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X (旧 Twitter) の逸脱と凋落を探る

世界で話題となった『サイコロジー・オブ・マネー』の著者モーガン・ハウセルが新書『Same As Ever: A Guide To What Never Changes』で扱っている、”歴史の終わりなきループ” について、X (旧 Twitter) とイーロン・マスクを例に取り非常に示唆に富む内容を言及していますのでご紹介します。

【選書】モーガン・ハウセルの新書『Same As Ever: A Guide To What Never Changes』

X (旧 Twitter) の逸脱

現在 X と呼ばれている旧 Twitter は、現代における最も偉大なコミュニケーション・デバイスのひとつと見なされている。しかし、本質的には思考を共有するための商品であり、その苦戦によって、Facebook が MySpace に、Google が Yahoo! にしたように、その地位を追い抜く新たなプラットフォームが出現する可能性がある。

大規模なネットワークを持つ強固なプラットフォームであっても、成功の核となった資質を失えば追い越される可能性があり、これはテクノロジーやソーシャルメディアの世界では当たり前のことなのだ。

ツイッターで多くのフォロワーを獲得した人たちは、Threads (スレッド) のような新しいプラットフォームでも、その成功を再現することができるだろう。これはテック業界ではよくあるパターンだ。屑企業が競争上の優位性を獲得し、繁栄し、やがて自己満足に陥り、衰退していく。

X と Twitter

現在「X (エックス)」として知られる企業と、過去に「Twitter (ツイッター)」として知られた企業には、その遺産とイーロン・マスクが目指す新しい方向性が混在している。

社内の緊張は、この2つの異なるビジョンが衝突することから生じているのかもしれない。懸念されるのは、成功した企業の多くが、中核となる強みからあまりにかけ離れた多角化を進めると失速してしまうということだ。

企業が基本的なスキルから大きく逸脱した場合

例えば、Sears (シアーズ) は銀行業に進出して小売業への集中を失い、General Motors (ゼネラル・モーターズ) は金融サービス業に進出したが、これがトラブルの一因となった。現在、「X」は銀行や決済処理業者として金融に進出することを検討しており、本来の専門性から乖離している。

歴史が示すように、企業が基本的なスキルから大きく逸脱した場合 (投資方法を知らない余剰資本や、退屈や新規事業への欲求のため)、多くの場合、良い結末を迎えることはない。この教訓は、ビジネスにおいて幅を利かせすぎないこと、そしてそもそも会社を成功に導いたものにこだわることである。

Twitter が創設した企業文化の破壊

Twitter が X に変わったことで、Twitter で慣れ親しんでいたお馴染みのワード「ツイート」、「リツイート」、「フォボる」などの言葉が、「ポスト」、「リポスト」などに変更されました。

しかし先日若い世代や一般層 (マジョリティ層) に行われた調査によると、多くの人が変更前の「ツイート」や「リツイート」というワードが普通に使っているということが分かりました。一方でビジネスマンの界隈では、既に新しいワードに移行しているのも面白いです。

X は今度は、「ハッシュタグ」機能を無くすという情報もあり、Twitter 時代にユーザー育まれ慣れ親しんだ企業文化が、今後もどんどんと廃れていくことが予想される。

面白いデータとすれば、Twitter から X に変わり、有料プランの X Blue に加入したインフルエンサーには X からインプレッションに応じて出来高制で報酬が支払われるというプログラムに変わりました。

その影響もあり、ただでさえ胡散臭いインフルエンサーがバズやPVを狙ったポストが増えるなど、X の滞在時間が旧 Twitter を超えるというデータもありました。現在は落ち着いたのではないか、と思いますが報酬をチラつかせれば人はラットレースのように凌ぎ合うということです。

しかしこれらは、当初 Twitter が創設した文化とは逆行しており、欲が欲を呼ぶ拡散装置として機能していると思います。X に変わってからスパム系のアカウントの増加、ロボット的なスパムコメントも増加傾向にあります。

イーロン・マスクという人物

イーロン・マスクの飽きっぽい性格と新たな挑戦の必要性は、ウォルター・アイザックソンによる最近の伝記『イーロン・マスク』で強調されている。テスラのオプションを現金化し、100億ドルを手にした後、彼がその金額でできることは限られていた。

彼が Twitter を購入したのは、すでに彼が有力なユーザーであったからであり、壮大なビジョンというよりは、資金を持ち、新たな試みを模索するためであったようだ。

マスクの行動には、自分にはルールは適用されないという考え方がしばしば反映される。この考え方は、GM、フォード、NASA のような既成の巨大企業への挑戦に見られるように、大きな成功につながる可能性がある。

しかし、この同じ考え方が物議を醸す決断や発言につながることもある。リスクを冒し、慣習を無視することで知られる人物が、間違いや攻撃的とみなされるような行動をとったとしても、私たちは驚くべきではない。

ワイルド・マインド

このような先見の明のある天才を「ワイルド・マインド」という言葉で表現するが、投資家にとって、彼らを支援するということは、彼らの型破りな考え方を全面的に受け入れるということである。

ワイルド・マインドとは?

ワイルド・マインドは、一般的には精神の状態や心の状態を表現する言葉の一つです。このフレーズは、感情や思考が制御されない、自由な状態を指すことがあります。また、この表現は瞑想や心理療法などの文脈で使われ、自己探求や自己認識のプロセスに関連することもあります。具体的な文脈によって異なる意味を持つこともあります。

既成概念にとらわれない考え方をしている人を賞賛するということは、その人が必ずしも喜ばしいことや合理的でない方法で既成概念にとらわれない考え方をしているかもしれないことを受け入れるということでもある。

火星を植民地にするような偉業を成し遂げようとするマスクの意欲は、彼の並外れた強烈なキャラクターを象徴している。大成功を収めた起業家の人生が羨ましいものであるという例外はほとんどない。

このような人物の伝記を読むと、彼らの貢献は計り知れないものであっても、私生活は望ましいものとはほど遠いものであることに気づかされることが多い。

彼らの成功はしばしば、過度な長時間労働、家庭や社会生活の軽視、仕事にすべてを捧げるなど、高い個人的犠牲を伴っている。

成功の絶頂にあるとき、企業はしばしば道を見失い始める

過去にうまくいったことが今後もそうであるとは限らない、その顕著な例が Twitter で、ほんの数年前までは繁栄しているように見えたが、現在は指導者の交代など様々な理由で輝きを失っている。

しかし、企業が失速し始めるタイミングをリアルタイムで見極めるのは難しいことが多い。1990年代後半を振り返ってみると、今後10年間に保有すべき10銘柄を推奨する大手ビジネス誌があった。

それらはリスクの高いハイテク投資ではなく、Enron (エンロン)、Kodak (コダック)、GM (ゼネラルモーターズ)、AIG (損保) のような老舗優良企業だった。当時、コダックやGMのような企業は世界の頂点にいるように見えた。しかし、成功の絶頂にあるとき、企業はしばしば道を見失い始める。

企業が成功の絶頂にあるとき、将来も同じ戦略や運営方法が持続可能であると過信する傾向があります。しかし、市場は常に変化しており、過去の成功が将来の成功を保証するものではありません。

Twitter の例は、一見繁栄している企業も、リーダーシップの変更や市場の変化などによって急速に衰退する可能性があることを示しています。

1990年代後半には、Enron、Kodak、GM、AIG といった企業は現在のマグニフィセント・セブン (GAFAM+NT) のように安定した投資と見なされていましたが、これらの企業は後に大きな問題に直面しました。

Enron は会計スキャンダルで崩壊し、Kodak はデジタル写真の台頭に適応できずに破産を申請し、GM と AIG は2008年の金融危機で政府の救済を受けることになりました。

これらの例から学ぶべき教訓は、現在成功している企業であっても、外部環境の変化/市場の変化によって将来はどうなるか誰にも分からないということです。

Twitter の終わりの始まり

Twitter がイーロン・マスクに買収された時、あるカリスマ的な投資家は、Twitter の終わりの始まりと断言しました。更に、Twitter がネット掲示板のような、どうしようもない連中の溜まり場に成り下がったと吐き捨てました。

私もそう思いますが、今のところ世界の最新情報、リアルタイムな情報を知るには X が最も早く、X に変わるプラットフォームがないのが現実です。