
近況
2025年10月21日、GSK と共同開発していた latozinemab(AL001) の FTD-GRN を対象とする Phase 3「INFRONT-3」が臨床共主要評価項目を未達。PGRN の上昇自体は確認されたものの、症状・画像・その他バイオマーカーで臨床的有効性を示せず、オープンラベル延長試験および継続試験を中止。これに伴い、Alector は従業員の約47%を削減しました。
さらに2026年4月29日、もう一つのPGRNプログラム nivisnebart(AL101/GSK4527226) も大きく後退。早期アルツハイマー病を対象とした Phase 2「PROGRESS-AD」の事前規定された無益性中間解析で、独立データモニタリング委員会が「試験完了時に主要評価項目を達成する可能性は低い」と判断し、試験中止となりました。
これにより、AL001とAL101というGSKとのPGRNフランチャイズは事実上終了。2026年7月6日には GSKがAlectorとの提携契約を終了すると正式通知し、契約は2027年1月2日に終了予定です。
現在のAlectorには活動中の臨床試験がなく、投資テーマはPGRNから完全にAlector Brain Carrier(ABC)血液脳関門デリバリー・プラットフォームへ移行しています。
その最重要資産が、アルツハイマー病向け次世代抗Aβ抗体 AL137。2026年8月、AL037との比較を経てAL137を正式なリード開発候補に選定。2027年Q1のIND申請、遅くとも2027年4月までの豪州での初回ヒト投与を目標としています。
2026年6月30日時点の現金・現金同等物・投資有価証券はUS$172.8M。会社は少なくとも2027年までの資金ランウェイを見込んでいます。また7月8日には Hercules Capital への残存ローン元本 US$10.4M を全額返済し、融資契約を終了しました。
現在の投資テーマ:PGRNからABCプラットフォームへ
Alectorの企業価値の中心は、従来の「microglia / PGRN創薬」から、血液脳関門を越えて薬剤を脳内へ届けるABC(Alector Brain Carrier)プラットフォームへ大きく変化しています。
ABCはトランスフェリン受容体(TfR)を利用して薬剤を脳内へ輸送する技術で、抗体だけでなく、
・抗体
・酵素補充療法
・siRNA
・タンパク質
など複数の治療様式に応用可能。
現在の中核パイプラインは、
AL137:抗Aβ抗体
AL164:Tau siRNA
AL050:GCase酵素補充療法
ADP062:αシヌクレイン siRNA
ADP065:NLRP3 siRNA
という構成になっています。
重要なのは、旧AL001・AL101とは作用機序そのものが異なる点です。したがってPGRNプログラムの失敗がABCプラットフォームを直接否定したわけではありません。ただし、ABCを搭載した薬剤はまだヒトで有効性・安全性が実証されておらず、2027年のAL137初回ヒト投与がAlectorにとって新しい臨床検証のスタート地点になります。
承認済み製品:なし
活動中の臨床試験:なし
最重要候補:
AL137 — ABCを搭載した抗PyroGlu3-Aβ抗体。アルツハイマー病向け。2027年Q1のIND申請、遅くとも2027年4月までの初回ヒト投与を目標。
次世代候補:
AL164(Tau siRNA)、AL050(GCase酵素補充療法)、ADP062(αシヌクレイン siRNA)、ADP065(NLRP3 siRNA)。
旧主力:
latozinemab(AL001)および nivisnebart(AL101)は開発中止。GSKとのPGRN提携も2027年1月2日に終了予定。
IND申請目標
初回ヒト投与目標
2026年6月30日時点
少なくとも2027年まで
対象:アルツハイマー病
標的:PyroGlu3-Aβ
技術:ABC搭載 抗Aβ抗体
AL037との比較を経て、2026年8月にAL137を正式なリード候補として選定。
ABCによる高い脳移行性+完全なIgG1 Fc機能を維持し、Aβプラーク除去能力を最大化する設計。
月1回程度の低用量皮下投与を目標。
2027年Q1 IND申請 → 遅くとも2027年4月までに豪州で初回ヒト投与
対象:アルツハイマー病・Tau関連疾患
標的:MAPT / Tau
技術:ABC搭載 siRNA
AL064は非ヒト霊長類で脳内Tau mRNAを最大約70%低下させ、p-Tau217も持続的に低下。
siRNA安定性を改善したAL164としてIND申請準備試験へ移行。
将来的に約3か月ごとの皮下投与を目標。
2027〜2028年の初回ヒト投与を目標
対象:パーキンソン病、レビー小体型認知症
標的:GCase / GBA1
技術:ABC搭載 酵素補充療法
非ヒト霊長類の複数脳領域でGCase活性を約2倍に増加。
GBA疾患モデルでGCase活性を回復し、有害基質の蓄積を低下。
GBA1機能喪失変異を持つPD / LBDを優先し、その後特発性PD / LBDへの展開余地。
前臨床開発継続中。臨床入りの具体的時期は現在再評価中。
対象:パーキンソン病
標的:αシヌクレイン
技術:ABC搭載 siRNA
リード候補選定に向けた前臨床開発。
非ヒト霊長類で安全性・薬理活性の検証を計画。
2028年の初回ヒト投与を目標。
対象:アルツハイマー病を含む神経変性疾患
標的:NLRP3
技術:ABC搭載 siRNA
リード候補選定に向けた前臨床開発。
NLRP3を脳内で直接ノックダウンし、IL-1β・IL-18など炎症経路を抑制。
2028年の初回ヒト投与を目標。
FTD-GRN Phase 3 INFRONT-3 未達。開発終了。
AD Phase 2 PROGRESS-AD 無益性中間解析により2026年4月中止。
TREM2 Phase 2 INVOKE-2 未達。開発終了。
Phase 1の初期薬物動態・忍容性データを受け試験終了。
| パイプライン | 対象 | 現在地 | 主要評価 | 市場規模イメージ | 価値ポイント |
|---|---|---|---|---|---|
| AL137 | アルツハイマー病 |
IND準備 Q1 2027 IND目標 〜2027年4月 初回ヒト投与 |
PyroGlu3-Aβ除去 脳内薬物濃度 Aβ PET ARIA / 貧血 / IRR |
非常に大きい AD疾患修飾薬市場 |
現在の最重要資産。 ABCのヒトPoCを最初に検証するプログラム。月1回皮下注射を目指す。 |
| AL164 旧AL064 |
アルツハイマー病 Tau関連疾患 |
IND申請準備試験 初回ヒト投与 2027〜2028年目標 |
Tau mRNA低下 p-Tau217 Tau PET CSFバイオマーカー |
非常に大きい | 全身投与型Tau siRNAという差別化。脳全体への均一な分布と長期ノックダウンが最大の価値。 |
| AL050 |
GBA1関連PD / LBD 将来的に特発性PD / LBD |
前臨床 臨床入り時期を再評価中 |
GCase活性 GlcSphなど基質低下 CNS曝露 |
大 | 脳内まで届くGCase酵素補充という新しい治療概念。遺伝学的に強いGBA1 biologyが魅力。 |
| ADP062-ABC | パーキンソン病 |
前臨床 2028年 初回ヒト投与目標 |
αシヌクレイン低下 CNS分布 持続性 |
非常に大きい | αシヌクレインを抗体ではなくsiRNAで直接低下させるアプローチ。 |
| ADP065-ABC |
ADなど 神経変性疾患 |
前臨床 2028年 初回ヒト投与目標 |
NLRP3低下 IL-1β IL-18 |
大 | 神経炎症フランチャイズへ展開可能。ABC-siRNAの汎用性を示す候補。 |
BVF は2026年9月18日提出の13Gで 937万4,267株、8.4%の新規ポジションを開示しています。かなり大きいです。
会社は現在かなり明確に Alector Brain Carrier(ABC) へ軸足を移しています。
ABCは血液脳関門を越えて薬剤を脳へ運ぶBBB shuttleで、transferrin receptor(TfR)の独自部位を利用し、抗体・酵素・siRNAという複数モダリティに適用できる設計です。会社はQ2時点でABCを「戦略の中心」と明示しています。
現在のABCパイプラインを見るとかなり分かりやすいです。
| 資産 | モダリティ | 標的 / 疾患 | 現在地 | ABCの検証ポイント |
|---|---|---|---|---|
| AL137 | 抗体 | PyroGlu3-Aβ / AD | IND予定 Q1 2027 | 抗体を高効率に脳へ |
| AL164 | siRNA | Tau / AD・tauopathy | IND-enabling | 末梢投与siRNAを脳へ |
| AL050 | 酵素補充 | GCase / PD・LBD | 前臨床 | 大型酵素を脳へ |
| ADP062 | siRNA | α-synuclein / PD | Research | siRNA platform拡張 |
| ADP065 | siRNA | NLRP3 / neuro | Research | 複数疾患への横展開 |
ここが非常に重要です。もし BVF が AL137 だけを評価しているなら、これは普通の preclinical asset 投資です。
でも、抗体 + siRNA + enzyme replacement という全く違うcargoを同じABCで脳へ運べると評価しているなら、これは完全にプラットフォーム投資です。
特に私は、AL164 の存在が重要だと思います。従来siRNAで中枢神経を狙う場合、intrathecal投与が大きな問題になります。
Alector は ABC-siRNA なら末梢投与から脳全体へ均一に届けられる可能性を狙っています。AL064 ではNHP脳内で強い tau mRNA knockdown と持続的な pTau217 低下を確認し、安定性を改善した AL164 を IND-enabling へ進めています。
これがヒトで成立すると、
Tau
→ α-synuclein
→ NLRP3
→ その他CNS標的
と展開できるため、単一薬の価値ではなくなります。さらにタイミングも面白いです。
Alector は6月末時点で $172.8Mの現金・投資資産を持ち、runway は少なくとも2027年末までとしています。一方、過去の主力臨床資産が失敗したことで、企業価値はかなり圧縮されています。
つまり BVF からすると、
旧 Alector の失敗
→ 株価・企業価値が崩れる
しかし ABC という新しい技術基盤
+
$172.8M cash
+
AL137 / AL164 / AL050
+
2027年から臨床入り
が残っている。これは Bain の分類なら、かなり典型的な Fallen Angel + Inflection Capital 型に見えます。
特に2027年の AL137 IND → first-in-human が最初の大きな ABC human validation になります。会社はQ1 2027のIND、遅くとも2027年4月までに豪州で first-in-human dosing を予定しています。
BVFの投資仮説を推測すると、私は次の順番で考えます。
① 最も可能性が高い:ABCプラットフォームのオプション価値
失敗した臨床資産より、現在はABCが会社の中心です。
② Fallen Angel としてのバリュエーション
旧パイプライン失敗で市場からかなり信用を失った会社を、cash+新プラットフォーム価値で見る。
③ AL137 の近接カタリスト
2027年早期にABC初のヒト検証へ入れるので、延々と前臨床を待つ投資ではありません。
④ AL164 / AL050の read-through
AL137 でABCそのもののBBB deliveryがヒトで確認できれば、後続資産すべての価値が同時に上がる可能性があります。
ここが普通の単一資産バイオと違います。
だから私は今回の BVF 8.4%新規について、
「AL137 を一本買った」というより、“旧パイプライン失敗で安くなった Alector を、ABC BBB-delivery platform+複数資産のオプション価値として拾った” という仮説の方が自然
だと見ます。ただし最大の注意点は、ABC はまだヒトで実証されていないことです。今あるのは主にNHPを含む前臨床データです。したがって現段階では、
Platform concept
→ かなり面白い
Preclinical PoC
→ 複数cargoで出始めている
Human PoC
→ まだ
です。そのため、BVF が狙っているとすれば、まさに「Human PoC 前のプラットフォームを、旧資産失敗で割安になった状態で買う」タイプの投資に見えます。これは BVF らしい入り方ではあります。
Alectorの投資ストーリーは2026年に大きく変化しました。AL001 Phase 3失敗 → AL101 Phase 2無益性中止 → GSK提携終了によって、従来のPGRNフランチャイズは事実上消滅しています。
現在は「臨床バイオ企業」というより、ABC血液脳関門プラットフォームを持つ前臨床企業として評価する必要があります。
最大の価値ドライバーはAL137。既存の抗Aβ抗体で問題になるARIA、貧血、点滴負担などを、ABCによる高い脳移行性と低用量皮下投与によって改善できるかが焦点です。
ただし現時点のAL137データは前臨床であり、ヒトでABCが十分な脳曝露・安全性・有効性を示せるかは未検証です。したがって2027年の初回ヒト試験がAlectorの企業価値を再評価する最初の重要イベントになります。
AL137に続くAL164、AL050、ADP062、ADP065まで同じABC技術を利用しているため、AL137で良好なヒト薬物動態・脳移行性が確認できれば、単一資産ではなくプラットフォーム全体の成功確率が上昇する可能性があります。
一方でAL137がABC由来の安全性・薬物動態問題で失敗した場合は、複数パイプラインに共通するプラットフォームリスクとして大きなマイナスとなります。
したがって現在のALECは、「1つの薬の成功を見る銘柄」ではなく、「ABCという脳内デリバリー技術がヒトで成立するかを見るプラットフォーム銘柄」と考えるのが最も分かりやすいです。
AL101 PROGRESS-AD 中止
無益性中間解析で、試験完了時に主要評価項目を達成する可能性が低いと判断。PGRNフランチャイズが事実上終了。
GSK提携終了通知 / Herculesローン返済
GSKが7月6日に提携終了を通知。2027年1月2日に契約終了予定。7月8日にはHercules Capitalへの残存ローン元本US$10.4Mを全額返済。
AL137を正式リード候補に選定
AL037をバックアップとし、AL137を次世代抗Aβプログラムのリード候補として選定。皮下投与を臨床開発ルートとして採用。
AL137 IND申請
ABCプラットフォームを搭載した最初の主要臨床候補としてIND提出を目標。
AL137 初回ヒト投与
豪州で初回ヒト試験開始を計画。安全性、薬物動態、CNS曝露を確認する最初のABCヒト検証。
AL164 臨床入り
Tau siRNAの初回ヒト投与を目標。皮下投与によるTau低下と脳内分布を検証。
ADP062 / ADP065 臨床入り目標
αシヌクレインsiRNAおよびNLRP3 siRNAの初回ヒト試験を目指す。
AL137のIND申請準備・製造進捗、AL164のIND申請準備試験、ADP062 / ADP065の非ヒト霊長類データ。ABCプラットフォームを巡る提携・事業開発の動向。
AL137 IND申請および初回ヒト投与。ABCがヒトで十分な薬物動態・安全性・脳移行性を示せるかを初めて確認するイベント。
AL137 Phase 1データ、Aβ PETによる標的関与、AL164の臨床入り、AL050の臨床開発時期決定。
ADP062 / ADP065の臨床入り。複数の薬剤様式でABCの再現性が示されれば、プラットフォーム提携・ライセンス価値が大きくなる可能性。
