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【選書】分断の沸点に達しているアメリカ社会を読み解く

【選書】分断を極めるアメリカ社会を読む

近年のアメリカは、政治的、社会的、環境的に多くの分断と対立に直面しています。日々、X (旧 Twitter) で情報を拾っていると、特にアメリカで信じられないようなニュースや映像を目にすることが増えているように感じます。

アメリカ分断の象徴的な事件となった2021年のアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件。その当日、私は個人投資家として相場を眺めながら、事件の一部始終が Twitter やSNSでライブされ、議事堂の中で女性が拳銃で撃たれるといった様子を目の当たりにしていた。

その日の相場は、トランプ支持者による国議会議事堂襲撃のニュースで下落してスタートしたが、事件が深刻化しないと分かったその日の相場の終わりでは株価は戻していた。

その時は、Qアノンや一部のトランプ支持者による暴徒化という印象しか受けていなかったのだが、以降2022年、2023年と時が経過するに連れて、X (旧 Twitter) を通じて、都市の凋落 (フィラデルフィア、サンフランシスコなど)、当たり前のように繰り広げられる万引き、暴力、犯罪の増加、日々報じられる銃殺事件、ジェンダー問題など、カオスの如く何か日々崩れて行くアメリカの姿が浮かび上がってきた。

内側から崩れゆくアメリカ …

ひとつひとつの事例をあげると無限にきりがないのだが、この記事を書いている頃に発生したものを一部取り上げると、米国小売企業 Target (ターゲット) は、暴力と盗難のため全米主要都市の9店舗を閉鎖することを発表した。

ターゲットは声明の中で、チームとゲストの安全が脅かされており、閉店を余儀なくされていると述べた。これは、盗難により今年5億ドル以上の損害が出ているとターゲットが発表した後のことです。ウォルマートも盗難のために店舗の閉鎖や値上げを考えている。インフレが続く中、盗難はますます悪化している。

略奪が深刻化しているフィラデルフィアでは、2023年9月26日の夜、群衆が集まって暴動を起こし大規模な略奪行為が繰り広げられた。特に衰退する都市でこのような略奪が近年常に問題になっている。

この2つの出来事は、たった1日の間で起こったことであり、とにかく日に日に凋落しているように伺える。

次の日には同じく万引きに苦しむ、ドラッグストアチェーンのCVSヘルスが、2024年末までに約10%に相当する900店を閉店し、オンラインに移行することがアナウンスされている。

万引きや犯罪の増加の背景には、インフレが庶民の生活を苦しくしているということが間違いなくあるだろう。しかし、このインフレは世界のトレンドであり、インフレが改善されるまでにはかなりの年月を要することが予想される。

しかし問題はインフレだけではなく、押し寄せる難民問題、高金利、膨らみ続ける債務、気候変動など、多岐に渡る問題から事態は悪化の一途を辿るのではないだろうか …

このような事象を見るにつれて、アメリカの分断が沸点に達していることは誰の目から見ても明らかであり、今一体アメリカで何が起きているのか?、それを紐解くためにアメリカの “分断”、”内戦” について書かれたバーバラ・F・ウォルターの『アメリカは内戦に向かうのか』やスティーブン・マルシェの『The Next Civil War: Dispatches from the American Future』を取り上げ、アメリカの分断とその深刻な結果について考察します。

そして最後に『孤独なボウリング―米国コミュニティの崩壊と再生』など日本でも著名なアメリカの社会学者/政治学者、ハーバード大学の教授ロバート・D・パットナム氏の著書『上昇(アップスウィング): アメリカは再び〈団結〉できるのか』が示す、その解決の糸口を探る。

アメリカが過去に分断したとき、どのように団結したのか?ロバート・D・パットナムは、アメリカの変化についてのデータとその歴史的な背後にある物語を提供し、アメリカの極端な政治的極端さ、経済的不平等、社会的孤立、文化的自己中心性に焦点を当てる。

パットナム氏は、アメリカが歴史的に非常に極端なポイントに達していると指摘し、この状況からどのようにして抜け出すかについての道筋を提供する。

『アメリカは内戦に向かうのか』バーバラ・F・ウォルター著

アメリカは内戦に向かうのか

ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー、第一線で活躍する政治学者が、世界中で激しさを増す過激主義を検証し、米国で第二次内戦が起こる可能性が高まっていることに警鐘を鳴らす。

政治的暴力がテキサス州南西部のいくつかの町を引き裂く。極右民兵組織はミシガン州知事を誘拐し、反逆罪で裁こうと画策する。トランプ支持者と陰謀論者の武装暴徒が連邦議会議事堂を襲撃。

これらは孤立した事件なのか?それとも、これは何か大きな出来事の始まりなのか?バーバラ・F・ウォルターはイラク、ウクライナ、スリランカなどで内紛の研究にキャリアを費やしてきた。

驚くべきことに、独裁国家も健全な民主主義国家も、内戦とはほとんど無縁である。中間に位置する国々が最も脆弱なのである。そして、アメリカを含め、ますます多くの国々がこの状況に陥っている。

過去20年間で、世界中で起きている内戦の数はほぼ倍増している。ウォルターは、どこで戦争が始まりやすいのか、誰が戦争を起こすのか、何が引き金になるのか、そしてなぜ紛争に陥る国がある一方で、安定を保つ国があるのか、といった警告のサインを明らかにする。

最新の国際調査と20カ国以上からの教訓をもとに、ウォルターは民主主義の後退から派閥形成、恨みの政治まで、決定的なリスク要因を明らかにする。今日の内戦は、1860年代のアメリカや1920年代のロシア、1930年代のスペインのようにはならないだろう。

それは散発的な暴力やテロ行為から始まり、ソーシャルメディアによって加速される。それは私たちに忍び寄り、なぜ私たちはこれほどまでに盲目であったのかと私たちを呆然とさせるだろう。

この緊急かつ洞察に満ちた本の中で、ウォルターは新しい時代のために内戦を再定義し、私たちが今直面している危険に立ち向かうために必要な枠組みと、手遅れになる前にそれを止めるための知識を提供している。

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『The Next Civil War: Dispatches from the American Future』スティーブン・マルシェ著

米国は終わりを迎えようとしている。唯一の問題はその方法だ。

米ニューヨーク・タイムズの名物ポッドキャストで有名なエズラ・クラインの『なぜ私たちは二極化したのか』と、デイビッド・ウォレス・ウェルズの気候変動に警鐘を鳴らす著書『住めない地球』を掛け合わせたような、深く研究されたこの推理ノンフィクションでは、著名なジャーナリストが、激しく分裂したアメリカを取り上げ、あらゆる分野の専門家への綿密な取材に基づき、その崩壊につながる5つのゾッとするようなシナリオを想像している。

連邦政府を嫌う田舎町の片側2車線の小さな橋の上で、米軍は反政府強硬派とのにらみ合いを終わらせるために殺傷力を行使する。平凡なダイナーの店内では、即席の写真撮影のために足を踏み入れたアメリカ大統領を、拳銃を持った不穏な若者が狙い、銃弾は超党派の国を激しく対立する弔問客とお祭り騒ぎに分裂させる。

ニューヨークでは、カテゴリー2のハリケーンが地域全体を水没させ、一夜にして数百万人の難民を生み出す。金融危機と数年にわたる壊滅的な干ばつが重なり、アメリカは破滅の淵に立たされる。

これらの悪夢のようなシナリオは、アメリカで壊滅的な混乱を引き起こす可能性が最も高い5つの可能性のうちの3つに過ぎない。

洗練された予測モデルと、内戦学者、軍事指導者、法執行当局者、シークレット・サービス諜報員、農業専門家、環境保護論者、戦史学者、政治学者といった専門家への200件近いインタビューをもとに、ジャーナリストのスティーブン・マルシェは、私たちの多くが目の前で展開されるのを見たくない恐ろしい未来の崩壊を予測する。

マルシェは兵士や対反乱戦の専門家と、アメリカの人口をコントロールするために何が必要かについて話をした。小説家ではなく、大佐たちによって。

あなたの政治的傾向がどうであれ、私たちのほとんどは、アメリカがある種の破局に向かって突進していることを感じることができる。関連性と啓示に満ちた『The Next Civil War』は、アメリカに迫り来る脅威を明快に断ち切り、国民、国土、政府の将来を憂えるすべての人にとって必読の書である。

『上昇(アップスウィング): アメリカは再び〈団結〉できるのか』ロバート・D・パットナム著

『孤独なボウリング―米国コミュニティの崩壊と再生』の著者ロバート・D・パットナムによる、アメリカが過去100年前にどのように団結し、同じことをもう一度行う方法についてが描かれる。

深刻かつ加速する不平等、前例のない政治的分極化、激しい言論統制、ほころびつつある社会構造、公私にわたるナルシシズム……今日のアメリカ人が同意していることはただひとつ、「最悪の時代である」ということだ。

しかし、私たちは以前にもここにいたことがある。1800年代後半の金ぴか時代、アメリカは今日と同じように、非常に個人主義的で、不平等で、激しく二極化し、深く分断されていた。しかし20世紀が始まると、アメリカは少しずつ、不均等に、しかし着実に、より平等主義的で、より協力的で、より寛大な社会へと変化していった。しかし、1960年代のある時期に、こうした傾向が逆転し、今日の混乱が生じた。

ロバート・パットナムは、統計分析とストーリーテリングという彼独特の組み合わせによる「壮大で先見の明のある本」(『ニュー・リパブリック』誌)の中で、私たちを「私」の社会から「私たち」の社会へ、そして再び「私たち」の社会へと導いた傾向の驚くべき合流点を分析している。

パットナムは、献身的な改革者たちによって社会が正され、私たちが再び共同体を基盤とする社会への道を歩むようになった過去の時代から、現代への刺激的な教訓を引き出している。本書はパットナムの最も “注目に値する”(サイエンス)作品であり、輝かしいキャリアの締めくくりにふさわしい。

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