
LLY が買収した Merida と Viridian と Yarrow Bioscience の Graves病 / TED の次世代パイプライン比較してみましょう。
特に、YARW の「YB-101」を入れると、今回の Lilly→Merida 買収の意味がかなり見えやすくなります。「YB-101」はすでに Graves病で Phase 2a/2b に入っており、VRDN の Anti-TSHR より臨床開発がかなり先行しています。
Graves病 / TED の次世代パイプライン比較
| 会社 / 資産 | YARW / YB-101 | VRDN / Anti-TSHR | LLY・Merida / MER511 |
|---|---|---|---|
| 主な標的 | TSHR | TSHR | 病原性TSHR自己抗体 |
| MoA | anti-TSHR mAbで受容体を直接ブロック | anti-TSHR mAbで受容体活性化を阻害 | 自己抗体を捕捉し選択的に除去・分解 |
| Graves病 | ○ | ○ | ○ |
| TED | ○ | ○ | ○ |
| 現在の段階 |
GD:Phase 2a/2b TED:中国Phase 1 |
前臨床 / IND-enabling | Phase 1 |
| 米国IND | クリア済み | Q4 2026予定 | クリア済み |
| FDA Fast Track | GDで取得済み | ― | ― |
| 投与 | SC | SC / autoinjector想定 | Phase 1でIV / SC評価 |
| 投与間隔 | Q4W / Q8Wを評価 | 長間隔投与を目標 | 未確定 |
| 次の重要データ |
GD Phase 2a:2H 2027 TED Phase 1 MAD:2H 2027 |
IND → 初期臨床 | Phase 1詳細データ |
| 特徴 | TSHR blockerで最も開発が先行 | VRDNのTED商業基盤と組み合わせ可能 | 自己抗体そのものを除去する独自MoA |
YARW については、「YB-101」がTSHRを直接遮断するモノクローナル抗体で、Graves病とTEDの両方を一つの薬で治療することを狙っています。
YARW は2026年6月に米国外を含む GD Phase 2a/2b を開始しており、Phase 2a は32人、Phase 2b は約200人を予定しています。
YARW と VRDN はかなり直接的な競合
この3つを病態の位置で並べると分かりやすいです。
Graves病 / TED
病原性TSHR自己抗体
↓
MER511
→ 自己抗体そのものを捕捉・除去
↓
TSHR
↓
YB-101(YARW)
→ TSHRを直接ブロック
VRDN Anti-TSHR
→ 同じくTSHRを直接ブロック
↓
TSHR signaling
↓
IGF-1Rとのクロストーク
↓
眼窩線維芽細胞の活性化
↓
TED
一方、
Tepezza / Lumvoa / elegrobart
→ IGF-1Rを阻害
です。したがって競合関係としては、
YARW「YB-101」≒ VRDN「Anti-TSHR」
が最も近く、Merida「MER511」は1段上流から同じ病態を攻める別アプローチです。Yarrow 自身も「YB-101」を「TSHRを直接阻害する」治療として位置付けています。
YB-101 は意外とかなり進んでいる
「YB-101」について特に注目したいのが、すでに Phase 2 でかなり臨床的に意味のあるエンドポイントを取りに行っていることです。
Phase 2aではGraves病患者32人を4コホートに分け、
180 mg Q8W
270 mg Q8W
400 mg Q8W
200 mg Q4W
などを評価します。24週時点で、「抗甲状腺薬を中止しても euthyroid=甲状腺機能正常を維持できる患者の割合」を主要な有効性評価の一つとして見ます。
これは単に、「TSHR抗体価が下がりました」ではありません。
methimazoleなどの抗甲状腺薬をやめても正常な甲状腺機能を維持できるか?を見るので、成功すればかなり強い臨床PoCになります。
さらにTEDを併発している患者では、
proptosis(眼球突出)
CAS(Clinical Activity Score)
なども評価します。
TED についてもすでにヒトデータがある
ここは VRDN との大きな差です。「YB-101」は中国では GenSci098 として Changchun GeneScience が開発しています。
TED患者を対象とした Phase 1 SAD において、用量依存的な作用機序の証明に加え、TEDに対する臨床反応を示唆するシグナルが確認されたと Yarrow は説明しています。
さらに安全性についても、SADではプラセボとの間に臨床的に意味のある差はなかったとしています。これを受けてMADへ進んでいます。
ただし、ここは注意が必要で、具体的な眼球突出率などの完全な臨床データはまだ公開されていません。TED Phase 1 MADデータは 2H 2027予定です。
ここに Lilly / Merida を入れると非常に面白い
今回 Lilly が Merida を最大 $2.875B で買収することになったことで、TSHR周辺の競争構造はこうなりました。
① YARW
TSHR receptor blocker
YB-101
→ Graves Phase 2
→ TED Phase 1
→ 臨床開発では最も先行
② VRDN
TSHR receptor blocker
まだ名称未公表の Anti-TSHR
→ IND Q4 2026予定
→ YB-101より後発
ただしVRDNには、
Lumvoa:FDA承認済み
Elegrobart:Phase 3完了 → BLA Q1 2027予定
というTEDフランチャイズがあります。
③ LLY / Merida
pathogenic antibody degrader
MER511
→ Phase 1
→ anti-TSHR自己抗体そのものを除去
しかも、初期の Phase 1 試験において Lilly によれば、病原性甲状腺刺激抗体の顕著な減少が観察されています。
投資上かなり重要なのは、YARW が「TSHR仮説を先に臨床で検証する」こと
これが VRDN を見る上でも重要です。
現在、
YARW:Phase 2
↓
Merida:Phase 1
↓
VRDN:IND前
という順番です。ですから VRDN のTSHRプログラムについては、VRDN 自身の Phase 1 を待つ前に、YB-101 Phase 2a がかなり重要な外部リードスルーになります。
特に2027年後半に「YB-101」で、
TSHR blockade
→ 甲状腺ホルモンの正常化
→ 抗甲状腺薬の投与中止
→ 正常甲状腺機能の維持
「TSHRを直接止めればGraves病をdisease-modifyingに治療できる」という仮説がHumanでかなり強くなります。そうなれば、VRDNのまだ初期段階のAnti-TSHR資産にもmechanism validationが波及する可能性があります。
逆にYB-101が十分にTSHRをブロックしても臨床的なGraves病改善につながらなければ、VRDNにもnegative read-throughになります。
一方で VRDN には YARW にない強みがあります
ここも重要です。YARW はかなり純粋な、YB-101 / thyroid autoimmunity company です。
一方 VRDN は既に、
Lumvoa
↓
IV anti-IGF-1R
↓
TED commercial
から始まり、
Elegrobart
↓
SC anti-IGF-1R
↓
TED
さらに、
Anti-TSHR
↓
Graves + TED
と広げています。つまり、
YARW:TSHR一本で Graves/TED に深く入る
VRDN:IGF-1RでTED市場を押さえてからTSHRで Graves まで拡張
Merida/LLY:病原性自己抗体除去を Graves/TED から他の自己免疫疾患へ展開
という戦略の違いがあります。この観点では、Lilly の Merida 買収は YARW にも VRDN にもかなり明確なread-throughです。
特に YARW については、「MER511」よりむしろ臨床開発が進んでいるため、「Lilly が Phase 1 の Graves/TED 資産を含むプラットフォームに最大$2.875Bを提示した」というM&A precedent は無視できません。
ただし、Merida の買収額には「MER769」など他疾患へのプラットフォーム価値も含まれるので、「YB-101」単剤を$2.875Bと比較することはできません。
個人的にこの3社を見る上で最も重要なイベントは、2027年後半の YARW「YB-101」Phase 2a です。
TSHR阻害が本当に「抗甲状腺薬から患者を離脱させる」レベルまで行けるのかが分かれば、YARW だけでなく VRDN の Anti-TSHR と、Merida 買収の妥当性まで含めてTSHRクラス全体の評価を大きく動かすデータになります。

