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【選書】人口大逆転 高齢化、インフレの再来、不平等の縮小

【レビュー】人口大逆転 高齢化、インフレの再来、不平等の縮小

この本はコロナ前の2019年書かれた本ですが、コロナで始まった一連のインフレ再来、金利上昇などの世界的なトレンドを見事にカバーしています。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス (LSE) 名誉教授チャールズ・グッドハートとマノジ・プラダンによる著作『人口大逆転 高齢化、インフレの再来、不平等の縮小 (The Great Demographic Reversal: Ageing Societies, Waning Inequality, and an Inflation Revival)』は、今後の世界的な経済トレンドを占う上で転換点的な非常に重要な本に位置付けられると思います。是非 “今”、このタイミングに読んでおくことを強くおすすめします。

最初に結論を言ってしまうと、本書は、人口動態の変化は長期的にはインフレと金利の上昇を意味すると主張しています。その反面、世界的に労働者不足を招くことで、労働者の不平等が減少することにも触れています。

私はこの本に辿り着くまでに、日本の物価上昇を肌で感じるようになり、日本もいよいよデフレから脱却してインフレ傾向なのか?と調べていました。丁度去年買って読み飛ばしていた『世界インフレの謎』の日本の項目を読んでみたところ、世界に比べて日本という国が如何に特殊な経済や人口動態を辿っているのか?ということに改て気づき、他にもっと勉強になる面白い本はないかな?と探していたところ見つけたのが本書でした。

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2020年の COVID-19 で始まった金融相場をトレードしていた個人投資家は分かると思いますが、インフレはFRBの前例のない量的緩和に起因しており、その後のロシアによるウクライナ侵攻が更に事態を深刻化しました。

当時の素人トレーダーの私の見解では、インフレ上昇は一時的でFRBの利上げによって、いずれは落ち着くのではないかと思っていました。等のFRBはインフレは一時的という見解から利上げするタイミングが遅れ、その後のインフレスパイラルを迎えています。

しかし2022年頃より海外で「40年続いた低金利環境の終焉」というような見出しの記事をよく目にするようになりました。この頃は、相場のサイクル的にFRBが利下げをすれば、再び金融相場がやってくるのではないか?という淡い期待をしていましたが、世界のトレンド、流れはどうやら違うようです …

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本書、チャールズ・グッドハートの著書『人口大逆転 高齢化、インフレの再来、不平等の縮小』では、今後世界経済の大転換が起こる or 既に起こっていることを示唆しています。それは高齢化、労働人口の減少による世界的な人口構造とグローバル化の大逆流をトレンドにあげています。

本書のアプローチとして非常に面白いのが、マクロ経済学者は自国に焦点を当てがちですが、それではあまりに狭いということです。チャールズ・グッドハートとマノジ・プラダン氏は、日本と中国というアジア諸国に関する2つの章を設けています。

アメリカ、ヨーロッパ、イギリスに関する章は設けていません。なぜなら、中国の台頭がこの30年間の最も重要な特徴だと考えているからです。第二の違いは、彼らが需要サイドの政策に重点を置いているのに対し、両者は供給サイドに重点を置いていることです。

これまでの30年は、人口動態と中国の世界経済への参加という、この2つのダイナミックな力がインフレ率や名目金利の低下を説明するデフレの力をもたらしたと論じています。しかし今後、この2つの力が逆に働き、インフレ圧力が高まることを指摘しています。

「それはなぜ日本で起こっていないのか?」:修正論者による日本の変容の歴史

おそらく、主流派が人口動態のトレンドが我々が提案するような影響を与えることに疑問を抱いている最大の理由は、日本が人口動態の変化の先頭に立ち、高齢退職者の比率が上昇し、生産年齢人口が減少しているのに、インフレ、インフレ期待、名目金利の上昇には全く影響がなく、失業率が非常に低いままだからである。

しかし、日本については、いくつかの要因を考慮する必要がある。第一に、日本の労働者一人当たりの生産性は、他のどの国よりもはるかに良好である。WAPが年率1%で減少し、一人当たりGDPが年率1%で増加しているのだから、一人当たりの生産性は年率2%で増加していることになり、他の多くの国よりはるかに優れていることになる。

この点で、将来、日本と同じようなことができれば、私たちは幸運である。第二に、日本の労働力の高齢化は、アジアを中心とした世界的な労働力の供給過剰の中で起こったものである。日本企業はこの後者を最大限に利用し、財と一部のサービスの生産を海外にオフショア化することで、競争力を維持しつつ、日本国内の労働力を大幅に削減することができた。その結果、日本国内の労働力は、交渉力の弱いサービス部門に強く移行した。

第三に、日本では需要の減少に直面した場合、雇用を削減するのではなく、労働時間を短縮するという倫理観がある。パートタイム部門の労働者の割合が増加し、労働時間が減少しているため、失業率の数値は日本の需要の圧力を著しく過大評価したことになる。

本書の論点

本書の論点は、デフレ、低金利の時代がついに終わり、インフレと金利上昇の時代が到来することを告げています。グローバル化のスピードはゆっくりとなり、労働分配率の向上、賃金上昇から格差は縮小に向かうと言います。COVID-19、その後のロシアにウクライナ侵攻はグローバル化の終焉を意味し、世界経済の潮流が激的な大転換を迎える分水嶺であり、変化を加速することを伝えています。

これからの30年は、世界の人口は高齢化に向かい働き手よりも働かない (働けない) 高齢者の消費が増え、これまで世界の工場として機能していた中国も内向きになります。つまりこれまで世界が経験したことの真逆のショックが生じます。

オックスフォード大学ハルフォード・マッキンダー地理学教授ダニー・ドーリングの著書『Slowdown 減速する素晴らしき世界』が述べているように、人口、経済、技術革新など、世界はすでに減速を始めていることが一つの傾向なんだと思います。

労働分配率、賃金は上昇に向かい、世界的にも貯蓄が減少、デフレ・低金利が終わり、インフレの時代になる … すでに高齢化が進んでいる日本でなぜ新しい変化が起こっていないのか。この謎解きも解説されています。今後の世界のトレンド抑えるためにも是非読んでおきたい一冊です。

著者について

チャールズ・アルバート・エリック・グッドハートは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの金融市場グループの銀行・金融の名誉教授であり、それ以前(1987-2005)は副所長であった。1985年以来、2002年に退職するまで、LSEのノーマン・ソスノー教授(銀行・金融論)を務めていた。それ以前は、イングランド銀行に17年間金融アドバイザーとして勤務し、1980年にチーフ・アドバイザーに就任した。

1997年には、イングランド銀行の新しい金融政策委員会の社外独立メンバーの一人に任命され、2000年5月まで務めた。それ以前は、ケンブリッジ大学とLSEで教鞭をとっていた。金融史に関する数冊の本、大学院の金融教科書『Money, Information and Uncertainty (2nd Ed. 1989)』、金融政策に関する2冊の論文集『Monetary Theory and Practice (1984) and The Central Bank and The Financial System (1995) 』、金融安定性に関する数冊の本と論文、このテーマについて2002年から2004年にかけてイングランド銀行総裁顧問を務めた他、金融市場、金融政策、金融史に関する多くの研究を著している。近著に『人口動態の大逆転』。