
Merck による買収のポイントの起点になったのが、2025年 ASH で Terns は、63例登録・38例評価可能の時点で、24週時点のoverall MMR 74%、そのうち新規達成MMR 64%、既存MMR維持 100%を示しました。
さらに、RP2Dレンジの320mg以上 QD では、overall MMR 80%、新規達成MMR 75%、DMR 36%でした。安全性も、DLT/MTDなし、Grade 3 AEは各項目10%未満、大半が低グレードとされ、会社はこれを “best-in-disease potential” と強く押し出しています。
しかも重要なのは、これがかなり難しい患者集団で出ている点です。会社の2026年ガイダンスでは、CARDINAL は predominantly 3L+で、38%が prior asciminib 既治療、そのうち75%が無効で前治療を中止した集団だと説明しています。
ASHデータでも、prior asciminib 群で overall MMR 60%が示されており、単に “軽い患者で良かった” という話ではありません。ここが買い手にとって魅力的だった可能性は高いです。
さらに、TERN-701 は「単なる初期資産」でもありません。2026年計画として、mid-2026にpivotal dose selectionとEOP2 FDA面談、2026後半に追加データ、late 2026 / early 2027に2L+ pivotal trial 開始が示され、Fast Track も取得済みです。
つまり、見た目は Phase 1/2 でも、実態としては pre-pivotal の入口にかなり近い資産です。大手がここで先回りして押さえるのは、珍しくありません。比較の参考として、同じ allosteric/STAMP 系の先行薬である asciminib は、ASCEMBL試験で24週MMR 25.5%でした。
もちろん、試験デザインも患者背景も違うので単純比較はできません。ただ、それでも Terns 自身が「他のCML薬の Phase 1 より少なくとも2倍高い水準」と表現したのは、誇張だけではなく、市場が “かなり強い” と受け取る余地のある数字だったと言えます。
私の見方では、今回の買収観測は「Phase 1/2なのに買われる」というより、「class-validated な BCR-ABL allosteric 領域で、難治CMLにかなり強い初期データを出し、しかも pivotal 前まで進んだ有望資産を Merck が早めに取りに行く」という構図です。
加えて、Terns は2025年12月に$747.5Mの公募を完了し、年末現金約$1.0B、2031年までのランウェイを示していました。資金難で売られる会社ではなかったので、仮に本当に買うなら、Merck 側の評価はかなり高いはずです。
要するに、直近データは “すこぶる良かった” 部類で、それが買収観測のかなり中心にある可能性が高いです。ただし同時に、Merck 側の戦略事情と、TERN-701 が見た目以上に pivotal に近い段階だったことも大きいです。
TERN はもともと NASH/MASH・肥満などの代謝疾患中心の会社で、2020年に TERN-701 を Hansoh へ中国圏向けにライセンス した時点では、まだ今のような「CML中心のオンコロジー会社」ではありませんでした。
ところがその後、代謝パイプラインが次々に後退し、逆に TERN-701 が会社の本命資産に昇格しました。最終的に Merck が約60億ドルで買収を発表し、TERN の物語はほぼ完全に oncology/CML へ書き換わっています。
もう少し分解すると、初期の TERN は「代謝疾患の会社」色が非常に強かったです。2022年ごろの開示では、TERN-101(FXR作動薬)、TERN-201(VAP-1阻害薬)、TERN-501(THR-β作動薬)、TERN-601(経口GLP-1)、さらに TERN-301 や TRN-000546 といった資産が並んでおり、会社自身も NASH/NAFLD/肥満まわりの開発を前面に出していました。
当時の資料では、TERN-701 は存在していたものの、あくまでその代謝ポートフォリオの横にあるオンコロジー資産の1つ、という位置づけでした。その意味で、2020年に TERN-701 を Hansoh へ“部分的に”アウトライセンスしたという表現はかなり正確です。
また、TERN は 2020年7月に、TERN-701 の oncology 領域における中国本土・台湾・香港・マカオでの独占権を Hansoh へ付与し、Hansoh が大中華圏での開発費を負担、一方で TERN は大中華圏以外の世界の権利を保持しました。
中国では TERN-701 は HS-10382 として開発されています。つまり、「全部を売った」のではなく、中国だけを切り出してライセンスし、残りの世界は自分で握った形です。ここが重要なのですが、当時この契約を結んでいたこと自体、TERN-701 が “脇役ではあっても、社内で価値のある資産と見られていた” ことの証拠でもあります。
まだ会社の主軸は代謝でしたが、TERN-701 は ABLミリストイルポケットを標的にする allosteric BCR-ABL inhibitor で、いわば後の Scemblix/asciminib 系の文脈に乗る資産でした。
TERN は後年の資料でも、TERN-701 について wild type や複数の耐性変異に対する活性 を強調しており、単なる余り物ではなく、ちゃんと将来の柱候補として育てていたことが分かります。
一方で、代謝側は順調に主役であり続けられませんでした。2022年の時点で、会社はすでに TERN-201、TERN-301、TRN-000546 について strategic / partnership options を探ると書いており、早くも全資産を自前で前進させる形ではなくなっていました。
さらに TERN-501 については、2024年以降の開示で MASHの規制・開発要件の重さを踏まえて投資を制限する 方針を明示。TERN-601 については、2025年10月の肥満 Phase 2 データで最大 placebo-adjusted 4.6% の体重減少 にとどまり、しかも 治療後フォローアップで可逆的な Grade 3 の肝酵素上昇も見られたため、会社は 継続投資を正当化できないとして開発を終了 しました。
つまり、TERN の変化は「代謝資産が1本ずつ消えた結果、TERN-701 が残った」というより、「代謝側が商業的・規制的に重くなる中で、TERN-701 が最も強く差別化して見えたため、会社全体がそこへ収束した」と見るのが正確です。
2026年1月の会社開示では、優先事項はほぼ TERN-701 一色で、2026年半ばの pivotal dose 選定、mid-2026 のEOP2規制協議、2026年後半のデータ更新、late 2026/early 2027 の2L+ pivotal trial 開始 が並んでいます。さらに FDA Fast Track designation もQ4 2025に付与されています。
では、なぜ TERN-701 がここまで会社を変えたのか。一番大きいのは、CMLでの初期データの見え方です。2025年12月のASH関連開示では、CARDINAL試験で63例登録、38例の有効性評価可能患者において24週までの累積MMR率74%と説明されており、前治療で効かなかった患者群や asciminib 既治療群でも反応が示されています。
もちろんこれはまだ初期・単群の Phase 1 データなので過度な断定はできませんが、会社が “best-in-disease potential” を前面に出し始めた背景はここです。そして、Hansoh との関係も最近さらに意味を持っています。
2026年1月、TERN は Hansohとの2020年契約を修正し、Hansohが開発活動の中で生み出した一定の特許について、Hansoh territory以外での独占的・サブライセンス可能な恒久ライセンスをTERN側が取得 しました。対価として、TERNは 100万ドルの一時金 と、該当特許が有効な国での販売に対し 0.75%〜1.25%の段階的ロイヤルティ を支払う形です。これは地味に重要で、TERN-701の ex-China 権利・知財の整理をより買いやすい形にしたと解釈できます。
TERN は “最初の数本は代謝疾患会社として走っていたが、早い段階で中国だけ外部化していたオンコロジー資産TERN-701が、最終的に会社全体を乗っ取った”会社 です。これはかなり珍しいですが、バイオでは時々ある「本流が外れて、横にあった資産が本体になる」典型例でもあります。しかも今回は、その本体化した資産がCMLでの差別化期待を生み、直近では Merck による買収となりました。
投資家目線で一番大事なのは、TERN を “元肥満会社” として見るより、“今はほぼ TERN-701 の会社”として見るべきという点です。過去の代謝パイプラインの経緯は、「経営の迷走」というより 資本市場と規制難易度を見ながら、勝ち筋のある資産へ集中した結果 と理解したほうが実態に近いです。
承認済み製品:なし(開発中)
主力候補:TERN-701(経口アロステリック BCR-ABL 阻害薬)— 慢性骨髄性白血病(CML)を対象。
現状:Terns は現在、実質的に TERN-701 中心の oncology company。TERN-601 は Phase 2 後に非継続、旧メタボ資産は TERN-501 / TERN-801 を中心に外部提携を模索中。
対象:既治療の慢性期慢性骨髄性白血病(CP-CML)
作用:BCR-ABL のミリストイルポケットを標的とする高選択的・経口アロステリック阻害
対象:過体重 / 肥満(非糖尿病)
作用:1日1回経口 GLP-1 受容体作動薬
TERN-501:THR-β agonist
TERN-801:GIPR antagonist development candidate
位置付け:TERN-701 に続く将来の腫瘍領域パイプライン
| パイプライン | 対象 | 臨床フェーズ | 規制デザイン | 安全性(AESI) | 用法・用量 / 併用戦略 | 市場規模イメージ | ポイント(市場評価) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| TERN-701(BCR-ABL アロステリック) | 慢性骨髄性白血病(CML) | Phase 1/2 |
CARDINAL 進行中。 mid-2026 に pivotal dose 選定 / EOP2、 late 2026 / early 2027 に 2L+ pivotal trial 開始予定 |
Grade 3以上 TEAE は各項目 10%未満。主に好中球減少 / 血小板減少 各8% | 経口単剤 QD。将来の pivotal は 2nd gen TKI 対照、主要評価項目は 6か月 MMR 想定 | 中:希少血液がん |
2025年12月データで 24週 MMR 75%(>320mg QD)。 ODD / Fast Track を取得 |
| TERN-601(経口 GLP-1 受容体作動薬) | 肥満 | 非継続 | Phase 2 FALCON topline 後、以後の開発を進めない方針 | GI関連 AE、中止率 11.9%、可逆的 Grade 3 肝酵素上昇 3例 | 1日1回経口。継続開発なし | 大:肥満症市場 | 12週 efficacy は一定のシグナルも、差別化基準に届かず終了判断 |
| TERN-501 / TERN-801 | 代謝 / 肥満 / MASH 周辺 | 戦略提携 | 自社での後期開発は行わず、提携・外部化を模索 | — | 将来的な併用・外部開発余地 | 中〜大 | 現在は 非コア資産。資本配分は 701 優先 |
- 事業の軸は完全に TERN-701 へ移行:2026年の見どころは 701 の pivotal 移行準備。
- TERN-601 は非継続:以前の「701 / 601 の二本柱」ではなくなった。
- 財務は大幅改善:2025年12月の大型公募後、現金等は約 $1.0B、ランウェイは 2031年見込み。
- 旧メタボ資産は外部化方針:TERN-501 / TERN-801 は提携先探しが中心。
TERN-701 dose escalation 完了
500mg QD まで DLT なし、MTD 未到達。
TERN-701 dose expansion 開始
320mg / 500mg QD の 2群で拡大コホートへ移行。
TERN-601 Phase 2 topline
体重減少シグナルは確認も、差別化不足と安全性シグナルから非継続判断。
ASH 2025 で TERN-701 データ更新 / 大型増資完了
24週 MMR / DMR データを更新。公募で約 $747.5M を調達。
pivotal dose 選定 / EOP2 FDA interaction
後期試験の設計を固める重要局面。
TERN-701 updated / expanded CARDINAL data
より大きな症例集積で efficacy / safety を再確認。
2L+ pivotal trial 開始予定
対照群を含む registrational/pivotal 段階へ進行予定。
TERN-701 pivotal dose 選定、EOP2 FDA 面談
CARDINAL 追加・拡大データ
2L+ pivotal trial 開始
TERN-501 / TERN-801 の提携・ライセンス動向
