Aliada Therapeutics (未上場) は 2021年に RA Capital のインキュベーターRaven(RA Ventures)と J&J の VC(JJDC)が共同で設立し、設立時に J&J 由来の血液脳関門(BBB)送達技術「MODEL™」のライセンスを受けてスタート。その後AbbVie が 14億ドルで買収しました。
2021年、起点と技術と RA のノウハウ
JJDC・RA Capital・Raven が共同で設立し、シードを共同主導。この時点で J&J の研究者が作った BBB 送達プラットフォーム「MODEL™」を Aliada Therapeutics に設立時ライセンス。
「MODEL™」は TfR/CD98 受容体などを利用して、抗体・酵素・オリゴ核酸(siRNA等)まで CNS へ運ぶ汎用BBBシャトルという位置づけ。
RA Capital のMDである Joshua Resnick が Aliada の取締役を務めた(のち退任)。Raven が大手から技術をインライセンス→会社を組成→臨床へという型を、Aliada で実地に回した格好です。
リード資産「ALIA-1758(抗3pE-Aβ抗体)」
RA Capital がリード資産「ALIA-1758(抗3pE-Aβ抗体)」に目を付けた理由は、ターゲットの質×脳内送達(BBB越え)×投与実装性の3点セットです。
1. ターゲットの質:3pE-Aβ(pyroglutamate Aβ)は「毒性の高い“種(シード)”」
3pE-Aβ(N末端3位がピログルタミル化)は凝集性・安定性・毒性が高く、プラーク形成の “起点” として位置づけられてきました。
この種を叩くという合理性は、領域レビューや先行mAb(例:donanemabは3pE3-7エピトープを認識)でも支持されています。
→示唆:Aβ全体を広く追うよりも、“病的ドライバー分画” を選択的に無力化できれば、用量・安全性・スピードの最適解に近づける可能性。
2. 脳内送達:MODEL™でTfR/CD98を使いBBBを能動通過(=低用量で中枢曝露↑の設計)
MODEL™(J&J発→Aliadaへライセンス)は、トランスフェリン受容体(TfR)やCD98を介した “シャトル” で、抗体や酵素、オリゴ核酸まで “貨物” を脳に運ぶためのモジュラー・ドメイン。
AbbVie の発表でも、「ALIA-1758」はTfRを利用してBBBを越え、脳内でAβ除去をねらうと明記。Ph1(健常人SAD)で安全性/PKを評価中(NCT06406348)。
→示唆:“効く所(脳)に多く、末梢は少なく”の脳:血中比の改善が期待でき、投与負荷の軽減(IV大量点滴→低用量/皮下の可能性)、ARIA等の安全性プロファイル最適化(過剰な末梢曝露回避)につながる設計思想。
(ARIAは多因子的ですが、中枢での必要曝露をより低用量で達成できればリスク低減に寄与し得る、という投資仮説が立ちやすい)
3. 投与実装性:“皮下・低用量・施設負担の軽さ” という現実解
AbbVie の買収リリース群は、“BBB越え技術で中枢内の実効濃度を引き上げる” 点を強調。これにより高容量IV点滴より “低負荷な実装” へ寄せられる余地があることが、商用価値(アクセス/コスト/遵守)の観点でも魅力。
RA が評価した “組み合わせの妙”
– 良ターゲット(3pE-Aβ)×良搬送(MODEL™)という二段ロジック。
– 早期ステージでも大型社が争奪しやすい “プラットフォーム+臨床入りの看板資産” の形。
タイムライン
・2021年
JJDC×RA×Raven が共同設立&シード主導/J&JのMODEL™を Aliada へライセンス。
・2023年
Chiesi と MODEL™の共同研究(酵素“貨物”でBBB通過を検証)。
・2024/05〜
「ALIA-1758」の Ph1(健常人SAD)が公的登録に掲載。
・2024/10/28
AbbVie が$1.4Bで買収合意(アルツハイマー+BBB送達の二重の狙い)。
・2024/12/11
買収クローズ。RAは “Raven発案件として年2件目の大型エグジット(1件目=Mariana)” と位置づけ。
Ph1 SAD で買収された背景
AbbVie は「ALIA-1758」が健常人での Phase 1・SAD(単回投与)段階のときに買収を発表→年内クローズしています(総額 $1.4B)。
ただし、“SADの結果がとんでもなく有望だから” だけで買ったというより、①標的×②BBB送達プラットフォーム(MODEL™)×③再参入戦略の “セット” を先取りした色が濃いです。臨床有効性(PoC)を示す段階ではありません。
・標的の魅力:3pE-Aβ(ピログルタミル化Aβ)
3pE-Aβは強い凝集性・沈着性・シーディング能を持つ “悪玉種” として注目され、抗3pE-Aβ抗体は理論的に少量で効きやすい可能性。大手も以前から追ってきた標的(例:ABBV-916)で、ドナネマブ(Lilly)も3pE様エピトープを狙う系譜です。
・送達の差別化:MODEL™(BBBトランスポート)
J&J 発のBBBシャトルを会社設立時にライセンスし、抗体・酵素・オリゴなど「貨物」を脳へ運ぶ“トロイの木馬”型技術を有する点がプラットフォーム価値。AbbVieのリリースでも「神経領域で横展開」の狙いを明記。
・タイミングの妙:FIH で “毒性×PK×投与経路” の初期妥当性が見えた
SAD の目的は安全性/PK確認。公開情報は限定的ですが、IV/皮下(SC)いずれも評価設計で、用量漸増が進行していたことが示唆されます(後にSADは完了表示)。重大なレッドフラッグが見えず(=前臨床の期待に整合)、“プラットフォーム+先端標的” を早期に押さえる判断が成立。
ポイント
要は、“圧倒的な有効性データがSADで出たから” ではない。有望な標的×BBB送達という希少資産を、リスクが最初に一段下がった時点(FIH)で競合に先んじて確保した、というM&Aの典型パターンです。
Raven の実績と型
Raven が Aliada Therapeutics 買収後に手掛けた事例との比較
・Mariana Oncology(2024年に Novartis が最大$1.75Bで買収)
→ Raven 創出 → 大手にトレードセールという意味で Aliada と同型の「Raven 生え抜き案件の大型M&A」
・Cidara Therapeutics(CD388の権利再取得+$240M資金調達を RA が主導)
→ こちらは Raven/RA が外から臨床・資金ストラクチャーを梃入れして価値創出したケース。M&Aではなく、事業の再編・再加速の型。
ポイント
つまり Aliada Therapeutics =「大手の社内技術(J&J)を Raven が抱えて会社を作り、初期臨床まで進めて大型M&A」。
Mariana も “Raven創出→大型M&A” で同系統、Cidara は “Raven主導の大型増資と権利再取得” で資本/事業再編型です。