Novartis による買収
2025年9月9日、Novartis が、ニューヨークを拠点とするクリーンステージのバイオ企業 Tourmaline Bio(TRML)を1株あたり48米ドルの現金で買収。fully diluted(完全希薄化)ベースで約14億ドルと評価されています。
買収の狙い
Tourmaline が開発中の抗IL-6モノクローナル抗体薬 pacibekitug(第III相試験の準備が完了)「TOUR006(ASCVD / 炎症性心血管リスク)」が持つ、アテローム性心血管疾患(ASCVD)に対する炎症リスク低減という新たな治療機会への期待が背景です。
両社の取締役会は全会一致で契約を承認。ノバルティスは全株取得のための 公開買付(テンダーオファー) を通じて取得し、買収後、Tourmaline はノバルティスの間接子会社として完全統合される予定 (2025年第4四半期にクロージング予定) です。
買収の背景と戦略的意義
ノバルティスにとって、心血管領域における治療パイプラインの強化は喫緊の課題です。現在の主軸である脂質低下療法に加え、炎症因子IL-6 を標的とする新規抗体療法という新領域を獲得することで、差別化された治療メカニズムと将来的な市場優位性が期待されます。
買収のタイミング
2025年5月20日に発表された「pacibekitug (TOUR006)」の Phase 2(PACIFIC試験)トップラインで主要評価項目を達成し、炎症マーカー(hsCRP など)の有意な低下を示しました。
この PoC(概念実証)データがポジティブだったことが契機となり、次の Phase 3 へ進む資金・開発力を求めるタイミングでノバルティスが買収を決断した、という流れです。
つまり、Phase 2 トップライン発表 → データが良好 → 直後に買収合意という順序です。
承認済み製品:なし(開発中)
主力候補:TOUR006(pacibekitug;完全ヒト抗IL-6抗体)— 炎症性心血管リスク(ASCVD)・甲状腺眼症(TED)で開発中。
補足:腹部大動脈瘤(AAA)でのPoCも予定。
対象:CKD合併かつ hsCRP高値のASCVD成人
投与:皮下投与(毎月 or 四半期)— 低頻度投与でIL-6シグナル抑制を狙う
対象:活動性TED成人
レジメン:20 mg または 50 mg 皮下 Q8W(プラセボ対照)
対象:炎症ドライバー関与が想定されるAAA
所見:PoCでIL-6経路抑制の臨床意義を探索
パイプライン | 対象 | 臨床フェーズ | 規制デザイン | 安全性(AESI) | 用法・用量 / 併用戦略 | 市場規模イメージ | ポイント(市場評価) |
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TOUR006(抗IL-6)— ASCVD | 炎症性心血管リスクの高いASCVD成人(CKD併存・hsCRP高値) | Phase 2(TRANQUILITY:トップライン陽性) | 無作為化・PBO対照。低頻度SC(毎月/Q3M相当)レジメンを検証。 Q4 2025:P3設計アップデート予定 |
感染症、肝酵素上昇、脂質上昇、好中球減少まれ | 皮下 Q4W または Q12W(用量反復)/標準治療との併用前提 | 特大:二次予防層中心に対象広い | アドヒアランス優位(低頻度投与)とアウトカム設計が鍵 |
TOUR006 — TED | 活動性甲状腺眼症 | Phase 2b(spiriTED) | 無作為化・二重盲検・PBO対照/主要は眼球突出改善 Early 2026:トップライン |
感染症、肝酵素・脂質、注射部位反応 | 20/50 mg SC Q8W。前治療歴に応じ層別化 | 大:眼科バイオの高単価領域 | 有効性+利便性(Q8W)で既存薬に対抗 |
TOUR006 — AAA | 腹部大動脈瘤 | Phase 2 計画(PoC) | 炎症抑制で進展抑止の概念実証。H2 2025開始予定 | クラス同様の感染症・肝/脂質管理 | SC 低頻度投与(詳細は試験開始時に開示) | 大:非手術管理の新規オプション | バイオマーカー連動のPoC成立が重要 |
- 一本化の集中戦略:同一抗体TOUR006でASCVD/TED/AAAを横断。ASCVD P2陽性→P3設計、TED P2b読出し(Early 2026)、AAA PoC開始(H2 2025)の時間差三段構え。
- 実装上の強み:皮下低頻度投与(Q8W〜Q12W)でアドヒアランス優位を狙う。
- 留意点:IL-6クラス特有の感染症・肝酵素・脂質モニタが前提。心血管アウトカムや眼科機能評価での臨床的意義が次相の成否を左右。
- 資金余力:現金等$256.4M、会社ガイダンスで2027年下期までランウェイ。
ASCVD 追加解析
TRANQUILITYの詳細解析・学会発表(ESC提示後の拡張データ)。
ASCVD P3設計アップデート / 試験完了見込み
当局協議や主要評価項目・規模の開示が焦点。
AAA Phase 2 PoC 開始
炎症指標と画像ベースの進行抑止を探索。
TED spiriTED P2b トップライン
有効性・安全性を踏まえピボタル設計へ。
ASCVDの詳細解析・P3計画開示、AAA P2 PoC始動。
TED P2b トップライン。
ASCVD P3開始・アウトカム設計の確定、TEDピボタル移行。