今回は Sanofi Ventures の戦略投資について詳しく解説します。直近では SABS、IMRX に加え、Sanofi Ventures(サノフィのCVC)経由で非公開の Star Therapeutics、Draig、Curevo などにも出資が続いています。
さらにサノフィ(本体/ベンチャー)は、投資 → 提携 → 買収という導線を実際にたどる例が多く、将来の大型提携や買収の“前哨戦”として注目されやすい点が特徴です。
Sanofi Ventures とは?
Sanofi Ventures とは、フランスの大手製薬会社 Sanofi のコーポレート・ベンチャー投資部門(CVC)です。Sanofi 本体の戦略領域(免疫、神経、希少疾患、ワクチン)およびデジタルヘルスに投資し、創薬~商用化に向けた “橋渡し” を担います。
・親会社
Sanofi(仏製薬大手)の CVC。
・運用形態
エバーグリーン(親会社から随時コミット)で、2025年9月に追加で$625Mを受け入れ、AUMは$1.4B超に拡大。
・投資ステージ
Seed〜Series B以降まで柔軟。案件によっては主導(リード)し、取締役会に参加。
・対象領域
バイオテック(創薬/プラットフォーム)+デジタルヘルス(データ/AI/臨床効率化など)。
・ポートフォリオの一例
Normunity、Attovia、Odyssey、ZagBio、ほか多数
・M&A事例
Sanofi 本体は 2025年に Vigil Neuroscience を買収(株式投資→ROFN→M&Aの“導線”)。
どう戦略的なのか?(注目される理由)
・将来の提携/M&Aへの “前哨戦”
Sanofi(本体/ベンチャー)は、戦略出資時に ROFN(独占交渉権)を取ることがあり、のちの提携や買収に発展するケースがある(例:Vigil の TREM2 小分子で ROFN→翌年に Sanofi が買収)。
また Zucara のシリーズBでも独占交渉権(ROFN)を取得しており、“将来の一手” のオプション価値を確保。
・実行力の “ソフトDD”
CVC経由で製造・薬事・市場アクセスの知見が入りやすく、実行確度の評価や上市準備の現実性にプラスのシグナルとして受け止められます。Sanofi 自身も「戦略的関心領域の初期企業に投資し、選択的に専門性にアクセス提供」と明言。
・資本面の安心感(フォローオン期待)
AUM>$1.4B とエバーグリーン構造により、フォローオン(追加投資)の確度が高く、公募+戦略私募などで “需給の質” を改善しやすい。
要するに、Sanofi Ventures は Sanofi の正式な CVCで、エバーグリーン&$1.4B超の資金力を背景に早期~成長段階のバイオ/デジタルヘルスへ投資します。
ROFN などの “次の一手のオプション” を取り、提携→M&Aに繋げる “導線作り” が強み。だからこそ、同社の戦略参加は将来の大型取引の “シグナル” として注目されやすいのです。
直近の主な投資案件(2024–2025)
・SAB BIO(SABS)
2025/7/21 の$175M私募に戦略投資家(strategic investor)としてサノフィが参加。他にRA Capital、Commodore 等が参加しています。
・Immuneering(IMRX)
2025/9/24–25 の公募と同時に、サノフィが$25Mのプライベートプレースメントで参加(公募と同価格)。
・Therapeutics(非公開)
2025/9/30に$125Mの Series D を Sanofi Ventures が共同主導**(Vikingとコリード)。
・Draig Therapeutics(非公開)
2025/6/18に$140Mの Series A へ Sanofi Ventures が参加。中枢神経・精神疾患領域。
・Curevo Vaccine(非公開)
2025/3/17の$110M Series B に Sanofi Ventures が参加(帯状疱疹ワクチン)。
さらに、サノフィ本体は2025年に Vigil Neuroscience の買収合意、Blueprint Medicines の買収発表など “外部イノベーション取り込み” を大型M&Aでも継続。前段で戦略出資や提携で関係を築く→本命はM&Aという動線を裏づけています。
また、サノフィは2025/9/24に Sanofi Ventures へ追加$625Mコミット(AUM> $1.4B)を公表しており、今後も投資ペースを上げる示唆。
なぜ「サノフィ参加」が注目されるのか(投資家目線での意味)?
・臨床/薬事/製造の “実行力” の裏付け
Sanofi Ventures はサノフィの戦略領域(免疫・希少・神経・ワクチン等)に焦点。製造・薬事・市場アクセスの知見がポートフォリオに “ソフトデューディリジェンス” として入る=開発成功確率や上市準備の実行力にプラスと解釈されやすい。
・“次の一手”(提携/買収)のオプショナリティ
ROFN付与の事例(Zucara)のように、戦略出資は将来の独占交渉権や優先的ライセンスへの布石になりやすい。実際に Vigil は先行投資→翌年に買収合意という流れ。
・資本市場での “質的シグナル”
公募同値の戦略私募(IMRX の$25Mなど)は、希薄化の質(“誰が入ったか”)を改善し、書類上の希薄化率以上に需給とバリデーションが効くと見られがち。
・継続的な “弾” の確保
AUM>$1.4Bへの拡張はフォローオン投資/橋渡し資金の期待に直結。開発データ→増資の局面で “同じ顔ぶれが再度入る” 観測は需給の安定要因。
・レファレンスになる同時投資家の質
SABS(RA/Commodore 等)や Star(Viking/RA 等)で見られるように、一流ヘルスケアファンドとの同席が多く、シンジケートの質が全体のリスク認識を下げる効果。
まとめ
要するに、SABS・IMRX のほか、Star/Draig/Curevo など Sanofi Ventures 経由の投資が相次いでおり、サノフィが関心領域で “打ち手を増やしている” フェーズです。
サノフィが戦略投資で入る=臨床・薬事・商用化の実務力と将来のBD/M&Aオプションが付くため、材料視されやすいのです。