2025年10月10日、ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)が Orbital Therapeutics を買収する最終契約を締結したことを発表しました。Orbital は 体内(in vivo)で細胞を “再プログラム” するRNA医薬を開発する非公開バイオ。
取引条件
買収対価:現金15億ドル(クロージング時に支払い)。
クロージング条件:HSR(米独禁法)待機期間満了など慣例的条件の充足が前提。完了までは両社は独立して事業を継続。
取得資産(パイプライン/プラットフォーム)
・OTX-201
「OTX-201」自己体内で CD19 CAR-T を産生させることを狙う次世代 in vivo CAR-T の前臨床候補(IND準備中)。最適化した環状RNA(circular RNA)で CD19 標的 CAR をコードし、標的化LNPで送達。自己反応性B細胞の枯渇→免疫リセットにより自己免疫疾患を治療する設計。
・統合RNAプラットフォーム
統合RNAプラットフォームは、環状/直鎖RNAの設計、先進LNPデリバリー、AI設計を統合した “長期持続・プログラマブル” なRNA創薬基盤。
戦略的意義(BMSの狙い)
ブリストル・マイヤーズ スクイブは既に2種の承認 CAR-T を持つ細胞治療リーダーです。今回の買収で ex vivo(体外製造)中心のCAR-T に加え、in vivo アプローチを取り込み、自己免疫領域への展開と治療アクセスの拡大(治療負担の軽減)を狙います。
・BMS研究開発トップ
「in vivo CAR-T は自己免疫の治療法を再定義し得る。免疫リセットを目指すベストインクラス候補を前進させる機会。」
・BMS細胞治療プレジデント
「より多くの患者にCAR-Tを届けるうえで、複数のプラットフォームを評価し in vivo 技術の臨床最適化を進める。」
・Orbital CEO
「OTX-201 の初期データは統合RNA技術の強さを示す。より簡便・安全・アクセスしやすい治療を目指す。」
ポイント
in vivo CAR-T は、ex vivo 製造のコスト・キャパ課題を回避し得る “本命” の一つ。自己免疫×B細胞枯渇(CD19)は各社が狙うホット領域で、BMS は既存の細胞治療基盤と合わせ臨床・製造・商用化の総合力で優位を取りに来た格好です。
これは適応拡大・患者裾野拡大の布石と見られます。今回の買収の狙いはシンプルに言うと「自己免疫 × in-vivo CAR-T」の主導権です。
BMS は既に ex-vivo(体外製造)の CAR-T でリーダーですが、体内で CAR-T を “つくらせる” in-vivo 方式を自社に取り込むことで、治療アクセス・コストのボトルネックを解消し、急拡大中の自己免疫領域に一気に踏み込む――この2点を同時に達成できます。
今回の Orbital 買収(対価総額$1.5B、主資産はOTX-201)はそのための一手です。
なぜ前臨床の「OTX-201」に踏み切ったのか?
1. 臨床外部証拠が十分に積み上がった(CD19×自己免疫)
近年、CD19 CAR-T で自己免疫患者が薬剤フリー寛解に入る報告が相次ぎ、SLE などでの有効性シグナルは強固になりました(NEJMのケースシリーズ、各種レビュー・総説、相次ぐ初期試験)。
“B細胞を強力にリセットすると病勢が長期に鎮まる” 仮説に外部妥当性がついたことで、標的(CD19)× 疾患領域(自己免疫)のリスクはもはや “探検段階” ではありません。
2. in-vivo 化の “経済性/アクセス性” メリットが大きい
ex-vivo CAR-T はアフェレーシス→製造→帰還という高コスト・長リードタイムが壁。Orbital の「OTX-201」は環状RNA(circRNA)で CD19 CAR をコードし、標的化LNPで体内投与する設計で、患者の体内を製造工場に変えます。
これによりスループット/コスト/地理的アクセスの三拍子で優位になり得る──BMSが公式に掲げる “CAR-Tアクセスの拡大” という戦略意図と完全に一致します。
3. NHP(霊長類)などの前臨床で “絵が見えた”
Orbital はNHPデータを含む前臨床で「OTX-201」のコンセプトを提示済み。circRNA × tLNP による in-vivo 発現で、自己免疫疾患におけるB細胞枯渇→免疫リセットを狙う筋道が示され、IND準備段階と明確に言えるところまで到達していました。
ABBV × Capstan の影響
2025年6月、AbbVie が Capstan を最大$2.1Bで買収しました。主資産は tLNP×mRNA を使った in-vivo CD19 CAR-T「CPTX2309」で、自己免疫を第一ターゲットに Ph1 へ進入済み。
これで “in-vivo CAR-T+自己免疫” はメガファーマの本線になりました。BMS は ex-vivo 王者のまま静観すると相対的に出遅れるリスクがあり、価格帯も “相場観” が出来たため($1.5–2.1Bレンジ)、Orbital 取り込みで技術ポートフォリオを対称化した、という見立てが合理的です。
観点 | BMS × Orbital | AbbVie × Capstan |
---|---|---|
主資産 | OTX-201(circRNA + tLNP, in-vivo CD19 CAR) | CPTX2309(mRNA + tLNP, in-vivo CD19 CAR) |
開発段階 | 前臨床(IND準備) | Phase 1(自己免疫) |
戦略軸 | ex-vivo資産にin-vivoを重ね、アクセス拡大と自己免疫参入 | 免疫領域の中核にin-vivo CAR-Tを追加、Humira後の成長ドライバに |
取引規模 | $1.5B(現金) | 最大$2.1B |
共通背景 | CD19×自己免疫の外部臨床シグナル(寛解/リセット仮説) |
臨床は他社が証明(CD19×自己免疫)、BMS は “アクセス課題を解く方式(in-vivo)” を押さえる——この役割分担で見ると、前臨床でも戦略バリューは高い。
AbbVie の先行買収で “ゲームの盤面” が固まり、同レンジのバリュエーションで技術ポートフォリオの空白を素早く埋める判断に整合性がある。
ex-vivo の強み(製造・商用オペレーション)× in-vivo の機動力というハイブリッドは、自己免疫の大市場で “本命アーキテクチャ” になり得ます。