Tron グループは、ナスダック上場企業である SRM Entertainment (SRM) と SPAC(リバース・マージャー)による合併を通じて、米国市場への上場を目指しています。合併後は社名を「Tron Inc.」に変更します。
合併規模は約2億1000万ドル。100万株の転換優先株+ワラントなどを通じた資金調達を含みます。この取引の主導には、Dominari Securities(トランプ家と関係のある投資銀行)が関与しています。
Eric Trump(ドナルド・トランプ元大統領の次男)が関与する可能性も報じられていますが、当人は「公的関与はない」としています。Tron は、多機能型Web3プラットフォームとして、独自のポジションを築いています。
安価・高速な決済とスマートコントラクト処理、ステーブルコイン取扱で圧倒的な実績、P2P配信・分散ストレージを統合したWeb3型インフラ、中華圏・新興国に強い地盤を持つ実用系ブロックチェーンです。
特に、Tether(USDT)のメインネットワークとしての役割であり、「中央銀行に代わるドルの送金手段」としての地位を世界的に拡大させています。
SRM は2023年8月に SPAC 上場し、以降は空箱として低迷しており、Tron とのディールが発表される前の4月には1株0.26ドルでした。しかし、Tron とのディールが発表されると株価は一時、10.84ドルまで急騰しました。
話題のステーブルコイン
Amazon やウォールマートのような大手小売企業がステーブルコイン(安定した価値を持つ暗号通貨)の導入を検討しているように、今何かと話題になっているのが、ステーブルコインのビジネスです。
直近では、USDCステーブルコインの発行元 Circle Internet Group, Inc. (CRCL) が2025年6月5日にIPOしています。
Tron(トロン)のビジネスとは?
Tron(トロン)は、分散型インターネットの実現を目指すブロックチェーンプロジェクトです。もともとは中国出身の起業家 Justin Sun (ジャスティン・サン) によって2017年に立ち上げられ、現在はシンガポールを拠点とした Tron Foundation によって管理されていました(現在は米国への拠点シフトも進行中)。
・ブロックチェーン・インフラ提供
Tron は高スループット・低コストのL1ブロックチェーンを運営。スマートコントラクトの開発、DAppsの実行、NFTの発行などが可能です。
独自の合意アルゴリズム「Delegated Proof of Stake(DPoS)」を採用しており、高速処理と低手数料が特徴です。
・TRX(Tronix)トークン
Tron のネイティブトークン「TRX」は、ガス代の支払い・ステーキング・投票権行使などに使用。DeFi、NFT、ゲーム内通貨など、エコシステム全体で活用される。
・USDT / USDC の Tron ネットワーク展開
Tron はステーブルコイン取扱量で世界最大級のネットワーク。2024年時点で USDT(Tether)の過半数以上の発行量が Tron ネットワーク上で運用されています。
これは取引手数料が Ethereum より圧倒的に安い(数円程度)ため、中華圏や新興国での国際送金・OTC決済で人気です。
・BitTorrent との連携(Web3配信基盤)
2018年に Tron はP2P技術で有名な BitTorrent 社を買収しました。「BitTorrent Chain」「BTFS(BitTorrent File System)」など、分散型ストレージ・ファイル共有のWeb3サービスを展開しています。
TRX や BTT(BitTorrent Token)を使ったファイル配信報酬モデルも導入しています。
・ステーキング/バリデータ・エコノミー
Tron ネットワークは27人の「スーパーレプレゼンタティブ(SR)」により維持され、TRX保有者の投票により選出。これにより、民主的なガバナンスと報酬分配の仕組みが成り立っています。
投票者(ステーカー)には報酬(TRX)が分配され、パッシブインカムの手段としても人気です。
Tron がステーブルコイン分野で「今、話題」なのは何故か?
Tron がステーブルコイン分野で「今、話題」の理由には、USDT(Tether)の最大ネットワークだからです。世界で流通している USDT のうち、50%以上が Tron ネットワーク上で稼働しています(2024年時点)。
Ethereum や Solana よりも、手数料が非常に安い(数円以下)ことが理由で、個人間送金・OTC取引で圧倒的に利用されています。特に新興国・規制が厳しい地域(中国、ロシア、中東、南米など)で利用頻度が高く、「USDT on Tron」は実質的な “デジタルドル” として機能している場面もあります。
USDD(Tron 独自のステーブルコイン)も運用中
Tron は、独自ステーブルコインである USDD も発行しています(UST型に近い設計)。一時はディペッグのリスクで話題になりましたが、現在は担保を強化し、より安定的に管理されています。
Justin Sun(創設者)が、USDDを「完全に透明なオンチェーン型のステーブルコイン」にすると宣言しており、監査体制も強化中。2025年6月5日に Circle(ティッカー : CRCL、USDCの発行元)がIPOを果たしたのに続き、Tron も “USDT最大のネットワーク提供者” として市場に登場することで、ステーブルコイン業界全体の価値が再評価される流れです。
Tron のユースケースと実績
決済 : 新興国の国際送金(例:中国~ラテンアメリカ)で USDT on Tron が頻用
DeFi : JustLend(Tron上のレンディング)、SunSwap(DEX)など
NFT : ApeNFT マーケットプレイスなどが Tron で展開
分散型ストレージ : BTFS(BitTorrent File System)による分散型ファイル保管
ガバナンス : TRXステーキングでネットワークの意思決定に参加
ユーザー層は中華圏・アジア・新興国に多く、西側主導の Ethereum とは市場が分かれている。トルコ、ベネズエラ、ロシアなどでも Tron 経由の USDT が事実上のドル替わりとして利用されています。
リスク
Tron のリスクと課題は、中央集権的という批判があり、開発の主導権をジャスティン・サン氏が強く握っており、「真の分散化」とは距離があるとの声も聞きます。
また、SECの調査対象になっており、2023年に未登録証券販売として調査を受けました。現在は調査は事実上終了し、米国上場(SPAC経由)に向けて動いています。
ライバルとの競争としては、Solana や Avalanche などの新興L1チェーンが高速・低コストなインフラで Tron と競合しています。
マージ日は?
Tron のディールは2025年6月16日に発表されました。現在のところマージ日(合併日)はまだ発表されていませんが、手続きの完了および上場開始の見通しが立ち次第、発表される見込みです。
日本の証券会社での取り扱い
現在日本の証券会社では、松井証券が2024年8月頃に米国株の新規取り扱い銘柄として SRM(SRM Entertainment)を追加しています。