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昭和と平成の隙間を縫う、映画『つぐみ (TUGUMI)』

ライフ

つぐみ

10代の頃に『ざわざわ下北沢』、『落下する夕方』など小劇場向け?の日本映画を見ていた時期がありました。2021年の年末に少し時間ができ、何となく1周以上回って自分が過ごした90年代、平成の日本映画が見たくなりました。そして、ふと思い出したのが高校生の頃に TUTAYA でレンタルして見た『ざわざわ下北沢』のことでした。映画についてネットで調べていると、この映画を監督した市川準監督傑作選『観客が選んだ BEST 5』という予告動画に辿りつきました。

市川準監督が映す昭和〜平成の町や人々の映像がとてもノスタルジーで、市川準監督の映画作品を見てみることにしました。自分から進んで日本映画を見るのは数十年ぶりだったのですが、完全に忘れかけていたひとつの懐かしい時代 (昭和〜平成) の隙間を思い出すことができました。

市川準監督については、何の予備知識もなかったのですが、監督は生涯をかけて “追憶・少女・東京” を撮ってきた映画監督ということです。つまり、東京の街並み、少女、ノスタルジーを撮らせたら唯一無二ということです。

映画『つぐみ (TUGUMI)』

海辺のきらめきに包まれていた少女たちの永遠の夏

つぐみ

まず最初に見ることにしたのが、1990年代に公開された吉本ばななの小説が原作の『つぐみ (TUGUMI)』です。TSUTAYAディスカスでDVDを借りて、冬の夜中にひっそりと見たのが正解でした。中嶋朋子の包み込むような心地良いナレーションが、懐かしい昭和と平成の隙間を縫いながら、街や人々を映し、ゆっくりと映画の舞台である西伊豆松崎へと流れいきます。

とにかく可憐できゃしゃな中嶋朋子演じる、白河まりあに終始うっとり見惚れてしまいました。。。とくに映画最後のシーンで、まりあがバイトしている、今も高円寺に実在するカフェ (映画ではレストランかな) 四丁目カフェでバイト中に、つぐみに想いを馳せて魅せる切ない表情です。

映画『つぐみ (TUGUMI)』は、150万部を超える吉本ばななのベストセラー小説『TUGUMI』の映画化。この映画のテーマは “郷愁“、監督の市川準と時代を共有した映画研究者、倉田剛は著書『追憶・少女・東京 映画監督 市川準』で以下のように解説しています。

大林宣彦の『ふたり』(1991年)に、似た印象を持ったが、それは中嶋朋子の存在ゆえであって、中嶋の声質の包容力というか彼女の声を聴くだけで自然に涙腺が緩むのである。
– 倉田剛『追憶・少女・東京 映画監督 市川準』

追憶・少女・東京 映画監督 市川準

主演の牧瀬里穂、中嶋朋子、白島靖代の80’s後半〜90’sな服装、ファッション、ヘアースタイル、佇まいなど、映るもの全てが懐かしく、ある意味新鮮で蘇り、可愛らしく感じられ、郷愁を誘います。昭和生まれ平成育ちのニュージェネ世代にとっては、とにかくたまらない作品であり映像だと思います。自身が10代の頃に見た『ざわざわ下北沢』もそうでしたが、市川監督がカメラに映す、少女、街並み、人々は、魔法にかかったかのように見事に当時のままそこに存在してアーカイブされています。当たり前のことですが、ここまで強く懐かしさを感じる作品はないように思います。

つぐみ

中嶋朋子演じる白河まりあと、つぐみの姉の陽子がケーキ屋のバイト帰りに自転車を押して帰るシーン。

近所の夏祭りに3人で出かけるために、つぐみの浴衣の帯を締めているシーン。

主演を演じた牧瀬理穂は、以下のように振り返っています。

つぐみとして生きたあの夏は忘れられません。
市川監督の作品の一部になれたことは私の誇りです。
– 牧瀬理穂

映画に登場する四丁目カフェ

映画にも登場する四丁目カフェは、高円寺の駅前に現在も実在しています。映画の最後で、白河まりあがバイト中に思いにふけるシーンも印象的でした。映画を見た後に実際に足を運んでみましたが、その時は満席で入れませんでした。地元では人気のカフェのようです、残念。

この世界観にハマってしまった私は、『つぐみ (TUGUMI)』のサントラをメルカリで手に入れ、中央公論から出ていた「映画つぐみ シナリオ&フォト」ブックを、Amazon のマーケットプレイスで購入しました。このフォトブックが結構良くて、本の冒頭に映画の原作となった小説『Tugumi』を書いた吉本ばななが映画について、監督の市川さんについてメッセージを寄せています。

「夏」という季節の円環に永遠に閉じ込められたひとつの宇宙

小説の中で、ひと夏の完結した宇宙、というものを書こうとしました。そこには現実も時間も年令もない、「夏」という季節の円環に永遠に閉じ込められたひとつの宇宙があるはずでした (うまく書けなかったけどさ)。

それを私は、ひとりの少女に背負ってもらおうとしたのです、その特別の夏、つぐみはひとりの少女としてではなく、何かもっと巨大なものの化身として存在しました。

例えば、人が誰か他の人を好きになった時に突然、相手の指の形や、髪の流れ具合や、笑った唇のはしや、はてはその人の後ろに見える街の風景さえ好きになってしまうように、そこにそのひとのすべてを感じとってしまうように、その夏つぐみを愛した人々は、つぐみという小さな宇宙の神秘の中に、そのつよいまなざしの中に、青春という影のありとあらゆる形を見たのだと思います。ーー(続く)

このメッセージにある、「人が誰か他の人を好きになった時に」の部分にある、「はてはその人の後ろに見える街の風景さえ好きになってしまうように」この一文を文字にできてしまうというのは、本当にすごいなぁと素人は思うのでした。

ちなみにこの後、ファンが選ぶ市川映画のベスト5にランクインしていた映画を全て見たのですが、特に初監督作品で富田靖子が主演を務めた『BU・SU』と、デビュー当時の池脇千鶴が主演を務めた『大阪物語』も素晴らしい作品でした。『つぐみ (TUGUMI)』を見た人は是非チェックしてみて下さい。