株式市場や為替市場では、一見穏やかに上がり続ける「じり高相場」がときおり現れます。見た目には好調な相場に見えるかもしれませんが、実はその内側には大きなリスクが潜んでいるのです。
今回は、その仕組みと、なぜ突然急落することがあるのかを分かりやすく解説します。
「じり高相場」とは?
「じり高」とは、目立ったニュースもないのに株価がじわじわと上昇を続ける相場を指します。
・急騰はしないが、下がる様子もない
・「押し目」(下がったところで買いを入れるチャンス)がほとんどない
・いつの間にか高値を更新している
このような状態では、「今は売る理由がないから売らない」「とりあえず買っておこう」という心理が広がりやすく、市場に自然と買いが集まります。
ショートが消え、ロングが積み上がる構図
じり高相場では、売る理由がないためにショート勢が動きません。一方、買い手(ロング)は「押し目が来ないから今のうちに」と少しずつ買いを積み増していきます。
・ショート(空売り):将来下がると予想して先に売る投資行動
・ロング(買いポジション):上がると見込んで買う投資行動
こうして市場の内部では、「買い(ロング)に傾いた状態」が静かに進行していくのです。
積み上がったポジションが崩れるとき
時間をかけてロングポジションが増えていくと、投資家の多くが「この相場は大丈夫」と安心し始めます。ですが、ここに大きな落とし穴があります。
信じられた方向性が裏切られた瞬間、パニックが起きやすい。
特に、じり高局面では「高値で掴んだロング」が多く、市場が下がり始めた時に損失に耐えきれず一斉に売りに出る(ロスカットやマージンコール)が起こりやすくなります。
急落のメカニズム
1. ロングがたまり過ぎる
2. 何らかの悪材料で下げ始める
3. ロスカット、マージンコールが連鎖
4. トレンド追随でCTA、MMが売り加速
5. 投げが一旦終わるとじわじわ戻す
急落の引き金は「ショートの正当化」
静かな上昇を続けていた市場が崩れるきっかけは、多くの場合利確だけではありません。
「下がってもおかしくない」と市場が認める材料(たとえば悪材料ニュース、決算ミスなど)が現れた瞬間。
・ロングの利確売り
・新規のショート参入
が同時に流れ込み、一気に相場が下方向に巻き戻されるのです。
ネガティブ・ガンマと下落の連鎖
こうした急落局面では、さらに市場の構造が売り圧力を増幅させることがあります。これが「ネガティブ・ガンマ状態」です。
・CTA(トレンドフォローの機械的投資)による自動売り
・マーケットメイカーのヘッジ売り
などが連鎖的に加わることで、下落が長引いたり加速したりするのです。
それでも、戻すこともある
パニック売りが一巡すれば、買い戻しによる反発(リバウンド)が起こることもあります。ただし、これは「完全な回復」ではなく、「行き過ぎた投げ売りの反動」であることが多く、冷静な判断が求められます。
じり高相場は「強い」わけではない
じり高相場は、「強いから上がっている」のではなく、「下がる理由がないから上がっている」相場です。だからこそ、たった一つの悪材料で崩れやすくなる。このことを常に念頭に置いておく必要があります。
最後に:冷静な目で「傾き」を見る
表面上は穏やかなじり高相場でも、その裏には「買いポジションの偏り」が静かに蓄積されています。相場に流されすぎず、内部構造を意識すること。これが、次の急変動に巻き込まれず、勝ち残るための鍵です。
油断せず、ポジションの偏りに敏感になれ。冷静さこそが武器になります。