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新薬開発の成功率は上がる。しかし、それは本当に良いことなのか?

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新薬開発の成功率は上がる。しかし、それは本当に良いことなのか?

Octant Bio の共同創業者兼CEOであり、Ginkgo Bioworks の取締役も務める Sri Kosuri 氏が、現在の創薬業界について興味深い見解を投稿しました。

今後数年間で、新薬の臨床試験成功率は大きく上昇するだろう。ただ、その理由は、ほとんどの投資資金が “me-too” や “me-better” の薬へ集中し、本当に新しい創薬への投資が減っているからだ。

一見すると、「成功率が上がる」というのは業界にとって朗報のように聞こえます。しかし、Kosuri氏が伝えたかったのは、その裏側にある創薬エコシステムの変化です。

me-too 薬、me-better 薬とは?

創薬では、新しい薬は大きく3つに分けられます。

分類 内容 開発リスク
First-in-class 世界初の作用機序を持つ薬 非常に高い
Me-better 既存薬を改良し、有効性や安全性、投与方法を改善した薬 中程度
Me-too 既存薬とほぼ同じ作用機序を持つ後発薬 比較的低い

First-in-class は未知の領域へ挑戦するため、失敗率も高くなります。一方、me-too や me-better は、すでにヒトで作用機序が証明されているため、臨床試験の成功確率は自然と高くなります。

つまり、業界全体が後者へシフトすれば、統計上は成功率が上がるのは当然なのです。

投資家がリスクを避け始めた

近年、バイオ市場では資金調達環境が厳しくなり、投資家は「確率の高い案件」を好む傾向を強めています。

その結果、

・既存薬より少し良い薬
・副作用を改善した薬
・投与回数を減らした薬
・皮下注射化・経口化した薬

といった “改良型” の開発が増えています。企業にとっても、完全な新規作用機序より、既に成功実績のある標的を狙う方が資金を集めやすくなっています。

成功率は上がるが、イノベーションは減る

Kosuri 氏が懸念しているのはここです。臨床試験の成功率だけを見れば、業界は「以前より良くなった」ように見えるかもしれません。

しかし、その背景には、

・誰も挑戦したことのない標的
・全く新しい作用機序
・根本的な治療法

への投資が減っている可能性があります。つまり、数字は改善しても、医療のブレークスルーが減ってしまう危険性があるということです。

バイオ投資家への示唆

この見方は、近年の大型買収とも重なります。

大手製薬会社は、

・臨床リスクが低い
・ヒトでPoC(Proof of Concept)が得られている
・既存薬との差別化が明確

といった資産を好む傾向を強めています。そのため、今後もしばらくは me-better や best-in-class のパイプラインが高く評価される場面は続くかもしれません。

一方で、本当に新しい作用機序(first-in-class)は開発難易度が高く、短期的には市場から評価されにくい状況が続く可能性があります。

それでも、長期的な価値を生むのは革新的な創薬

もちろん、me-too や me-better にも大きな価値があります。患者にとっては、副作用が少なく、より使いやすい薬が増えることは大きなメリットです。

ただし、アルツハイマー病や神経変性疾患、難治性がん、自己免疫疾患など、いまだ有効な治療法が十分ではない領域では、最終的に医療を大きく前進させるのは first-in-class のような革新的な創薬です。

Kosuri 氏の投稿は、「新薬の成功率が上がる」という明るい話ではなく、その数字の裏で、創薬業界全体がより保守的な方向へ向かっていることへの警鐘といえるでしょう。

成功率という数字だけでは見えない、「何に挑戦しているのか」という視点も、これからのバイオ業界を理解するうえで重要になりそうです。