オークツリー・キャピタル・マネジメントの共同創業者である Howard Marks によると、人工知能はこれまで以上に世界を予測困難なものにしているという。
彼は2026年3月17日、Lisa Abramowicz との対談でこの見解を語った。このインタビューは、ニューヨークで開催された Perella Weinberg Capital Markets Industry Conference にて行われた。
多くの人が懸念しているのはプライベートクレジット
リサ : ハワードと話せるのはいつも光栄です。今のように深い洞察が求められる時代において、彼はまさに深く考える人物です。
まずは最新のメモについて伺います。あなたは人工知能について、それはテクノロジーとしてはバブルではないと述べていますね。むしろ、期待は過小評価されているかもしれないと。ただし、AIそのものと、それに対する投資がバブルでないかどうかは別の話だとも言っています。
さて、ここにいる多くの人が懸念しているのはプライベートクレジットです。この懸念は妥当だと思いますか?
ハワード : まあ、企業にお金を貸すという行為自体は、本質的に健全な活動です。私は1978年にシティバンクから依頼されてハイイールド債の業務を始めて以来、48年間、投資適格未満の企業への融資に関わってきました。あれがその世界の始まりでした。
そして我々の顧客は非常に良い成果を上げてきました。購入したハイイールド債の99%はきちんと返済されています。ですから、本質的に間違ったものではありません。
問題が起きるのは、時々、あまりにも多くの人がそれをやりたがる時です。過剰に参入し、案件の奪い合いが起きると、金利は下がり、安全性も低下します。そして時には、投資商品が準備のできていない人たちの手に渡り、問題が起きたときに驚くことになるのです。
AI の登場で投資の考え方は変わる?
リサ : では、AIの登場や企業活動の置き換え、いわゆるディスインターミディエーション(中抜き化)によって、投資の考え方は変わると思いますか?
ハワード : 私は、今起きている変化、特にAIの導入によって、世界はこれまで以上に予測不可能になっていると思います。おそらく歴史上でも、少なくとも私の人生の中では最も予測が難しい時代です。
多くの投資家は「何が起きるか?」を予測して行動します。しかしそれだけでは不十分です。私は2018年にサイクルについての本を書きましたが、そこでは2つ必要だと言っています。
1つは「何が起きるか?の見通し」、もう1つは「その予測が当たる確率」です。すべての予測が同じ確率で当たるわけではありません。そしてAIの時代は、私がこれまで考えた中で最も予測不可能なものの一つです。
しかも、その重要性を生み出している力こそが、同時にその予測不可能性も生み出しているのです。
AIは何をするのか、何をしないのか。どこまで人間の役割を奪うのか。どれだけの人が仕事を失うのか。もし多くの人が失業した社会はどうなるのか。私たちはこうした問いをこれまで真剣に考えたことがありません。
こうした不確実性があるからこそ、プライベートファンドによる投資の集中や透明性の低さに対して、人々は不安を感じているのだと思います。どのように貸し出しが行われたのか分からないという不安です。
サイクルの終盤に近づいている、あるいは過熱していると感じる点はありますか?
リサ : レバレッジやコベナンツの面で、サイクルの終盤に近づいている、あるいは過熱していると感じる点はありますか?
ハワード : ここ3日間、私はプライベートクレジットについてのメモを書いていました。こういう場や顧客との対話では、ある時期ごとに質問がだいたい同じになります。
ここ数ヶ月、特に直近6週間で最も多い質問は「プライベートクレジットはどうなのか?」です。
1年前、私は「Give Me Credit」というメモを書きました。そのときも同じ質問でしたが、意味は違いました。「もっと投資すべきか?足りているか?リスクなしでリターンを得られるのか?」というポジティブな文脈でした。
しかし今は違います。同じ質問でもトーンが変わっています。
私は長くこの世界にいて、数多くのサイクルを見てきました。経済の好不況ではなく、「アイデアのブームと崩壊」です。何か新しいものが現れると、それは人々の想像力をかき立て、売り込みやすくなります。そして新しいがゆえに、その欠点がまだ露呈していません。
鉄鋼のバブルやハンバーガーのバブルなんてものはありません。しかしバブルは、新しいテクノロジーや新しい金融の仕組みで起きるものです。人々は将来の期待だけをもとに参入し、下振れリスクを十分に理解しないまま投資します。
そして何かが起きて、その期待が裏切られると、自分たちがすべてを理解していたわけではなく、限界を把握していなかったことに気づき、結果として不満を抱えることになります。
まだもっと恐怖が必要?
リサ : あなたが「Give Me Credit」を書いたときには、プライベートクレジットへの熱狂があったことで、むしろパブリック市場の方が魅力的に見えるという議論がありました。
今は十分な恐怖があって魅力的な水準にあるのでしょうか。それとも、まだもっと恐怖が必要なのでしょうか。まだ人々は強欲で、システムにはまだ熱が残っているのでしょうか?
ハワード : 正直なところ、現在プライベートクレジットがどのように価格付けされているのか、私ははっきりとは分かりません。
2011年、世界金融危機後の規制強化で銀行がLBO向け融資から撤退したとき、ノンバンクの貸し手がその隙間に入り、ミドルサイズの買収向けに直接融資を始めました。
当時はプライベートエクイティからの資金需要が強く、一方でノンバンクの資金供給は限られていたため、高い金利と強い保護条件を要求することができました。
しかし投資の世界には、「賢者は最初にやり、愚者は最後にやる」という有名な言葉があります。初期の成功が可視化されると、他の人々が参入し、競争が起き、その対象の “特別さ” は失われていきます。
その結果、プライベートクレジットでも金利は低下し、安全性も低下していきました。例えば数ヶ月前であれば、パブリッククレジットの利回りは約7%、直接融資は約8.25%でした。
この約125ベーシスポイントの差は、流動性プレミアムとしては妥当で、十分ではあるものの、決して魅力的すぎる水準ではありませんでした。つまり、特別な魅力はすでに失われており、パブリックとプライベートはほぼ均衡状態にあったということです。
フェアではあるが、それ以上ではないという状況です。私はメモの中で、「プライベートクレジットはどうか?」と聞かれるたびに、「クレジット全体はどうか?」と答えました。
もちろん、自分のポジションを正当化する発言(いわゆる “Talking your own book”)という側面もあります。オークツリーは48年間パブリッククレジットをやってきましたから、そこにも注目してほしいという思いはあります。
しかし、AとBが均衡した価格で取引されているなら、どちらか一方に集中するのではなく、両方持てばいいという考え方もできます。
プライベートクレジットが個人投資家向けにも広がっている点
リサ : もう一つの問題として、プライベートクレジットが個人投資家向けにも広がっている点があります。一定の流動性を求める個人投資家を取り込もうとする動きです。
この分野では、資産の透明性や評価方法、価格付けがより標準化される必要があると思いますか?
ハワード : おそらくですが、まず一部のプレイヤー(我々も例外ではありません)は、BDCのような商品を通じて、個人投資家や年金投資家にプライベートクレジットを販売できると考えました。
実際にそれは行われましたが、すべての投資家が流動性の低さや時価評価がないことの意味を十分に理解していたとは限らないと思います。それでも彼らは投資してしまったのです。
おそらくそれは、十分に理解した上で問題ではないと判断したというより、単に無知から来ているのだと思います。昨日も別の投資家グループにこの話をしたのですが、映画『カサブランカ』を思い出しました。
長年賄賂を受け取っていた警官がバーに入ってきて、「ここで賭博が行われているとは驚いた」と言う有名なシーンです。つまり、投資家が最近になって気づき、不満を感じていることは、実は何も新しいことではないということです。
これらの投資商品はもともと流動性が低く、時価評価もされていませんでした。ただ、人々が投資に積極的で楽観的な時期にはそうした点は見過ごされ、状況が悪化したときになって初めて問題として認識されるのです。
現在プライベートクレジットで見られるストレスは、より大きな信用サイクルやデフォルトの増加につながる兆候?
リサ : プライベートクレジットが注目されているのは、見えないものが人を不安にさせるという側面もあります。
一方で、AIの影響を受ける可能性のあるソフトウェア業界などについても議論がありますが、現在プライベートクレジットで見られるストレスは、より大きな信用サイクルやデフォルトの増加につながる兆候なのでしょうか。
ハワード : 信用市場にはサイクルがあります。すべてがうまくいっているときは資金調達が容易で、うまくいっていないときは資金調達が難しくなります。
資金調達が容易な時期には貸し手同士が競争し、金利は低下します。逆に厳しい時期には貸し手が慎重になり、貸す側は高い金利を要求できるようになります。
これが繰り返されるサイクルです。
昨年秋、First Brands や Tricolor の破綻や不正疑惑が市場を驚かせたとき、私は「炭鉱の中のゴキブリ」というタイトルのメモを書きました。
そして、音楽が鳴っていて資金が潤沢に供給されているとき、貸し手は案件を獲得するために基準を引き下げます。その結果、本来なら信用に値しない借り手にも資金が流れ、不正が起きやすい環境が生まれます。
銀行業界には「最も悪い融資は最も良い時期に行われる」という古い格言がありますが、まさにその通りです。
私たちは過去17年間、非常に良い環境を経験してきた
私たちは過去17年間、非常に良い環境を経験してきました。株式市場は2009年3月に底を打って以来、大きな困難な時期はほとんどありませんでした。
2015年はやや弱く、2020年のパンデミック時には短期間の急落があり、2022年は不調でしたが、それでも2022年9月末以降、S&P500は倍近くになっています。
企業の本質的価値が倍になったわけではなく、価格が上がったのです。こうした好環境は投資意欲を高める一方で、分析や規律、厳格な基準、懐疑的な姿勢を弱めます。
その代わりに FOMO(取り残されることへの恐怖)が支配するようになります。FOMO が懐疑よりも優勢になると、質の低い取引が成立してしまいます。
これは何も新しいことではありません。また、私たちは17年間、低いデフォルト率に慣れてしまいました。デフォルトは本来、通常起きるものです。
しかし長期間にわたって信用が容易に供給される環境が続くと、人々はそれを忘れてしまうのです。
そして、やがて状況が変わると、問題が明らかになります。バフェットの言葉を借りれば、「潮が引いたときに初めて、誰が裸で泳いでいたかが分かる」ということです。
厳しい経済環境になって初めて、誰が無謀な融資をしていたのか、そして誰に貸していたのかが明らかになります。
そして、その時期はこれから訪れるでしょう。
企業の債務市場は、デフォルト増加を織り込んでいる?
リサ : では、企業の債務市場は、デフォルト増加を織り込んでいるのでしょうか?
ハワード : 正直なところ、私ははっきりとは分かりません。ですが、投資適格未満のクレジットのスプレッドが通常レンジの下限にあることを考えると、市場はデフォルト増加をあまり織り込んでいないと言えるでしょう。
つまり、デフォルト増加への恐怖はそれほど存在せず、それに見合ったリターンも得られていない状況です。
Google や Microsoft、Amazon のような巨大企業が長期債を発行している
リサ : AIの話に戻ると、これほど予測が難しい環境にもかかわらず、Google や Microsoft、Amazon のような巨大企業が長期債を発行しているのはどう考えるべきでしょうか?
ハワード : これは、まさに今の状況を象徴しています。
たとえば Google が100年債を5.8%で発行したとすれば、それは悲観ではなく楽観、懐疑ではなく信頼が支配している状態だと言えるでしょう。
楽観と無批判な信頼が優勢な環境では、リスクに見合った以上のリターン、いわゆる超過リターンを得ることは難しくなります。
AIのような将来性のある分野にどう投資すべき?
リサ : では、AIのような将来性のある分野にどう投資すべきでしょうか?
ハワード : まず重要なのは、影響を受けるのはAI企業やテック企業だけではないということです。そして私の考えとしては、AIに投資する企業に資金を貸すくらいなら、その企業の株式を買った方が良いというものです。
なぜなら、もし成功した場合、貸し手は固定利回りしか得られませんが、株主であれば上昇の恩恵を受けられるからです。将来の予測が難しい中で、事業モデルそのもののリスクを取るのであれば、債券ではなく株式で報酬を得るべきだという考え方です。
AIはあらゆる企業に影響を与えます。そして、その影響の大きさと予測不可能性こそが、今の世界をより難しくしています。正直なところ、私は昔の世界の方が好きでした。
子どもの頃は、毎年ほとんど何も変わりませんでしたが、今は毎日のように変化が起きています。それはダイナミズムをもたらし、生活を豊かにしている面もありますが、その分、将来の予測に頼ることが難しくなっています。
AIはオークツリーの業務にどのような影響を与えている?
リサ : 最後に、AIはオークツリーの業務にどのような影響を与えているのでしょうか?
ハワード : 現時点では、ビジネスモデルや採用人数、業務の進め方には大きな影響はありません。ただし、データを整理・活用するためのツールとしては活用しています。
そのメモを書いたときの経験についてですが、私はそのメモを息子の助けを借りて書きました。彼は優秀なベンチャーキャピタリストです。書き終えたあと、「見てみるか」と聞いたところ、「いや、Claude に送ればいい」と言われました。
そこで、デスクトップで書いた文章を一度コピーし、スマホのメールに貼り付けて自分宛に送信し、スマホで開いて再びコピーして、Claude に貼り付けて送るという作業をしました。
その作業は2分ほどで終わり、送信ボタンを押して画面をスクロールすると、すでに回答が表示されていました。本当に驚くべき体験でした。
AIはこれまでに書かれた膨大な情報を読み、記憶し、必要なときに取り出すことができます。さらに、過去に成功や失敗をもたらしたパターンを見つけ、それを将来に当てはめることもできます。
しかも計算ミスや論理的ミスをほとんどせず、感情にも左右されません。市場の頂点で過度に楽観的になることもなければ、底で過度に悲観的になることもありません。こうした点は、多くの人間より優れている部分だと思います。
ただし、AIにできないこともある
ただし、AIにできないこともあります。直感のようなものです。
例えば、目論見書を読んでいて「何かおかしい」と感じることがありますが、AIにはそうした感覚はありません。
私たちはこれまで、問題のある人物に投資しないことで顧客の資産を守ってきたと思っていますが、そうした「人を見る力」はAIよりも人間の方が優れているかもしれません。
AIは歴史を理解し、パターンを認識し、未来を推測します。私が気づいたのは、AIは「質問に答えている」のではなく、「予測をしている」ということです。
例えばスマートフォンでメールを書くと、次に来る単語が予測されて表示されます。それは膨大な過去の文章から、どの単語が続く確率が高いかを計算しているからです。
AIはこうした予測、つまり仮説を提示してくれます。しかし私は、それだけを根拠に顧客の資金を投資するつもりはありません。最終的には人間がその仮説を検証する必要があります。
もちろん、それによって人間のミスが入り込む可能性もありますが、それでも不可欠なプロセスだと思います。現時点では、投資判断を完全にAIに任せる段階にはありませんが、補助ツールとしては非常に有用です。
予測が難しい時代においては、流動性の高い資産を多く持つべき?
リサ : このように予測が難しい時代においては、流動性の高い資産を多く持つべきなのでしょうか?
ハワード : 私がシティバンクに入った1969年当時、多くの銀行は「ニフティ・フィフティ」と呼ばれる銘柄に投資していました。
これはアメリカで最も優れ、成長が期待され、「絶対に失敗しない」と考えられていた企業群で、どんなに高い価格でも買われていました。しかし、その後5年間保有すると、資産の約95%を失う結果になりました。
その後、私は債券部門に異動し、高利回り債ファンドを立ち上げることになりました。それは結果的に非常に幸運な出来事であり、最も質の低い企業に対しても安定的に収益を上げることができました。
この経験から学んだのは、どんなに優れた資産でも、価格が高くなりすぎれば危険になるということです。逆に、どんなに悪い資産でも、十分に安くなれば魅力的になる可能性があります。
私は今でも、特定の資産は十分に安くなれば買いになる可能性があると考えています。ただ、その瞬間に自分たちがどう感じるかは、実際にその時になってみないと分かりません。
まだその段階には至っていませんし、過去のクラッシュ時のように人々が投げ売りしている状況でもありません。しかし、そうした局面はいずれ訪れると思っています。
そしてそのときには、私たちは積極的に動けるはずだと考えています。実際、2008年の9月や10月には、多くの人が金融システムの崩壊を恐れていた中で、私たちは大きく行動しました。
今回も同じような事態に向かっている?
リサ : では、今回も同じような事態に向かっているのでしょうか?
正直な答えは、「誰にも分からない」ということです。ベンジャミン・グレアムは「長期的に市場は価値を測る秤だが、短期的には投票機だ」と言いました。
来月、人々がどう “投票” するかは分かりません。もしクラッシュに投票すればクラッシュが起きるし、冷静さを取り戻して問題ないと判断すれば、クラッシュは起きません。
それだけのことです。したがって、私は今、「クラッシュは来ない」と考えて資金を投入するつもりはありません。何が起きるかを見極めるために待ちます。
もしクラッシュが来れば、そのときには積極的になります。ただし、それがいつ来るのかは分かりません。そして、どこが本当に「十分に安い」水準なのかも、明確には分かりません。
ただ感覚として分かるものです。ちなみに、その感覚はAIには難しいのではないかと思います。AIに「買い時を教えてくれ」と聞いても、良い答えは返ってこないでしょう。
これが、投資におけるAIの限界の一例だと思います。
今の市場に対するスタンスは慎重ですか、とよく聞かれます。私は基本的に常に慎重です。慎重さは本質的な性格であり、それを乗り越えて初めて積極的になれるのです。
特に貸し手は、80%は慎重であるべきです。なぜなら、融資には上振れがなく、下振れリスクしかないからです。約束通り返済されることが最大のリターンなのです。
したがって、失望や価格下落が十分に進み、積極的になるべきタイミングだと確信できるまでは、慎重であり続けると思います。そしてその時が来たら、過去のサイクルと同じように、最も積極的な投資家の一人になりたいと考えています。
もしかすると、その時には市場で唯一積極的な存在になるかもしれません。
今人々が過小評価しているものは何?
リサ : 最後に、今人々が過小評価しているものは何だと思いますか?
私は、多くの人がAIの影響を過小評価していると思います。例えば、ほんの数週間前、従業員1万人の企業が4000人を一度に解雇したという出来事がありました。
AIによって、より安く、より速く仕事ができるようになったからです。こうした変化の意味を、本当に理解している人がどれだけいるでしょうか。

