
アトピー性皮膚炎(AD)領域では、Dupixent を中心とした IL-4 / IL-13 軸の薬剤がすでに大きな市場を形成しています。
一方で、既存治療では十分に改善しない患者も多く、より高い有効性、より便利な投与間隔、経口薬、あるいは新しい免疫制御メカニズムを狙うパイプラインに注目が集まっています。
ここでは、AD関連パイプラインを持つ、またはADへの展開可能性がある APGE、KYMR、EVMN、CRVS、ACRS、NKTR、ACBL、QTTB、TLWR、EQ を比較します。
アトピー性皮膚炎パイプライン比較表
| ティッカー | 主なADパイプライン | 作用機序 | 臨床フェーズ | 今後の主なカタリスト | 評価 |
|---|---|---|---|---|---|
| APGE | Zumilokibart / APG777、APG279 | IL-13阻害、IL-13 + OX40L | ZumilokibartはPhase 2完了 → Phase 3予定。APG279はPhase 1 | ZumilokibartのPhase 3開始、APG279のPhase 1b PoC | 最も成熟。ただしAbbVieによる買収発表済みで、純粋なデータ投資ではなく買収完了リスクを見る段階 |
| KYMR | KT-621 | 経口STAT6 degrader | Phase 2b | 2026年末トップライン。成功なら2027年Q2〜Q3にPhase 3開始の可能性 | 上場AD銘柄として最重要級。経口薬でDupixent系の効果に迫れるかが焦点 |
| NKTR | Rezpegaldesleukin / REZPEG | Treg刺激 / IL-2Rβγ agonist系 | Phase 2b陽性 → Phase 3予定 | Phase 3 ZENITH-AD開始・試験設計 | 後期・差別化あり。免疫のブレーキを戻すアプローチで、IL-13系とは異なる |
| CRVS | Soquelitinib | 経口ITK阻害 | Phase 2開始済み | Phase 2データ、追加の免疫疾患データ | 小型株の中では高β候補。Phase 1のADシグナルは強いが、再現性確認が必要 |
| EVMN | EVO756、EVO301 | MRGPRX2阻害、IL-18BP融合蛋白 | EVO756はPhase 2b、EVO301はPhase 2a陽性 | EVO756 AD Phase 2bトップライン、EVO301の次段階開発 | 資産は複数あるが、EVO756はCSU失敗によりAD成功確率を下げて見るべき |
| ACRS | ATI-052、ATI-2138 | TSLP × IL-4Rα、ITK/JAK3 | ATI-052はPhase 1b、ATI-2138はPhase 2aデータあり | ATI-052 AD Phase 1bトップライン | 初期だが、TSLP + IL-4Rαの二重特異性は理屈が強い |
| TLWR / JATT | TALA-125 | IL-13 × IL-18 二重特異性抗体 | IND-enabling | 2027年Q1臨床入り、2027年Q4 Phase 1中間データ | 臨床前ストーリー株。PIPE投資家は強いが、ヒトデータはまだない |
| QTTB | Bempikibart / ADX-914 | IL-7Rα阻害、IL-7 + TSLP signaling | Phase 2a済み | ADではなくAA中心へシフト | ADではPart B未達で優先度低下。AD本命銘柄としては弱い |
| EQ | EQ101 | IL-2 / IL-9 / IL-15阻害 | AA Phase 2、ADは将来機会レベル | 明確なAD臨床カタリストは薄い | 機序は面白いが、現時点でAD銘柄としての優先度は低い |
| ACBL | ADパイプラインは確認しにくい | KLRG1陽性細胞除去など | IBM / T-LGLL中心 | AD関連の明確なカタリストはなし | AD比較からは基本的に除外でよい |
AD パイプラインの比較
| 比較対象 | ADパイプライン / 作用機序 | APGEより優っている点 | APGEより劣っている点 | 投資目線の見方 |
|---|---|---|---|---|
| APGE / ABBV | Zumilokibart / APG777:長期作用型 anti-IL-13抗体 | ベンチマーク。Phase 2でかなり強いADデータを出し、3〜6カ月維持投与という商業的に分かりやすい差別化がある。AbbVieの販売力も加わる。 | IL-13単独阻害なので、IL-4Rα、TSLP、STAT6、Treg系より作用範囲は狭い可能性。 | 大型M&Aの基準点。ADで「効く+投与回数を減らす」ことの価値を示した。 |
| ACRS | ATI-052:anti-TSLP / anti-IL-4Rα 二重特異性抗体。加えてbosakitug/ATI-045、外用JAK、経口ITK/JAK3など。 | APGEのIL-13単独より理論上は広い。TSLPという上流アラーミン+IL-4/IL-13経路を同時に抑えるため、AD・喘息などType 2炎症で上振れ余地がある。ATI-052はAD Phase 1b POCが進行中で、トップラインは2026年後半予定。 | AD患者での明確な有効性データはまだない。APGEは既にPhase 2で大規模データを出し、買収済み。 | APGE型のM&A再評価を最も狙いやすい小型候補。ただし、患者データが出るまでは“設計の良さ”止まり。 |
| EVMN | EVO756:経口MRGPRX2 antagonist、AD Phase 2b。EVO301:IL-18BP fusion protein、AD Phase 2a陽性。 | APGEと違い、かゆみ・神経免疫・肥満細胞系を狙う新規性がある。EVO301はPhase 2aでWeek 12のEASI改善がプラセボ調整後33%、IGA 0/1が23%。EVO756のAD Phase 2bトップラインは2026年Q3予定。 | EVO756はCSU Phase 2bで未達となっており、同じMRGPRX2機序への信頼感は下がった。EVO301もまだPhase 2aで、皮下注Phase 2bはこれから。 | 一発の意外性はあるがリスク高め。EVO756のADデータが陽性なら大きいが、CSU失敗後なのでハードルは上がっている。 |
| CNTB | Rademikibart / CBP-201:anti-IL-4Rα抗体。IL-4 / IL-13を同時阻害。 | データ成熟度は非常に高い。中国Phase 3 RADIANT-ADで、Week 52のEASI-75 96.6%、IGA 0/1 87.1%とかなり強い長期データを示した。安全性もプラセボ類似と会社は説明。 | 機序はDupixent型に近く、新規性は低い。ADの大きなデータは中国中心で、中国権利はSimcere側。米欧価値への変換には提携・追加試験が必要。 | データは強いが、株式市場での評価反映が複雑。AD単独のM&AストーリーはAPGEほど単純ではない。 |
| CRVS | Soquelitinib:経口ITK阻害薬。Th2 / Th17抑制、Treg増加を狙う。AD Phase 2 SIERRA1進行中。 | APGEより面白いのは、経口薬であり、かつ短期投与後のdrug-free remission / reboundなしを示唆している点。Phase 1ではCohort 4でEASI-75 75%、IGA 0/1 33%、EASI-90 25%、重篤な安全性問題なしと報告。さらにTh2/Th17抑制とTreg増加という“免疫リセット”寄りの説明ができる。 | Phase 1は小規模・短期で、Cohortごとのnも小さい。APGEのような大規模Phase 2データではない。Phase 2は約200例予定で、まだ検証段階。 | 小型バイオとしての上振れはかなり大きい。APGE型ではなく、「経口・短期治療・寛解維持」が本当に再現できるかが勝負。 |
| KYMR | KT-621:経口STAT6 degrader。IL-4/IL-13シグナルの中核転写因子STAT6を分解。AD Phase 2b BROADEN2。 | APGEよりも商業的に強い可能性があるのは、経口・1日1回で、IL-4/IL-13経路全体をSTAT6レベルで遮断する点。Phase 1bでは血液・皮膚でSTAT6を深く分解し、Day 29でEASI平均改善約62〜63%、かゆみNRS改善、TARC/IL-31/FeNO低下を示した。Phase 2bは登録完了、トップラインは2026年末まで予定。 | まだPhase 1bの短期データであり、Phase 2bの有効性・安全性は未確定。全身STAT6分解という新しい機序なので、長期安全性の見極めが必要。 | 最も“APGE後の本命級”に見える候補の一つ。Phase 2bが強ければ、経口Dupixent様という非常に大きな物語になる。 |
| NKTR | Rezpegaldesleukin / REZPEG:IL-2経路作動薬、Treg刺激・増殖。AD Phase 2b完了、Phase 3 ZENITH-AD開始予定。 | APGEより作用機序が根本的。単一サイトカイン遮断ではなく、Tregを増やして免疫バランスを戻す“resolution therapeutic”型。Phase 2b REZOLVE-ADは393例で、全用量がWeek 16のEASI改善で有意差を達成。EASI-75は高用量42%、中用量46%、低用量34%、プラセボ17%。Phase 3 ZENITH-ADを2026年Q2に開始予定と会社は説明。 | EASI-75やIGA 0/1の絶対値はAPGEより低く見える。投与も注射で、APGEの3〜6カ月維持投与ほど分かりやすい利便性はない。過去にLillyとの解釈相違があった点も投資家心理には影響し得る。 | “効きの強さ”より“免疫寛容・長期安全性・広い自己免疫展開”の銘柄。AD単独ではAPGEほど派手ではないが、Phase 3入りの確度は高め。 |
成熟度で見ると、上位は APGE、KYMR、NKTR
ADパイプラインの成熟度で見ると、最も進んでいるのは APGE です。主力の Zumilokibart / APG777 はPhase 2で良好なデータを出しており、Phase 3へ進む段階にあります。さらにAbbVieによる買収が発表されているため、AD後期資産としての価値はすでに大手製薬から評価された形です。
ただし、APGEはすでに買収発表済みであるため、今後の投資判断は「ADデータの成功確率」というより、買収完了までのスプレッドやクロージングリスクを見る段階に近くなっています。
上場銘柄として今後のADデータで最も注目されるのは KYMR です。KT-621は経口STAT6 degraderで、IL-4 / IL-13シグナルの中核にあるSTAT6を分解する設計です。もし経口薬で生物学的製剤に近い効果を示せれば、商業的なインパクトは非常に大きくなります。
NKTR の Rezpegaldesleukin は、Tregを刺激して免疫制御を回復させるアプローチです。IL-13阻害やJAK阻害とは異なるメカニズムで、Phase 2b陽性データを出しており、Phase 3入りが見込まれています。ADだけでなくAAでも展開しているため、皮膚免疫疾患プラットフォームとして評価されやすいパイプラインです。
小型株でアップサイドを狙うならCRVSとEVMN
小型株の中で最も面白い候補は CRVS です。Soquelitinibは経口ITK阻害薬で、Th2 / Th17系の炎症を抑えつつ、Treg方向へ免疫をシフトさせるというストーリーです。Phase 1のADデータではEASI-75などで強いシグナルを示しており、Phase 2で再現できるかが最大の焦点です。
ただし、CRVSのADデータはまだ小規模な初期データです。そのため、現在の評価は「良い初期シグナルを持つ高β銘柄」であり、Phase 2で同じ強さが出るかを慎重に見る必要があります。
EVMN はAD関連資産を複数持っています。EVO756は経口MRGPRX2阻害薬でAD Phase 2bが進行していますが、同じEVO756のCSU Phase 2bが主要評価項目未達となったことで、ADへの成功確率は以前より下げて見るべきです。
一方で、EVMNには EVO301 というIL-18BP融合蛋白もあります。EVO301はAD Phase 2aで陽性データを出しており、EVMNの中でより価値が残る可能性があるのは、EVO756よりもEVO301かもしれません。
初期パイプラインではACRSとTLWRが注目
ACRS は、ATI-052が本命です。ATI-052はTSLPとIL-4Rαを同時に狙う二重特異性抗体で、AD Phase 1bのトップラインが今後の重要カタリストになります。TSLPは上流の炎症ドライバーであり、IL-4RαはDupixentで検証済みの軸です。そのため、理屈としては非常に分かりやすいパイプラインです。
ACRSにはATI-2138という経口ITK/JAK3阻害薬もあります。ADでPhase 2aデータは出ていますが、現在の開発優先順位はlichen planusなど別適応に寄っているため、AD本格開発がどこまで続くかは確認が必要です。
TLWR / JATT は、Talawar TherapeuticsのTALA-125が中心です。TALA-125はIL-13 × IL-18の二重特異性抗体で、ADの既存治療の efficacy ceiling を超えるというストーリーです。Access Biotechnology、Bain、Deep Track、RA Capital、FarallonなどがPIPEに参加している点は大きなポジティブですが、現時点ではIND-enabling段階で、ヒトデータはまだありません。
そのため、TLWRは「データで証明されたAD銘柄」ではなく、「有力投資家が支える臨床前ストーリー株」と見るのが自然です。
QTTB、EQ、ACBL はAD本命としては弱い
QTTB のBempikibartは、IL-7Rαを阻害することでIL-7とTSLP signalingを抑える薬剤です。ADではPhase 2aのPart Aでシグナルがありましたが、Part Bでは主要評価項目を達成できませんでした。そのため、現在はADよりもAAへ軸足が移っていると見られます。
EQ のEQ101は、IL-2 / IL-9 / IL-15を阻害する設計で、免疫疾患としては面白い機序です。ただし、現時点ではAAが中心であり、ADは将来機会という位置づけに近いです。AD銘柄としての明確な臨床カタリストは薄いです。
ACBL をAbcuroとして見る場合、主力はIBMやT-LGLLなどで、ADパイプラインは確認しにくいです。したがって、今回のAD比較では基本的に除外に近い扱いでよいと思います。
ADパイプラインの投資優先順位
| 順位 | ティッカー | 評価理由 |
|---|---|---|
| 1 | KYMR | 経口STAT6 degraderで、AD大型市場を狙う最重要上場銘柄。2026年末のPhase 2bデータが非常に重要 |
| 2 | NKTR | Phase 2b陽性、Phase 3予定。Treg刺激という差別化があり、後期資産として評価しやすい |
| 3 | CRVS | 小型株で最もアップサイドが大きい可能性。Phase 1データは強いが、Phase 2での再現性待ち |
| 4 | EVMN | EVO301は面白いが、EVO756はCSU失敗によりリスク上昇。複数資産をどう評価するかが焦点 |
| 5 | ACRS | ATI-052のTSLP × IL-4Rαは理屈が強いが、まだPhase 1bでデータ待ち |
| 6 | TLWR / JATT | IL-13 × IL-18二重特異性のストーリーは良いが、完全に臨床データ前。PIPE投資家の質は高い |
| 7 | QTTB | AD試験未達により優先度低下。現在はAA中心の見方 |
| 8 | EQ | ADは将来機会程度で、明確なADカタリストは薄い |
| 9 | ACBL | ADパイプラインは確認しにくく、比較対象としては除外に近い |
| 特別枠 | APGE | 最も成熟したAD資産だが、AbbVie買収発表済みのため、純粋なADデータ投資ではなくなっている |
まとめ
ADパイプラインを比較すると、最も成熟しているのは APGE ですが、すでにAbbVieによる買収が発表されているため、今後の株価材料はデータよりも買収完了リスクに近くなっています。
今後の上場銘柄として最も注目されるのは KYMR です。KT-621が経口STAT6 degraderとして、Dupixent系の生物学的製剤に近い有効性を示せるかが最大の焦点です。
後期・差別化資産としては NKTR、小型高β候補としては CRVS、複数AD資産を持つがリスクも高い銘柄として EVMN、初期二重特異性のストーリー株として ACRS と TLWR が続きます。
一方、QTTB、EQ、ACBL は、現時点ではAD本命銘柄としての優先度は低いと見ます。
投資目線で一言にまとめると、「次のAD大型勝負はKYMR、後期の差別化はNKTR、小型の高βはCRVS、二重特異性の次世代ストーリーはACRS / TLWR」 という整理になります。

