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Eli Lilly が Ventyx Biosciences を1株14ドルの現金で買収

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Eli Lilly (LLY) は Ventyx Biosciences(VTYX)を1株$14.00の現金で買収(株式価値 約$1.2B)する契約を2026年1月7日に発表しました。

2026年上期クローズ見込みで、直近30日VWAP(2026/1/5終了)に対して約+62%のプレミアム、という設計です。Reuters は、報道で株価が先に動いた結果、発表時点の「直前終値」に対してはプレミアムは小さめ(約2%程度)という見え方も伝えています。

1月6日の市場引け前に、WSJ によって買収観測が発表された際は、一時25ドルまで急騰しています。

なぜ Lilly が VTYX を買うのか?

ポイントはシンプルで、Lilly が “炎症” を次の巨大な横展開テーマとして扱っていることです。Reuters も「肥満・糖尿病(GLP-1)一極からの拡張」として位置付け、肥満と絡む心血管テーマに刺さり得る中期プログラムがある点を示唆しています。

そして Lilly の側から見ると、$1.2B (12億ドル) は “損しても痛くないサイズ”。だからこそ、当たれば巨大(慢性炎症→心血管/代謝/神経変性へ波及)、外れでも限定的(金額が小さい)という、ビッグファーマに典型的な “オプション買い” として合理的です。

Ventyx のジェットコースターは「エントリーが全て」を可視化した

他の臨床段階のバイオ株同様、Ventyx のジェットコースターの株価は、どこで買いに入るか?のエントリーポイントが全てだということを再確認させてくれます。

・IPO:2021/10、$16.00/株
IPO時の時価総額は推計で約$0.78B水準(“$800M近辺”)

・ピーク:2023/3/3 終値 $46.65(最高値)
「TYK2(VTX958)が “次の大型枠” になり得る」+「Phase 2 が複数走っていて近い読出しがある」+「同クラスに超大型の前例」が揃って、2023年初のリスクオン局面で評価が一気に詰まった局面でした。

・ボトム:2025/4/7 $0.78(最安値)
24年11月にトランプ再選、RKJ による不確実性などからバイオセクターは売り一色、トドメのトランプ関税発動 (予想より税率がべらぼうに高い) が大底となった。

・今回の買収:$14(=IPO価格$16から-12.5%)
Eli Lilly が12億ドル、1株14ドルの現金で買収。

ここで重要なのは、企業価値(時価総額)は IPO 時より増えているのに、株価は IPO より下というねじれです(IPO時 約$0.78B → 今回 約$1.2B)。

この “ねじれ” が示すのは、バイオの宿命である希薄化(資金調達+株式報酬)。会社としての価値が増えても、1株あたりの取り分が薄まれば株価リターンは伸びないということです。

つまり、IPO 時に買ってずっと持っていてもマイナスとなります。一方で大底の1ドル以下で買えた場合は、ざっくり14倍というパフォーマンスが出せたことになります。

「ピボットの勝利」でも、株主の勝利とは限らない

VTYX はIPO当時、「経口で効く TYK2 阻害薬なら、免疫疾患で巨大市場を取りにいける」という “王道ストーリー” に乗っていました。ところが結果として、買い手の Lilly が買ったのは「クラスリーディング NLRP3 阻害薬ポートフォリオ」でした。

TYK2 は「当たっているように見えて、勝ち切れない」現実が出た

・Psoriasis:P2 は統計的には成功、でも “勝てる効き目” ではなかった
「VTX958(TYK2)」は乾癬 P2 で主要/副次を満たしつつも、会社自身が「効き目の大きさが社内目標に届かない」と表明し、乾癬/乾癬性関節炎の開発を止めました。

・Crohn’s:P2で主要評価項目を未達→「社内リソースでは続けない」
その後の Crohn’s 病 P2 では、主要評価項目(CDAI変化)を未達。会社は 追加試験を社内リソースで行わない見込みと述べています。

TYK2 は競争が激しく、勝ち筋は「統計的に有意」ではなく “臨床的に圧倒的に見えるか/差別化が明確か”。ここで躓くと、パイプラインの “物語の重心” を移さざるを得なくなる。

ピボット先としての NLRP3 は「Lillyの欲しい地図」と一致した

NLRP3 は “炎症の根っこ” に触れるスイッチで、心血管・代謝・神経変性・自己免疫へ横展開しやすいのが買い手にとっての魅力です。買収発表文でも Lilly は「慢性炎症が多くの疾患のドライバー」という前提を強調しています。

Lilly が “主役” として明示したのは、この NLRP3 2枚看板

買収発表文における書きぶりははっきりしています:
・VTX2735:末梢制限型NLRP3阻害薬。再発性心膜炎で Phase 2
・VTX3232:CNS移行型NLRP3阻害薬。心血管リスク因子を対象に Phase 2 でリスク因子の有意な低下を示した、と明記。加えて 早期パーキンソン病のPhase 2バイオマーカー試験(/2a)を完了とも記載。

そして「IBDポートフォリオ」として tamuzimod(VTX002, S1P1R)Phase 2、VTX958(TYK2)Phase 2 も併記されています。要するに、最終局面では “TYK2中心からピボットして、NLRP3中心” が買い手にとって正解になった、という構図です。

それでも株価は途中で何度も殴られる:正しいピボット≠良い株主リターン

ここが投資家の一番痛い学びです。ピボットが正しくても、その正解に到達するまでの 時間・資金・失敗確率を市場は織り込みにくる。

競争領域での “勝ち切れないデータ” が出た瞬間、将来キャッシュフローの期待値が急低下し、株価はバリュエーション調整で大きく落ちる(VTYX の TYK2 がまさにこれ)。

その後に「新しい柱」が育っても、株主側には*機会損失(時間価値)が残る。資金調達が絡めば希薄化も効いてくる。

まとめ:VTYX の “教科書的ストーリー”

第一幕:IPO = TYK2 の大型市場ストーリー
第二幕:TYK2 は “統計的に当てても勝ち切れない” 現実が出て、評価が崩れる
第三幕:NLRP3 を2本立て(末梢×CNS)にして「炎症の根っこ→複数領域」の地図に合わせ、Lilly の戦略にハマって買収