
この記事では、臨床バイオ企業が FDA との Type B ミーティング後にM&Aが起きる典型パターンについて詳しく見ていきたいと思います。まず前提として、
・End-of-Phase 2(EOP2)
・pre-NDA / pre-BLA
といった重要マイルストンのFDAミーティングは、PDUFA 上はどちらも「Type B ミーティング」に分類されます。
FDAミーティングの重要性
臨床バイオ企業にとって、FDAミーティングは「この開発計画で本当に承認まで行けるのか?」をFDAと一緒に詰める場です。
ここで得られる内容は主に:
・試験デザインの妥当性の確認
– エンドポイント / 主要評価項目
– 患者数・統計デザイン(α、パワーなど)
・安全性データの要求レベル
・CMC(製造・品質)上の必須要件
・承認パス(通常承認かAAか、単独試験でよいか複数必要か)
投資家目線では、
・「このプランならNDA/BLAのベースとして “原則OK” か?」
・「追加試験や追加データ要求で、時間・コストがどの程度増えるか?」
が見えるので、株価とM&A価値の大きなデリスクイベントになります。
ミーティングの種類(Type A / B / C / D の違い)
FDA の最新ガイダンスでは、CDER/CBER 向けの公式ミーティングを以下のように区分しています。
● Type A
目的:開発が行き詰まった時の「非常事態会議」
主な例
・臨床試験の clinical hold を解除する相談
・完全応答書(CRL)を受けた後のテコ入れ相談
特徴
・企業側の要請から30日以内に開催が原則 → 「迅速レスキュー枠」
● Type B(王道の重要マイルストン)
目的:開発の節目ごとに、次のステップの設計をFDAと合意する会議
主な例
・Pre-IND ミーティング(治験入り前)
・End-of-Phase 1 / End-of-Phase 2(EOP1/EOP2)
・Pre-NDA / Pre-BLA ミーティング
特徴
・request から約60日以内に開催
・原則「各種類につき1回まで」
・承認やフェーズ3に直結するので、最も“価値のある”ミーティング群
● Type C
目的:Type A/Bに当てはまらないその他の相談
例:
・新しい用量 / 新適応の相談
・複雑な解析法(外部対照群など)の相談
特徴
・request から約75日以内
・緊急性は低いが、開発方針に影響する議題も多い
・時に「pre-NDAを却下されて、Type Cで出直し」というケースもあり、これは市場的にはかなりネガティブシグナル。
● Type D(新しめの区分)
・目的:比較的限定的なテーマを短時間で確認する、小ぶりなミーティング
・例:フェーズ途中での部分的な設計変更や、特定サブグループ解析の是非など。
Type B ミーティング後に起きやすいM&Aの「典型パターン」
なぜ Type B 後にM&Aが起こりやすいのか?大手が買収を検討する際の一番のリスクは、「このデザイン・データで、本当にFDAが承認してくれるのか?」というレギュラトリー・リスクです。
Type B(EOP2 や pre-NDA)で
・「このPhase 3デザイン+安全性データでNDA/BLAは基本OK」
・「一つの成功した試験+追加安全性データで足りる」
といった ”言質に近い合意” がFDAから得られると、
・開発リスクが大幅に下がります
・承認までの時間軸と追加コストが見積もりやすくなります。
→ ここで大手が本格的な買収/大型ライセンス交渉に動きやすい、というのが典型です。
実務的には:
1. 強いPhase 2 / pivotalデータ を発表
2. その数ヶ月〜1年以内に EOP2 / pre-NDAのType Bミーティング
3. PRで、“FDA agreed that the proposed Phase 3 program would be acceptable to support an NDA”、“FDA expressed support for a potential NDA” など、「承認パスの妥当性」を明言
4. 以後 6–24ヶ月のあいだに、大型の共同開発・ライセンス、あるいはフルM&Aが決まる
5. ディール構造としては、アップフロント+規制マイルストン(NDA提出・承認のCVR)という流れになりがちです。
具体例:Cincor Pharma (CINC) の「baxdrostat」 → AstraZeneca
CinCor は、降圧薬候補「baxdrostat」の Phase 2 複数試験の後、End-of-Phase 2 ミーティング(Type B)を計画・実施。EOP2の趣旨は、Phase 3 プログラムと2025年頃のNDA提出に向けた設計をFDAとすり合わせることでした。
その直後の2023年1月、AstraZeneca が CinCor を最大18億ドルで買収すると発表。ディールには「baxdrostat が特定の規制当局に申請された場合に支払われるCVR」も含まれています。
このケースでは、Phase 2 データ+EOP2ミーティングで Phase 3 / NDA への道筋が見えた → 大手が「承認までの見通し込み」で高値をつけて買いに来たという、教科書的な “Type B → M&A” パターンと見てよいです。
具体例:Karuna Therapeutics(KRTX) → BMS
Karuna Therapeutics は schizophrenia 向け「KarXT」で、Phase 2 成功後に End-of-Phase 2ミーティングを行い、「既存の Phase 2 試験+1本の成功した Phase 3 試験と追加安全性データで NDA 提出は受け入れ可能」という公式な合意をFDAから取得しました。
その後、EMERGENT プログラムとして Phase 3 を進め、NDA提出・受理まで到達。2023年12月、Bristol Myers Squibb が Karuna を140億ドルで買収すると発表し、2024年3月に買収完了。
ここでも、
① EOP2で「この開発プランならNDAとして受理する」とFDAが明文化
② そのロードマップどおりに Ph3 が成功・NDA提出
③ PDUFA 前に BMS が巨額M&Aで取りに来る
という流れで、Type B ミーティングがM&Aの “土台” になっているパターンです。
具体例:Type B 後に「戦略的オプションを模索」と明言するケース
小型バイオでは、Type B(とくに EOP2)後に、「当社は、M&Aやライセンスを含む戦略的選択肢を検討している」とPRに書き出すことも多いです。
例:Salarius(SLRX)
Ewing 肉腫向け seclidemstat の Type B End-of-Phase 2 ミーティングを完了したと発表。同じリリース内で、「当社は、買収・合併・資産売却・ライセンスなど、戦略的選択肢を検討している」と明記しており、EOP2での規制リスクの見通しを得た後に、売却含みで身の振り方を考える典型例と言えます。
こうした会社は、キャッシュが限られており、自前で Phase 3 を走らせるのが難しいです。しかし、EOP2 で「この Phase 3 をやれば承認パスは見える」とFDAが認めたため、「あとはお金とオペレーションだけなので、誰か大手さんこのプログラムごと買ってください」というメッセージを市場に出している、と読めます。
ネガティブパターン:Type B で “追加試験要求” → M&A見送り・開発停止
逆に、Type B で「このままではNDA不可、もう1本しっかりした試験が必要」と言われてしまうケースもあります。
例:Vericel Corporation / ixmyelocel-T
心不全の細胞治療「ixmyelocel-T」は、RMAT 指定まで取っていましたが、Type B ミーティング後にFDAから「BLAには追加のよくコントロールされた試験が最低1本必要」と言われ、会社は「自社単独では資金的に難しい」とコメントしています。
このように Type B でハードルが上がると、想定より開発コストと時間が増えるため、IRR (内部収益率) が悪化し、大手から見たM&A魅力度が一気に下がるため、「M&Aが遠のくイベント」になることもあります。

