大手製薬会社が ex-vivo(体外製造)CAR-T に加え、in-vivo(体内でCAR発現させる)技術を押さえに動いています。ターゲットはまず CD19×自己免疫に集中しています。
アクセス改善・コスト低減・スループット拡大が狙いであり、バリュエーションは前臨床〜Ph1 でも数億〜20億ドル級のディールがあります。技術方式(mRNA/circRNA/LV)と進捗でレンジが分かれる傾向にあります。
in-vivo CAR-T 領域の買収ディール
取引額 | 買収企業 | 対象企業 | 日付 | 技術(要旨) | 買収時の開発段階 | 主なフォーカス |
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$2.1B(up-front) | AbbVie | Capstan | 2025/06/30 | LNP投与mRNAで体内CD19 CAR発現 | Ph1 | 自己免疫 |
$1.5B(cash) | Bristol Myers Squibb | Orbital Therapeutics | 2025/10/10 | circRNA × tLNP(OTX-201:in-vivo CD19 CAR) | 前臨床(IND準備) | 自己免疫 |
$425M(up-front) | AstraZeneca | EsoBiotec | 2025/03/17 | “immune-shielded”レンチウイルスベクター | Ph1 | 血液/自己免疫(初期) |
$350M(up-front) | Gilead | Interius | 2025/08/21 | レンチウイルスでT/NK細胞に体内遺伝子導入 | Ph1 | がん(→自己免疫転用余地) |
$160M(up-front) | Sanofi | Tidal Therapeutics | 2021/04/09 | 体内投与でCD8+ T細胞を改変(RNA系) | 前臨床 | がん/免疫 |
Undisclosed | Novartis | Vyriad | 2024/11/20 | コラボ(腫瘍溶解性ウイルス×細胞治療) | — | がん |
$40M(up-front) | Astellas | Kelonia | 2024/02/15 | 非ウイルス性送達(AmpliSolve)技術導入 | — | がん/免疫 |
Max $1.4B(含マイルストン) | AbbVie | Umoja | 2024/01/04 | コラボ+ライセンス(体内CAR発現コンセプト) | — | がん |
このように、in-vivo CAR-T はまだ “臨床初期~前臨床” 中心の新興技術なので、買収ターゲットが非公開(プライベート)企業に偏りやすいです。加えて、非公開であるほうが大手にとってもディールしやすい構造的理由がいくつもあります。
何が評価されているのか(技術軸 × 事業軸)?
・アクセスとコストの劇的改善余地
ex-vivo は採血→製造→戻しの工程がボトルネック。in-vivo なら “患者体内を製造工場” にでき、リードタイム短縮・施設要件の緩和・原価低下が期待される。自己免疫の大規模適応に拡げるには不可欠のアーキテクチャ。
・CD19×自己免疫の “外部臨床証拠”
SLE などでCD19 CAR-T後に薬剤フリー寛解が続く報告が蓄積。標的は妥当、問題は**“どう作って、どれだけ安全に持続させるか”**にシフトした。
・プラットフォームの “差” が価値を生む
mRNA×LNP(Capstan):可逆性・製造機動力、早いP1到達が高評価
circRNA×tLNP(Orbital):持続発現のポテンシャルと標的化LNPが魅力。前臨床でも$1.5Bが付くのはこの “持続×送達” への期待値
LV(EsoBiotec/Interius):細胞特異性・長期持続に優れる一方、制御性/安全性の設計が肝
バリュエーションの相場感(前臨床でも“10億ドル級”)
Ph1 入り(自己免疫・CD19):$2.1B up-front(Capstan)という“天井”を提示
前臨床(circRNA×tLNP):$1.5B(Orbital)で“核となる送達×持続”にプレミアム
がん寄り/初期段階:$160–425M up-front(Tidal, EsoBiotec ほか)
技術と規制で、次に見るべき “5つの論点”
1. 前処置(lymphodepletion)の最適化:自己免疫では強すぎる前処置は不可。低強度/選択的が鍵
2. 持続性と可逆性のバランス:長すぎ→感染/低Ig、短すぎ→再燃。circRNAや調節スイッチの設計が差別化点
3. オン/オフターゲット安全性:B細胞枯渇後の感染対策、予後管理モデルの確立
4. 送達の特異性:tLNPや細胞指向性LVで非標的臓器曝露を抑える工夫
5. IP/製造ノウハウ:LNP・脂質組成・製剤プロセスの知財競争は激化必至
“連鎖M&A” の構図(2025年)
AbbVie→BMS:Capstan買収で自己免疫×in-vivoを本線に → BMSはex-vivoリーダーの立場からOrbitalで対称化
がん→自己免疫:Interius/Gilead や EsoBiotec/AZ などがん発の技術が、自己免疫に読み替え可能な設計を獲得
評価軸は “臨床到達度×送達/持続の質”:同じCD19でも、投与方式の完成度で価格が変わる