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【ALEC】Alector のカタリストとロードマップ

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【ALEC】Alector のカタリストとロードマップ

近況

2025年10月21日、GSK と組んでいた「latozinemab(AL001、FTD-GRN)」Phase 3 INFRONT-3 が主要評価項目を未達。病勢進行を止められず、試験中止+約49%のレイオフ発表。株価は一晩で50%以上崩壊。

OLE / 継続試験もすべて打ち切り、「latozinemab」はパイプラインから実質的に消えると明言。一方で、リストラと集中投資で、残りパイプラインにキャッシュを回して 2027 年までのランウェイを確保したと Q3 決算で説明。

その後、TCG や RTW というバイオファンドが新規ポジションを構築。購入の背景は、「ネットキャッシュ近辺で放置されている神経変性パイプライン+BBBプラットフォーム付きの箱」という位置づけ。

プラットフォームと残りパイプラインはまだ生きている

「AL101 / nivisnebart」Alzheimer’s Phase 2 PROGRESS-AD
・アルツハイマー病向け抗体(タウ/免疫系モジュレーション)。
・76 週の Phase 2「PROGRESS-AD」進行中で、2026年上期に独立した中間解析を予定。
・INFRONT-3 の失敗は FTD-GRN の PGRN 置換であって、AD 向けメカニズム(標的・集団・評価項目)が違うので、「会社丸ごと失敗」ではない点が重要。

「AL044」MS4A / 微小グリア checkpoint(アルツハイマー)
・MS4A(アルツハイマーの GWAS リスク座位)をターゲットにした機能変調抗体。
・microglia の機能を「リスクアレル → プロテクティブアレル」のような状態に“スイッチ”する狙い。
・Phase 1 で Safety / biomarker を評価中(CSF マーカーや PET での微小グリア活性など)。

「AL008 / AL009」免疫オンコロジー(CD47-SIRPα, multi-Siglec)
・CD47-SIRPα 経路を狙う AL008 や multi-Siglec 抗体 AL009 を含む IO パイプラインも存続。
・かつて Innovent に渡していた中国権利を取り戻し、グローバル IND に使う構想も IR に記載。

「AL050 + ABC(brain carrier)」プラットフォーム
AL050:グルコセレブロシダーゼ(GCase)ERT を中枢まで運ぶ ABC プラットフォーム製剤。Parkinson / GBA 関連疾患などが射程。2027年の IND 申請をターゲットとしている。この「ABC blood-brain barrier carrier」を使えば、他社との BD や共同開発の“媒体”にもなり得る。

プラットフォーム(microglia / innate immunity + BBB キャリア)

Alector はもともと「免疫システムから神経変性を治す」microglia 企業で、多数の遺伝学的に裏付けられたターゲット(TREM2, MS4A など)を抱えている点は変わっていない。

「latozinemab」の失敗はプログラム単体の設計・評価項目・疾患 heterogeneity による可能性が高く、「免疫・microglia ターゲット全否定」にはなっていない。

むしろ Phase 3 で大量のバイオマーカー・画像データを取得しており、それが 今後の MS4A / TREM2 系の開発やレギュレーション議論にフィードバックされると会社は強調。

さらに ABC brain carrier のような BBB プラットフォーム技術を持っている点も、「他社との BD / 技術提携のフック」として評価されやすい。

承認済み製品 / 現状

承認済み製品:なし(開発中)

主力候補:nivisnebart(AL101/GSK4527226)— 早期アルツハイマー病(AD)を対象とする抗Sortilin 抗体。GSK と共同開発中(PGRN を上昇させる設計)。

補足:latozinemab(AL001)— FTD-GRN を対象とした P3 INFRONT-3 は 2025年10月トップラインで臨床共主要評価項目を未達(PGRN は上昇するも、臨床アウトカム/画像・バイオマーカーの改善は示されず)。INFRONT-3 のオープンラベル延長および継続試験は中止され、PGRN/ABC プラットフォーム側へリソースを再配分。

主要臨床成績
2025年10月
AL001(INFRONT-3)
P3 トップライン:臨床的有効性を示せず

Q2 2025
AL101(PROGRESS-AD)
登録完了(2025年4月)

2026
AL101(PROGRESS-AD)
独立中間解析(1H 2026 予定)

PGRN / ABC
PGRN 経路+ABC プラットフォームへ経営資源集中(AL101・AL137・AL050・ADP064 など)

臨床試験パイプライン
Phase 3(完了)
latozinemab(AL001)/FTD-GRN

対象:遺伝性前頭側頭型認知症(GRN 変異)

試験:INFRONT-3(確証, 無作為化, 二重盲検, 96週)

主要評価:CDR+NACC FTLD-SB を用いた疾患進行抑制(臨床)+血漿 PGRN(共主要)
進捗:2025年10月 トップラインで臨床共主要評価項目を未達。PGRN は有意上昇も、症状・バイオマーカー・vMRI に治療効果なし。OLE/継続試験は終了。
作用機序:PGRN 補充による FTD-GRN 病態修飾を志向(GSK との共同開発)

Phase 2
nivisnebart(AL101/GSK4527226)/早期AD

対象:早期アルツハイマー病(MCI〜軽度 AD)

試験:PROGRESS-AD(無作為化, 二重盲検, プラセボ対照, 76週)

主要評価:早期 AD における疾患進行(CDR-SB 等)と PGRN 上昇を含むバイオマーカー・臨床指標
進捗:2025年4月 登録完了。試験完了は 2026年 想定、1H 2026 に独立中間解析予定。
次ステップ:中間解析結果に応じて拡大型/登録試験(P3)デザインおよび適応拡大方針(AD・他の神経変性疾患)を決定。

参考
AL002(TREM2)

状況:INVOKE-2 P2 で主要評価項目を未達。臨床開発は終了し、リソースは PGRN/ABC プログラムへ再配分。

教訓:神経炎症ターゲットのリスクを再評価し、遺伝学的に強い PGRN/ABC 軸へ優先度をシフト。
反映:AL001/AL002 の経験を踏まえ、AL101 および ABC-enabled 抗体/酵素/siRNA の設計・評価にフィードバック。

前臨床
ABC プラットフォーム(AL137/AL050/ADP064-ABC など)

対象:アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、タウ関連認知症 など

内容:Alector Brain Carrier(ABC)技術を用いて、末梢投与でも高い脳移行性を実現する抗体・酵素・siRNA プログラム群。

進捗:AL137(ABC-enabled 抗Aβ 抗体/AD)と AL050(ABC-enabled GCase 酵素補充/PD)をリード候補として IND-enabling 試験を進行中。AL137 は 2026年、AL050 は 2027年 の IND 申請を目標。
備考:ADP064-ABC(抗タウ siRNA/AD)など ABC-siRNA プログラムも前臨床で継続し、AD・タウオパチー向けの疾患修飾候補として評価中。

パイプライン早見表
パイプライン 対象 臨床フェーズ 規制デザイン 安全性(AESI) 用法・用量 / 併用戦略 市場規模イメージ ポイント(市場評価)
latozinemab(AL001) 遺伝性 FTD(GRN 変異) Phase 3(完了・主要未達) BTD(FDA)、Fast Track、オーファン(米欧) IRR(インフュージョン関連反応)、過敏症、感染症イベントの監視 静注(単剤)/4週毎投与で PGRN 補正を維持 希少:FTD-GRN の遺伝性サブセット 確証試験 INFRONT-3 は 96週 P3 で臨床共主要評価項目を未達(PGRN は有意上昇も、症状・バイオマーカー・vMRI に効果なし)。OLE/継続試験は中止となり、今後の開発は縮小・戦略再検討フェーズ。
nivisnebart(AL101/GSK4527226) 早期アルツハイマー病 Phase 2 IRR、感染症、肝酵素変動などを標準的に監視 静注(単剤)/76週試験。PGRN・AD バイオマーカーに基づき用量・投与間隔を最適化。 大:AD の疾患修飾候補(より広い神経変性疾患への展開余地) 2025年4月 登録完了。
1H 2026 に独立中間解析、2026年 試験完了見込み。結果次第で P3 への移行および GSK 主導での大規模開発が焦点。
AL137(ABC-enabled 抗Aβ 抗体) アルツハイマー病(AD) 前臨床 クラスとしての抗Aβ 抗体に共通する ARIA、IRR 等を想定 静注または皮下投与を想定。ABC により脳移行性を高め、既存 Aβ 抗体より低用量での効果・安全性バランス改善を狙う設計。 大:既存 Aβ 抗体の次世代候補。AD の疾患修飾薬市場。 Alector Brain Carrier(ABC)を適用したリード候補。2026年の IND 申請をターゲットに IND-enabling 試験を進行中。
AL050(ABC-enabled GCase 酵素補充) パーキンソン病(PD)など GCase 不全関連疾患 前臨床 酵素補充療法としての免疫原性、注入関連反応、感染症リスクなど 静注で投与し、ABC により血液脳関門を越えて中枢にも GCase をデリバリーする設計。末梢・中枢の双方で GCase 活性を補正。 中〜大:GCase 関連 PD・LBD などの神経変性疾患。 2027年の IND 申請を目標に前臨床開発中。既存の ERT を中枢へ拡張するポテンシャルが注目点。
ADP064-ABC(抗タウ siRNA) タウ関連アルツハイマー病/タウオパチー 前臨床 RNAi クラスとしての肝毒性・免疫活性化・オフターゲット効果などのモニタリング想定 全身投与した siRNA を ABC 技術で脳に送り込み、タウ発現を低下させることで神経変性の進行抑制を狙う設計。 中:AD・PSP などタウ標的疾患の疾患修飾候補。 ABC 技術を用いた siRNA プラットフォームの中核候補。具体的な IND タイミングは未公表だが、ADP037/ADP050 と同様に 2020年代後半の臨床入りを目標とする方針が示されている。

ポイント

最重要イベントだった AL001(INFRONT-3)P3 トップライン(2025年10月) は、PGRN バイオマーカーの有意改善を示しつつも、臨床主要評価項目を満たせず「臨床的有効性なし」という結論に。これを受けて OLE/継続試験は中止となり、希少疾患の単独収益ドライバーからは後退しました。
一方、AL101(PROGRESS-AD) は 2025年4月に登録完了済みで、2026年上期 に独立中間解析が予定されています。AD という大市場で PGRN 経路が疾患修飾シグナルを出せるかが、同社 PGRN フランチャイズの行方を左右する分岐点です。
さらに、ABC プラットフォーム(AL137/AL050/ADP064-ABC など) が中長期のバリュー・ドライバー候補。既存抗体・ERT・siRNA を「脳に届け直す」プラットフォームとして、AD・PD・タウオパチーなど広い適応をターゲットにしています。
AL002(TREM2)は P2 主要未達で終了しており、現在は PGRN 経路(AL101)と ABC プラットフォーム(AL137/AL050/ADP064 など)へ集中して、より汎用性と市場ポテンシャルの高いプログラム群に経営資源を再配分しています。

開発ロードマップ
Q2 2025

AL101(PROGRESS-AD)登録完了

早期 AD を対象とした 76週 P2 の被験者登録が完了。盲検下フォロー〜イベント蓄積フェーズへ移行。

2025年10月

AL001(INFRONT-3)トップライン公表

臨床共主要評価項目を未達。PGRN 上昇は確認されるも、症状・バイオマーカー・画像に効果なし。OLE/継続試験は中止され、PGRN/ABC パイプラインの再優先付けへ。

2026

AL101 独立中間解析・試験完了

PROGRESS-AD の独立中間解析(1H 2026)で安全性・有効性シグナルを評価。2026年中の試験完了を目指し、結果に応じて拡大型/登録試験デザインを確定。

ポスト-2026

AL101 P3 移行是非判断/ABC プログラム IND

AL101 の中間解析・最終結果に応じて P3 移行の是非を判断。同時に、AD 向け ABC-enabled 抗Aβ 抗体 AL137(2026 IND 目標)、PD 向け ABC-enabled GCase 補充 AL050(2027 IND 目標)、ADP064-ABC など次世代パイプラインを進展。

注目すべきカタリスト
短期(〜2025年)
AL001(INFRONT-3)P3 詳細解析・学会発表、およびパイプライン再編方針の明確化(レイオフ・集中領域のアップデートなど)。

中期(2026年)
AL101(PROGRESS-AD)独立中間解析および試験完了 → AD における PGRN 経路の疾患修飾ポテンシャルの有無が判明。

長期(ポスト-2026)
AL101:P3 開始の是非判断と GSK 主導のレイトステージ開発の行方/ABC プラットフォーム(AL137・AL050・ADP064 など)の IND 提出〜初期ヒト POC。