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臨床試験拡張期がもたらす臨床バイオ株の逆転劇

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臨床試験拡張期がもたらす臨床バイオ株の逆転劇

臨床バイオの世界では、2023年の Akero(AKRO)や2024年の CervoMed(CRVO)のように、初期の臨床試験で期待された効果が見られず「失敗か?」と市場に受け止められて株価が急落するケースがあります。しかし、その後の延長試験や長期データで改善が確認され、株価が反発する例も少なくありません。

このような現象が起きるのは、長期試験において「初期データでは効果が見えにくくても、時間の経過とともに改善が現れる」ケースが実際に存在するためです。特に神経疾患、代謝疾患、慢性炎症性疾患などでは、この傾向が顕著です。

Akero や CervoMed が実施した臨床試験では、もともと長期的な評価を行う「拡張期(extension period)」が設計されていたため、初期の試験結果が思わしくなくても、延長試験のデータ公開によって状況が好転したという背景があります。

なぜ「後から改善」があり得るのか?

なぜ、「後から改善」することがあるのでしょうか?その要因をいくつかあげます。

・薬効の遅発性(Delayed Onset)
薬が病態に作用するのに時間がかかる場合(例:抗線維化薬、神経保護薬)がある。

・バイオマーカーと臨床効果のタイムラグ
先にマーカー改善 → 数ヶ月後に症状改善が追いつくこともある。

・患者群のヘテロ性
初期に反応が見えない「late responder」が一定数存在する。

・プラセボ効果の影響
初期はプラセボと差が出にくいが、長期では真の差が顕在化する例。

・薬剤の蓄積/濃度安定化
時間経過により steady-state に到達しやすい(特に徐放性製剤やRNA薬)など。

Akero「Efruxifermin」のケース

Akero Therapeutics(ティッカー:AKRO)は、MASH(旧称NASH:非アルコール性脂肪肝炎)を対象とした治療薬「Efruxifermin(EFX)」の開発を進めています。

この薬剤は、FGF21アナログとして週1回皮下注射で投与される形式を採っており、試験期間中も製剤の変更は一切行われていません。

同社は「HARMONY」と呼ばれる Phase 2b 試験を2021年後半から2022年初頭にかけて開始しましたが、2023年9月に発表された24週時点のデータでは主要評価項目(たとえば肝線維化のステージ改善やNASH解消など)を達成できず、これを受けて株価は約70%急落しました。

しかしこの試験には、あらかじめ設計されていた72週までの blinded extension(盲検延長試験)が存在し、長期的な効果を追跡する構造となっていました。

その72週データが2024年6月21日の Liver Meeting にてプレ公開され、肝線維化の改善、代謝マーカーの正常化、さらには転倒リスクの低下といった臨床的に意味のある効果が観察されたことで、期待感が市場で再燃しました。

現在、Akero はこの結果をもとに Phase 3試験「SYMMETRY」を2024年から進行中です。試験の長期性・延長設計と、それによって初期の失望から逆転し得る可能性を示した好例といえます。

項目 内容
投与薬 Efruxifermin(EFX、FGF21 アナログ)
投与方法 皮下注射、週1回
試験開始 2021年後半〜2022年初頭
24週データ公開 2023年9月(主要評価項目未達)→ 株価 −70%
72週拡張試験データ公開 2024年6月21日(Liver Meeting プレ公開)
肝線維化改善・代謝改善・転倒率低下などで期待感再燃
製剤変更 なし(継続して注射型)
現状 Phase 3「SYMMETRY」進行中(2024年〜)

ポイント

・延長試験は最初から blinded extension として設計されており、治療領域的にも短期より長期の方が効果が出やすかった可能性がある。
・時間経過とともに効果が顕在化した例だと言える。

CervoMed「neflamapimod」のケース

CervoMed(ティッカー:CRVO)は、レビー小体型認知症(DLB)に対する経口治療薬「Neflamapimod(ネフラマピモド)」の開発を進めているバイオ医薬企業です。

24年12月に発表された Phase 2b 試験「RewinD-LB」投与開始から12週時点でのデータでは主要評価項目を達成できず、これにより株価は70%以上も急落しました。

しかしながら、試験にはOpen-Label Extension(OLE)=延長投与期間が設けられており、患者への長期的な効果を観察する設計となっていました。この拡張期間においては、標準的な経口錠剤から改良型の経口カプセル剤へと製剤を変更。

これにより薬物の吸収性や血中濃度が改善され、より安定した効果が期待される形となりました。その結果、26週の延長で神経症状が改善さました。

データでは、ADL(日常生活動作)やNPI(行動神経心理症状スコア)といった実臨床に即した評価項目において、明確な改善が確認されました。特に進行期DLB患者においては有意な効果が観察され、市場では予想外のポジティブサプライズとして受け取られ、株価は急反発しました。

試験名:RewinD-LB(Phase 2b)
投与薬 Neflamapimod(経口)
試験開始 2022年
二重盲検試験(12週投与)結果発表 2024年12月11日
└ 主要評価項目未達(CDR-SB変化量)
延長試験(OLE)データ発表(26週時点) 2025年5月7日
└ ADL/NPIなど副次評価項目に有意改善
延長試験(OLE)32週データ発表 2025年7月28日(AAIC 2025)
└ 主要な臨床指標において疾患進行リスクが54%〜64%低減
製剤変更 標準経口錠 → 改良型カプセルへ変更
└ 血中濃度上昇・有効性改善を狙った薬物動態最適化
現状 Phase 3 試験を準備中
└ 実施時期は 2025年下半期〜2026年初頭 を想定

ポイント

・製剤変更ありで、延長試験でのカプセルを変更した。
・明確な臨床改善をOLEで示し、ポジティブサプライズに。

長期試験設計と長期データの重要性

長期設計された臨床試験では、短期データで期待される効果が見られなくても、時間の経過とともに治療効果が顕在化するケースが存在します。

これは特に神経疾患、代謝疾患、慢性炎症性疾患などの治療領域において顕著に見られる現象です。短期間では主要評価項目を達成できずに市場から失望を買った臨床試験でも、あらかじめ設計された延長試験(extension period)や長期追跡データによって、臨床的に意義のある改善効果が確認されることがあります。

この「後発的改善」が生じる主な要因として、薬効の遅発性、バイオマーカーと臨床効果のタイムラグ、患者群の多様性による遅い反応者(late responder)の存在、プラセボ効果の減衰による真の効果の顕在化、薬剤の血中濃度安定化などが挙げられます。

今回この記事で追った、Akero(AKRO)のMASH治療薬や CervoMed(CRVO)のレビー小体型認知症治療薬の事例は、このような長期的視点の重要性を示す好例です。

初期の失望的な結果にもかかわらず、延長試験で臨床的に意味のある効果が確認されたことで、これらの薬剤は次のフェーズへと進展することができました。

このため、臨床試験の評価においては、短期データのみに基づく判断ではなく、試験設計全体を通じた長期的な効果の検証が極めて重要であると言えます。