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欧米大手が中国バイオに注目する時代へ

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欧米大手が中国バイオに注目する時代へ

ここ1、2年くらい、欧米の大手製薬企業が中国のバイオ企業が創出した二重特異性抗体(bispecific)および三重特異性抗体(trispecific)をインライセンス(導入)契約するケースが増えてきました。

これは単に欧米の大手製薬企業が、コストの安い中国バイオに手を出している … というような構図ではありません。中国バイオテックの、スピードとコスト面で魅力的な技術獲得、自社パイプラインの空白を埋める、競合に先んじた技術アクセス、など多数の要因が絡み合っています。

特に2023〜2025年、この2年で一気にディールが加速しています。契約のほとんどが2023年中盤〜2025年Q2で集中しており、2024年はピークアウトどころか引き続き加速中です。

現在進行形でグローバル製薬企業が「中国バイオ発の抗体創薬技術」に本格的に依存し始めたといえるかもしれません。

中国バイオテックの急成長

かつて中国のバイオ企業は「後発の模倣」や「ジェネリック開発」にとどまる印象でしたが、近年は次のような変化が起きています。

・抗体工学・分子設計の高度化
例:Akeso、LaNova、EpimAb などは、二重特異性・三重特異性抗体の設計においてグローバルでも競争力のある技術を有する。

・独自ターゲットやモダリティの創出
例:TREM2、TSLP×IL-4Rなど、欧米大手もまだ手を出していない標的の先行開発。

・グローバル臨床対応力の向上
海外での治験体制(米欧治験・IND)を整備する中国企業が増え、「ライセンスすれば即グローバル展開できる」体制が整いつつある。

昨今では、Pfizer、Sanofi、AbbVie、Merck、BioNTech、Astellas、Summit、Instil Bio といったグローバル大手が、中国バイオ企業が創出したパイプラインをライセンスしています。

注目すべきは「VEGF」「PD-1」「CD3」「TSLP」など定番ターゲットの複合化

特異性の対象は、抗がん剤でおなじみの PD-1、VEGF、CD3、CD19、TSLP、IL-4R、CTLA-4 などが目立ち、既存の有望ターゲットを2つ以上組み合わせる設計思想が主流です。

特に PD-1 × VEGF(例:SSGJ707, LM-299, Ivonescimab)は複数の契約で採用されており、「免疫+血管新生」同時制御の有望性が世界的に認識されています。

疾患領域はがん中心だが、自己免疫も台頭

疾患領域は、がん(Various tumor types)が大半を占めるが、TSLP×IL-4R(喘息・アトピーなど)など自己免疫領域の抗体も登場しています。

「EverdellのHN-1002」(AbbVie が導入)や Biosion の「BSI-045」などがこの領域で、新たなメガ市場創出の可能性を秘めています。

開発コストとスピード:内製より効率的な「Buy vs Build」戦略

欧米で抗体をゼロから開発すると、早期探索~IND準備までに4〜6年+数億ドルのコストがかかります。一方、中国バイオ企業はスピード・実験資源・コスト構造が優れており、”IND直前” や “PoC前” の状態で売る体制ができています。

よって、「創るより買った方が早く、かつ安く、しかも質が高い」状況に、欧米の大手バイオ企業が手を出しているという構図になっています。

中国企業にとっては「出口戦略」、欧米企業にとっては「補完戦略」

中国側にとっては、海外市場への販路を持たない、または開発体制が限られるため、欧米パートナーにライセンスするのが事実上の出口(Ex-US戦略)として機能しています。

また、中国本土の権利は保持できるケースが多く(中国以外をライセンス)、自己資金調達にもつながります。

一方で、欧米側にとっては、自社の免疫腫瘍・自己免疫・希少疾患のポートフォリオの補完として、中国創薬が効果的です。更に競争激化する創薬環境で、早期アクセスすることで競合優位を確保することができます。

バイオ資産の「飽和」:欧米社内パイプラインだけでは埋まらないギャップ

多くの欧米大手製薬企業は、今後5〜10年で複数のメガパテント切れ(LOE)に直面します。同時に、自社内の R&D (研究開発) からは必ずしも次の「柱」が出てきていないのが現状です。

そのギャップを埋めるために、外部パイプライン(特に臨床前・早期臨床)への依存度が増大しているのです。

中国市場の地政学リスクヘッジとしての「分権型戦略」

中国市場の規制変化、米中対立などにより、「現地事業は持ちにくいが、技術は欲しい」という構造も注目に値します。中国本土の事業を持つよりも、技術だけ導入し、世界展開に活用するというスマートな戦略が選ばれています。

契約規模は非常に大型化

最も高額な案件は Pfizer による「SSGJ707」の契約:最大$6.1B($1.25B upfront + $4.8B milestone)。他にも、Akeso の Ivonescimab(Summit経由)が最大$5B規模、Bicthes の「BNT327」も$3B超規模など。

$500M〜$1.25Bの前払い(アップフロント)+ 数十億規模のマイルストーン支払いが新常態になっており、中国創薬の国際的信用力が飛躍的に向上している証拠です。

最近の欧米大手バイオ企業と中国バイオのライセンス事例

発表日 欧米パートナー 中国バイオ企業 対象モダリティ Upfront Milestone Total
2025/5/19 Pfizer 3SBio PD-1 × VEGF $1.25B $4.8B $6.1B
2023/4/17 Sanofi Everdell αβT × IL1A / IL23 × IL1A $125M $1.72B $1.85B
2023/11/13 AbbVie Simcere Pharma GRPR5CD × BCMA × CD3 非開示 $1.1B >$1.1B
2024/11/14 Merck LaNova Medicines PD-1 × VEGF $588M $2.7B $3.3B
2024/9/8 Merck Curon Biopharma CD3 × CD19 $700M $600M $1.3B
2023/12/28 Astellas EpimAb PD-1 × SIRPα $37M $1.7B $2.1B
2023/11/6 BioNTech Bicthes PD-1 × VEGF-A $38M $3B $3.04B
2022/12/6 Summit (E. Schmidt支援) Akeso PD-1 × VEGF $500M $4.5B $5B

この動きは一時的なものではなく、「中国発の創薬技術がグローバル化した」ことを象徴する構造的トレンドです。今後は日本企業を含む他国バイオテックにも波及し、「グローバル製薬×アジアバイオの水平連携」が標準となっていく可能性が高いです。