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バイオテクノロジーの真価は「時間」と「偶然の適応」にあり

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バイオテクノロジーの真価は「時間」と「偶然の適応」にあり

バイオテクノロジーの世界では、最初の疾患では失敗でも、思わぬ形で大きな成功につながることもあります。最初に狙った疾患ではうまくいかなかった薬が、まったく別の適応症でブレイクスルーを起こすことがあります。

科学の進歩は常に直線的とは限らず、むしろ非連続的かつ予測不可能な形で進むことの方が多いのです。その例を昨今のケースから見てみましょう。

Verona Pharma (VRNA) の「ensifentrine」が証明した「15年越しの成功」

イギリス Verona Pharma の「ensifentrine」は、2009年に初めてヒトでの臨床試験が実施されました。当初から慢性閉塞性肺疾患(COPD)を狙っていたとはいえ、その道のりは平坦ではありませんでした。

10年以上の開発期間を経て、2024年6月にFDA承認を取得。デュアルPDE3/4阻害薬という独自のメカニズムが、ついに臨床現場での価値を証明したのです。正しいメカニズムが、最終的に「正しい適応」と出会った結果でした。

2017年の4月下旬に IPO した Verona Pharma の株価が大きくブレイクしたのは、2024年6月中旬です。そして2025年7月9日にメルクが Verona Pharma を買収しました。

フランスのバイオ企業 Abivax (ABVX) の「obefazimod」の「適応シフト」が導いた潰瘍性大腸炎への挑戦

フランスのバイオ企業 Abivax の「obefazimod(ABX464)」は、2015年にHIV治療薬として初めてヒトでの試験が開始されました。しかしその後、抗炎症作用が注目され、潰瘍性大腸炎(UC)などの自己免疫疾患へと応用の方向がシフト。

現在ではUCを対象としたフェーズ3試験が進行中で、将来的な承認が期待されています。当初とは全く異なる適応で、再び脚光を浴びているのです。

臨床バイオの世界では、時間がかかるのは当然です。そして “諦めなかった分子” が花開くことがあります。

新薬が世に出るまでには、10年以上かかる

新薬が世に出るまでには、第一相(first-in-human)試験から10年以上かかるのも珍しくありません。以下のような要因が開発期間を長引かせます。

・副作用の解析や用量の最適化に時間を要する
・複数の疾患で PoC(proof of concept)を模索する
・規制当局 (FDAなど) との協議や製造体制の整備が必要
・資金調達や経営戦略の変更に左右される

このように、「なぜこの薬がいまさら話題に?」と思えるような分子でも、適応症と完璧にマッチした瞬間に評価が一変するのです。

分子が適応症と出会う時

薬が適応症と出会う瞬間こそ、真の転換点となります。

開発期間が長引くことも、最初のターゲットが外れることもバイオの世界ではよくあることです。ですが、メカニズムが優れている薬剤は、いずれ適切な適応と出会う可能性があります。

その時こそが、企業にとっても投資家にとっても最大の価値創出の瞬間となります。

だからこそ、バイオテクノロジーには「辛抱強い資本(patient capital)」が求められるのです。科学の進歩が予測不可能であるがゆえに、その先にある報酬もまた、想像以上のリターンをもたらすことがあるのです。

バイオ株投資における “分子の再評価” という視点

「過去に失敗した薬」や「古くからある分子」だからといって、可能性がゼロなわけではありません。むしろ、過去の失敗を踏まえた上で再定義され、適応を変えて再挑戦されることで、大きな成功につながることもあるのです。

投資家にとっても、「いつ、どこで、どんな適応でその薬が開花するか」を見極める視点は、一過性の株価材料よりも価値がある洞察かもしれません。

科学には時間がかかる。だが、「分子と適応が出会うとき」、物語は大きく動き出すのです。