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【TRDA】Entrada Therapeutics カタリストとロードマップ

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25年11月ファンドの買いとインサイダー買い

TCG の新規取得は、「ここから2〜3年で“形になる”DMD/DM1プラットフォーム」と見て入ってきたクロスオーバー資金。Baker Bros のインサイダー買いは、増資も含めて腹を括って乗るタイプの高コンヴィクション長期ポジション。

TCG の TRDA に対する見立て:
プログラムの“形”がかなり見えてきた
・ENTR-601-44 / -45:Phase 1/2 進行中
・ENTR-601-50:FIH 直前
・VX-670(DM1):Vertex 主導の Phase 1/2 が進行
→ 「2026年に最初のヒト筋肉データが揃い始める」ラインがはっきりしてきた年。

キャッシュランウェイ Q3 2027 まで
→ 2026〜27年の DMD/DM1 初期 PoC データまで一応走り切れるラインを会社自ら示した。

「EEV×DMD/DM1はうまくいけばブロックバスター級、現金+Vertexコラボ+現時点の時価総額を見ても、2026 データまでの上振れが大きい」という見立て。

Baker Bros のインサイダー買いの意味合い:
モダリティ×プラットフォーム(EEV)で “筋” が良い rare disease テーマ
・DMD:既に exon 44/45/50/51 の 4本立てで、「世代ロードマップ」を描きやすい。
・DM1:Vertex がフロントに立つことで、デリスク+非希薄性マイルストン/ロイヤルティが見込める。

キャッシュラン+マイルストンで “1回分の大きいデータ” までは走れそう
・$327M+Q3 2027 ランウェイ
・Vertex からの追加マイルストンの可能性
→「最初のDMD PoC+DM1初期データまでは自力で行ける」という構図。

壊れているバリュエーション
2024〜25年にかけて、バイオ全般のリレ rating でTRDAもかなり売り込まれていた。「プラットフォームの質に対して安い」と判断したとき、Baker はよくS-3直後〜情報未整備のタイミングでごっそり仕込むクセがあります。

「増資リスク込みで EEV×DMD/DM1 の asymmetry を買っている」

ハイライト

2025年11月6日:Q3 2025 決算を発表。現金等$327M2027年Q3までのキャッシュランウェイをガイダンス。DMDフランチャイズ(exon 44 / 45 / 50 / 51)とDM1(Vertex 共同)で複数の臨床試験を同時進行。

2025年8月6日:ENTR-601-44(exon 44 EEV-PMO)グローバル Phase 1/2 MAD 試験ELEVATE-44-201で初回患者投与。2026年Q2にコホート1(6 mg/kg)データ、続いて高用量コホートを予定。

2025年5月28日:ENTR-601-45(exon 45 EEV-PMO)について、英国・EU 規制当局から Phase 1/2 試験ELEVATE-45-201開始の認可取得。2025年Q3 に初回投与を計画。

2025年2月3日:ENTR-601-44に関して、英国 MHRA が Phase 1/2 MAD 試験ELEVATE-44-201を承認。DMD exon 44 スキップ適応患者を対象にした最初のグローバル試験を開始。

2022年12月8日:VertexDM1(Myotonic Dystrophy Type 1)向け EEVオリゴで大型コラボレーション契約。Entrada は$224M アップフロント+$26M の株式投資を受領し、成功時には段階的マイルストンとロイヤルティを獲得可能な体制に。

承認済み製品 / 現状

承認済み製品:なし(開発中)

主力候補:ENTR-601-44 / -45 / -50 / -51(EEV™-PMO によるエクソンスキッピング)— Duchenne muscular dystrophy(DMD)の exon 44 / 45 / 50 / 51 スキップ適応サブセットをターゲットとする DMD フランチャイズ。

補足:Vertex と共同開発中の DM1 向け EEV オリゴ(コードネーム VX-670:DMPK 毒性RNAを標的)が続き、眼科・CNS など非公開の EEV パイプラインも preclinical で進行中。現金等 $327M(2025年9月末)で2027年Q3までのランウェイをガイド。

主要臨床成績
2026年Q2
ENTR-601-44(ELEVATE-44-201)コホート1 初期データ(6 mg/kg)

2026年Q2–Q3
ENTR-601-45(ELEVATE-45-201)コホート1 初期データ(5 mg/kg)

2026年中
ENTR-601-50(ELEVATE-50-201)FIH 安全性/PK 初期読み(Phase 1/2)

2027年Q3
現行計画ベースの運転資金の目処(Q3’25 時点ガイダンス)

臨床試験パイプライン
Phase 1/2
ENTR-601-44(DMD exon 44 EEV-PMO)

対象:exon 44 スキップ適応 DMD(歩行可能/非歩行の若年〜成人)

作用:EEV™ による細胞内デリバリー付き PMO で exon 44 をスキップし、短いが機能的な dystrophin を発現させる設計

進捗:英国・EU で ELEVATE-44-201(Phase 1/2 MAD)実施中。2025年Q2に初回投与済み、コホート1(6 mg/kg)データを2026年Q2目安で予定。
安全性/PD:2023年の FDA clinical hold を経て、毒性懸念に対応した用量設計で再開。CK・肝酵素・免疫反応などを重点モニタリング。
次読出し:2026年Q2(コホート1)→ その後高用量コホート(〜18 mg/kg)に拡大予定。

Phase 1/2
ENTR-601-45(DMD exon 45 EEV-PMO)

対象:exon 45 スキップ適応 DMD(歩行可能な青年〜成人)

作用:EEV™-PMO により exon 45 をスキップし、残存機能を持つ dystrophin を再発現させることで筋機能低下を抑制

進捗:ELEVATE-45-201(グローバル Phase 1/2 MAD)が 2025年Q3 に初回投与。英国・EU のサイトで登録進行中。
フェーズ:Phase 1/2 立ち上がりフェーズ(コホート別に安全性/PK/PD を評価)。
次読出し:2026年Q2–Q3にコホート1(5 mg/kg)初期データ、その後コホート2/3(最大 15 mg/kg)データが続く見込み。

Phase 1/2
DM1 プログラム(VX-670 / ENTR-701 系)

対象:Myotonic dystrophy type 1(DM1)

作用:EEV オリゴで DMPK の毒性リピートRNAを標的とし、RNA シンクを減少させスプライシング異常など病態の是正を狙う

進捗:Vertex 主導の Phase 1/2 が進行中。詳細なデザイン・施設などは Vertex 側開示ベースだが、早期安全性とバイオマーカー readout を探索。
取引条件:Entrada はアップフロント $224M+$26M equity、開発/承認/商業マイルストンと売上ロイヤルティを受領可能な構造。
次読出し:Phase 1/2 の進捗アップデートが2026年〜2027年にかけて出てくる可能性。

DM1 フランチャイズの初期 PoC 取得が中期最大のカタリスト

パイプライン早見表
パイプライン 対象 臨床フェーズ 規制デザイン 安全性(AESI) 用法・用量 / 併用戦略 市場規模イメージ ポイント(市場評価)
ENTR-601-44(EEV-PMO, exon 44) DMD(exon 44 スキップ適応) Phase 1/2 グローバル P1/2 MAD(ELEVATE-44-201:用量漸増→拡大コホートで安全性/PD/初期有効性を評価) クラス留意:CK 上昇、肝酵素、腎機能、注射部位反応、免疫反応(抗薬物抗体)を重点監視。FDA clinical hold 経験を踏まえ慎重な用量設計。 反復静注(EEV-PMO)。将来的にはステロイドなど標準治療との併用や、他 exon スキップ薬とのシーケンス最適化も検討余地。 中〜大:exon 44 適応は DMD 全体の一部だが、小児から成人まで長期治療が見込まれる。 既存 PMO より高い細胞内デリバリーと dystrophin 発現が示せれば、クラス再定義のポテンシャル。
コホート1 データは2026年Q2目安。
ENTR-601-45(EEV-PMO, exon 45) DMD(exon 45 スキップ適応) Phase 1/2 ELEVATE-45-201:ランダム化二重盲検+オープンラベルの P1/2(MAD パートA→安全性/有効性パートB) EEV-PMO クラス共通の CK/肝酵素/腎機能/血圧変動/免疫反応をモニタリング。高用量群では筋分解マーカー・心筋への影響も注視。 反復静注。歩行可能コホートで dystrophin %正常と機能指標(6MWD等)を評価し、長期拡大コホートへつなぐ設計。 中〜大:exon 45 適応も DMD 全体のサブセットだが、グローバルで堅実な患者数。 初期コホートの安全性と dystrophin 発現が、EEV-PMO プラットフォーム全体の評価を左右。
初期 readout は2026年Q2–Q3予定。
ENTR-601-50(EEV-PMO, exon 50) DMD(exon 50 スキップ適応) IND承認準備 → Phase 1/2 直前 ELEVATE-50-201:グローバル P1/2 MAD を UK から立ち上げ予定(2025年Q4 に規制申請済み)。 前臨床では肝腎毒性や補体活性化などを重点評価。FIH では低用量から CK/肝酵素/免疫指標を段階的に確認。 反復静注想定。ENTR-601-44/45 の安全性・PD 情報を踏まえ、より効率的な用量設計が可能。 中:exon 50 サブセットは限定的だが、ライフタイム治療となる可能性。 2026年中の FIH データで EEV-PMO クラスの一貫性を確認できるかが焦点。DMD フランチャイズ3本目の柱。
ENTR-601-51(EEV-PMO, exon 51) DMD(exon 51 スキップ適応、既存 SRPT 領域) IND-enabling 後期 前 IND 準備(毒性・安全域を確認しつつ、将来は P1/2 で既存 exon 51 製剤との比較も意識した設計が想定される)。 既存 PMO クラスの肝腎毒性・注射部位反応などに加え、EEV 部位由来の免疫/補体活性化リスクを評価。 反復静注想定。SRPT など既存 exon 51 製剤との差別化(投与量・頻度・dystrophin %・機能指標)を意識。 大:exon 51 は DMD exon スキップ市場で最大サブセットの一つ。 既存標準治療がある分、データハードルは高いが、EEV-PMO の優位性を示せれば upside 大。
2026〜2027年に IND / FIH が視野。
DM1 プログラム(Vertex 共同:VX-670 系) Myotonic dystrophy type 1(DM1) Phase 1/2 Vertex 主導の P1/2(安全性・PK/PD・バイオマーカーと機能評価)。詳細な規制デザインは Vertex 開示ベース。 核内毒性RNA標的オリゴに伴う肝毒性・血小板/凝固・心毒性などをモニタリング。 皮下 or 静注を想定。DM1 の病態修飾を狙う長期投与レジメンで標準治療との併用戦略を検討。 大:希少疾患だが高未充足で、根本的治療が確立していない領域。 アップフロント $224M+$26M equity+最大$485M マイルストン+ロイヤルティと大型ディール。
ヒト PoC 取得で TRDA の DM1 フランチャイズが一気に“②寄り”へ。

独自の EEV プラットフォームとは?

TRDA の EEV (Endosomal Escape Vehicle) は、「エンドソームの壁をちゃんと突破できる“賢いセルペネトレーティングペプチド(CPP)+コンジュゲート・プラットフォーム」です。

普通のオリゴや抗体が細胞の中に入っても1〜2%しか標的に届かないのに対して、プレクリニカルでは EEV だと ~50%が標的に到達すると会社は言っています。

何を解決するプラットフォームなのか?

課題:細胞膜+エンドソームの二重の壁
病気の原因となる分子標的の ~75%は細胞の中にある。でも、従来の抗体やオリゴは細胞膜はなんとか通れてもエンドソームから外(細胞質)にほとんど出られない。
→ 標的に届くのは 投与量の 1〜2% と言われる。

TRDA の主張としては、EEV を使うと、細胞への取り込み効率 ~90%、そのうち ~50%がエンドソームから脱出して標的まで届くというデータを2025年の IR スライドで出しています。
→ 要するに「同じオリゴでも、届け方を変えると効き方が全然違う」を狙ったプラットフォーム。

EEV の構造と基本メカニズム

ざっくり構造イメージ:コアは 環状のセルペネトレーティングペプチド(CPP)モチーフ。これに PMO(phosphorodiamidate morpholino oligo=スプライシングを変えるオリゴ)、ASO / siRNA、将来的には酵素・抗体などの “cargo” を直結したコンジュゲートになっている。

細胞に入るまで、細胞膜のリン脂質二重層に直接結合、TRDA 自身の説明でも「EEV はリン脂質二重層に結合し、エンドサイトーシスで細胞内に取り込まれる」と書いている。エンドサイトーシスでエンドソームに入る “Endosomal Escape Vehicle” の本領。

入った後が従来と違うポイント:
EEV モチーフが エンドソーム膜との相互作用を変えて、“早期に”エンドソームから脱出させる。研究論文では、エンドソームの「collapse」や「budding」を促し、エンドソーム全体を破壊せずに cargo を細胞質に放出するようなメカニズムが示唆されている。TRDA の社外スライドでは、
→ 標準的な CPP/オリゴだとエンドソーム脱出 ~2% vs EEV だと ~50% という比較が出ています。

その後、オリゴ cargo は、細胞質 → 核へ移行、pre-mRNA のスプライシングを変える(DMD)、病的 RNA をブロックする(DM1)…といった本来の機能を発揮、という流れです。

ポイント
  • DMD+DM1 にフォーカスした EEV プラットフォーム:DMD 向けに exon 44 / 45 / 50 / 51 の4本建て、さらに DM1(Vertex 共同)で RNA 創薬の“代表的2疾患”を押さえる構造。
  • 複数の臨床試験が 2026年に初期データ集中:ENTR-601-44/45 の Phase 1/2 データと ENTR-601-50 の FIH により、EEV-PMO クラス全体のヒト PoC が一気に評価されるタイミング。
  • 財務余力:2025年9月末時点の現金等は約$327Mで、現行計画ベースのキャッシュランウェイは2027年Q3まで。DMD と DM1 の主要 PoC に自前で到達できる水準。

ファンドのポジション

DMD/DM1 向けの中期データカタリストが 2026年に集中し、かつ 2027年Q3 までのランウェイが確保されていることから、専門バイオファンド・長期志向機関にとっては「希薄化リスクをある程度織り込みながら、プラットフォームごとオプションを買う」タイプの銘柄になっていると考えられます。短期では DMD 初期データ前後のイベント・ドリブンでボラティリティが高まりやすく、中期では DMD と DM1 の PoC 成否が機関のポジション増減を左右するフェーズです。

開発ロードマップ
完了:2025年Q2

ENTR-601-44 ELEVATE-44-201(Phase 1/2)初回投与

英国・EU で exon 44 スキップ適応 DMD 患者への多回投与 MAD 試験を開始。コホート1(6 mg/kg)の安全性/PK/PD 評価へ。

完了:2025年Q3

ENTR-601-45 ELEVATE-45-201(Phase 1/2)初回投与

歩行可能な exon 45 スキップ適応 DMD 患者で P1/2 MAD 試験を開始。多施設で登録を進め、コホート1(5 mg/kg)から立ち上げ。

2025年Q4

ENTR-601-50 ELEVATE-50-201 規制承認・試験開始

英国でのグローバル Phase 1/2 MAD(ELEVATE-50-201)開始に向けた規制承認を取得し、初回投与へ向けてサイトアクティベーションを実施。

2026年Q2–Q3

DMD プログラム初期データ読み出し

ENTR-601-44(ELEVATE-44-201 コホート1)と ENTR-601-45(ELEVATE-45-201 コホート1)の初期データを報告予定。dystrophin 発現・安全性プロファイル・投与量レンジをもとに、拡大コホートと将来のレジストレーションパスを検討。

2027年Q3〜

ランウェイ終盤での次フェーズ判断

DMD 44/45/50/51 と DM1 VX-670 の PoC を踏まえ、pivotal 試験デザイン・追加提携・資本戦略(追加調達の有無と規模)をアップデート。2027年Q3 までのキャッシュランウェイを活用しつつ、中長期の価値最大化オプションを整理。

注目すべきカタリスト
短期(〜2025年Q4)
ENTR-601-50 ELEVATE-50-201 の規制承認・試験開始状況アップデート。ENTR-601-44/45 の登録進捗と安全性スナップショット、DM1 プログラムの開示トーン。

中期(2026年Q2–2026年Q4)
ENTR-601-44/45 の Phase 1/2 初期データ(dystrophin 発現・安全性・機能指標)。ENTR-601-50 FIH データ、DM1 VX-670 の早期 readout / 開発計画アップデート。

長期(2027年〜)
DMD フランチャイズ各プログラムのレジストレーションパス(小児拡大・長期試験・地域拡大)と、DM1 後期試験入りの有無。追加パートナーシップや M&A 含めたストラテジックオプション。

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