2025年8月15日、SPAC「CCIR(Cohen Circle Acquisition Corp.)」が Kyivstar(キーウスター:KYIV)と合併しました。
市場では同日開催されたトランプ/プーチン会談への期待もあって、プレマーケットでは一時14.50ドルを超える場面もありました。しかし、実際には新しい材料が出なかったため、SPACマージ日に良くある典型的な「寄り天」となりました。
会談の内容も従来通りで、停戦への道筋は「ゼレンスキー大統領が領土を譲歩する以外にない」との見方が強まっています。週明けにはゼレンスキー大統領がトランプ氏に会う予定であり、ここで進展があれば3者会談に発展する可能性もあり、市場は新たなカタリストを待っています。
これまで CCIR 時代から、停戦実現の不透明感が株価の重しとなってきました。しかし、足元の相場がバブっていて地合いが良いことからも、Kyivstar の業績・技術・サービス内容への注目が高まれば、今後は買いが集まる局面も期待できそうです。
Starlink「Direct-to-Cell」衛星技術の導入
Kyivstar は東ヨーロッパで初めて、Starlink(SpaceX)による “Direct‑to‑Cell” 衛星技術のフィールド試験に成功しました。
スマートフォンだけで WhatsApp や Signal などのメッセージ通信が可能となる技術で、戦時下などの通信インフラが脆弱な地域でも重要な対応策と位置づけられています。
メッセージングサービスは2025年末に商用開始予定、モバイル衛星ブロードバンドと音声サービスは2026年中盤に展開予定です。
AIを活用したパーソナライズサービスの展開
Kyivstar は AI(人工知能)を既存の通信サービスに統合し、より質の高いパーソナライズされたユーザー体験を提供しています。
具体例として、Big Data と組み合わせた「バーチャルアシスタント」により、ウェブサイト上での顧客対応や広告生成、フィードバック分析まで多様な領域で活用されています。
国策との連携による「ウクライナ初の国産LLM」開発
ウクライナ政府(デジタル変革省)と Kyivstar は、ウクライナ語による初の大規模言語モデル(LLM)の開発に向けた協力を進めています。
トレーニングデータは全て公開ソースから調達し、個人データは含まない形で、2025年末までに初期公開を目指しています。Kyivstar は技術的および資金的な責任を担い、プロジェクトオフィス設置、チーム編成、インフラ提供などを担当します。
注目視点
Kyivstar の親会社である Veon は、かつてロシアでも事業を展開していました。しかしウクライナ侵攻後にロシア市場から完全撤退し、資本・事業面でのつながりを断ち切ったことで、Kyivstar は独立性を強め、SPAC を通じてナスダックに上場しました。
これにより、Kyivstar は 米国市場に上場する初のピュアプレイ・ウクライナ企業となりました。同様の事例として挙げられるのが Nebius(旧 Yandex NV / ティッカー: NBIS)です。
Nebius はロシアの大手IT企業 Yandex から分離し、2024年10月に独立して上場したAIインフラ企業です。
Yandex は「ロシアの Google」と呼ばれていましたが、戦争をきっかけにロシア事業を切り離し、西側諸国に適合した新会社を立ち上げざるを得ませんでした。
その結果生まれたのが Nebius であり、現在はAIクラウドやインフラ領域を担い、AIブームと重なって再上場後の株価は上昇傾向にあります。
事業内容そのものは異なるものの、Kyivstar も今後 AI 領域に進出する計画があり、投資家から評価される可能性があります。
まとめ
Kyivstar は通信事業にとどまらず、AIや衛星通信を組み合わせた次世代技術にも取り組み、デジタルインフラ全体を担う存在へと進化しつつあります。
こうした動きは、同社を「通信企業」から「多角的テック企業」へと押し上げ、投資家の注目度も変わってくると思います。