アルペリシブとの併用で現在第1/2相試験を実施中である(KURRENT-HN)。

また、次世代FTIであるKO-2806は、KRASG12C変異非小細胞肺がんを対象とした単剤療法およびアダグラシブとの併用療法、明細胞腎細胞がんを対象としたカボザンチニブとの併用療法(FIT-001)の第1相用量漸増試験で評価中です。

コーバス・ファーマシューティカルズ、新しい初期のADCデータ発表で300%上昇

Corbus Pharmaceuticals (コーバス・ファーマシューティカルズ / CRBP) は、2024年1月26日の市場がオープンする前に新しい初期のADCデータ (次世代 nectin-4 は、SeaGen と Pfizer の Padcev よりも優れたものとされています) の発表で一時300%以上上昇しました。

プレゼンテーションでは、次世代Nectin-4標的抗体薬物複合体(ADC)「CRB-701」の開発について発表しました。このADCは、SeaGen と Pfizer の製品である「Padcev®」を上回る治療指数を提供するよう設計されている。本発表では、現在進行中のネクチン-4陽性腫瘍を対象としたフェーズ1用量漸増試験の概要が説明され、2024年1月に発表される最初のデータが有望な結果を示している。

:新たな臨床データは、「Padcev®」と比較して「CRB-701」の差別化されたADCプロファイルを支持している。これには、遊離循環MMAE(モノメチルアウリスタチンE)の減少、投与回数を減らすためのADC半減期の延長、「Padcev®」より高用量投与が可能な半減期の延長による低DAR(薬物抗体比)の達成などが含まれる。

中国における第Ⅰ相用量漸増試験(ASCO-GU 2024)では、「CRB-701」の忍容性が示され、グレード1または2の有害事象が主なものであった。現在までに用量制限毒性(DLT)およびグレード4または5の有害事象は認められていない。特に、皮疹や末梢神経障害の症例は認められていない。

3.6mg/kgおよび2.7mg/kgの用量における客観的奏効率(ORR)は43%、病勢コントロール率(DCR)は71%であった。Nectin-4陽性腫瘍陽性のmUCおよび子宮頸部の全患者において、腫瘍の縮小が認められた。

発表では「CRB-701」と「Padcev®」の比較が行われ、「Padcev®」に関連する皮膚毒性、末梢神経障害、用量制限毒性などの問題が強調された。「CRB-701」はそのデザインにより、これらのアンメット・ニーズに応えることを目指している。

「CRB-701」の臨床開発計画について、中国および欧米における用量漸増・拡大フェーズを含めて概説する。「Padcev®」を超える用量の探索に重点を置き、2024年第4四半期までに用量漸増を完了し、2024年第3四半期に用量拡大を開始する。

この発表によると、コーバス・ファーマシューティカルズ社はADC分野、特にNectin-4陽性腫瘍を標的とした治療において大きな進歩を遂げており、「Padcev®」のような既存の治療法に代わる、より効果的で忍容性の高い治療法を提供できる可能性がある。

後期臨床のオンコロジー企業 CG oncology がIPO

【CGON】膀胱がん患者のための治療薬を開発する後期臨床バイオ企業 CG oncology がIPO

つい最近では、膀胱がん患者のための治療薬を開発する後期臨床バイオ医薬品企業 CG oncology (CGオンコロジー / OCGN) が2024年最初のバイオテクノロジー企業の IPO として、1月25日に株式上場しています。