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【SRZN】Surrozen カタリストとパイプライン

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【SRZN】Surrozen カタリストとパイプライン

前臨床でもファンドの保有率が高い理由

SRZN はまだ前臨床だけど、“中身を全部見た上で本気で張っている専門ファンドの塊” だから保有率が高いという雑感です。

なぜファンド比率が高いのか?

① 巨額の私募で“箱ごと”押さえに来ている

2025年3月に175Mドルのオーバーサブスクリプト私募(PIPE)をやっており、リードが Venrock HC、同席しているのが The Column Group, Access Biotech, RA, Vivo, Spruce Street, 5AM, Samsara, StemPoint, Braidwell… というガチのバイオ専業シンジケートです。このラウンドは、

・2トランシェ構成(初回約70Mドル+IND通過後に約105Mドル)
・価格は $11.60 の「AT-the-market」扱い
・単位あたり「株+ワラント」のセット

という形で、この1回のディールだけで相当な株数をこれらファンドが握る構造になっています。さらに Simply Wall St などの集計だと

・機関投資家:約30%強
・プライベートエクイティ/VC:約30%強

という形で、「元々のVC+新規のPIPE投資家」でかなりの株がロックされている状況です。つまり “パイプラインが前臨床だからファンドが少ない” という一般論よりも、「そもそも最初からファンド主体で資本構成を組んでいる会社」なので、結果としてファンド保有比率が高く見えている、というのが1つ目の理由です。

前臨床なのに、なぜそこまでファンドが張るのか?

② Wnt/Norrin×抗VEGF(+IL-6)という「目」にフィットした新機序

Surrozen がいま全力投球しているのは、

・SZN-8141:Fzd4アゴニスト(Norrinミメティック)+抗VEGF の二重特異性
・SZN-8143:Fzd4アゴニスト+抗VEGF+抗IL-6 の三重特異性

という網膜血管疾患向けのマルチ特異抗体です。

ポイントは:
・Wnt/Norrin-Fzd4 シグナルは「正常血管の維持・修復」に重要
・既存の抗VEGFは「漏れを止める・新生血管を抑える」けど、「壊れたネットワークを再構築する」わけではない
・8141/8143 は「Wntで修復しつつ、VEGF/IL-6で抑える」という“修復+抑制の同時制御”コンセプト

前臨床データでは、
・OIRやCNVモデルで 新生血管と血管漏出を有意に減らしつつ、正常血管再生を促す
・単剤(Norrin模倣 or 抗VEGF)よりも強い効果
といった結果が出ていて、「今の抗VEGF単剤では届かない領域を取りにいける」という絵が立っています。

加えて「眼内投与」で局所に閉じ込められるため、全身性Wntアゴニストよりも安全性リスクをマネージしやすいというのも、ファンド目線だと大きいです。

③ Boehringer Ingelheim との大型提携という“外部バリデーション”

・SZN-413(Fzd4 Wntアゴニスト)は Boehringer Ingelheim (ベーリンガーインゲルハイム) にグローバルライセンス済み
・Upfront 12.5Mドル、最大で587Mドルの開発・承認・売上マイルストン+ロイヤルティ(mid single〜low double digit)という条件。
・2024年には共同研究ステージ通過に伴う 10Mドルのマイルストンも受領。

これは「Big Pharma が、同じWnt/Retinaコンセプトに対して600M規模までコミットしている」ことの証拠なので、“このモダリティが完全に机上の空論というわけではない” と専門ファンドは見ているはずです。

8141/8143 は自社完全保有ですが、413でBIが先にトラックを切り開いてくれるので、クラスとしての安全性・用量・エンドポイントのノウハウが貯まるBIの成功がそのまま Surrozen のバリュエーションのフロアになるという外部デリスク要因にもなっています。

④ 網膜疾患という「巨大で、なお未充足な市場」

私募のリリースで会社自身も強調している通り、Surrozen のターゲットは:

・wet / dry AMD
・糖尿病網膜症 / DME
・網膜静脈閉塞
・非感染性ぶどう膜炎、稀少網膜疾患(RP, Stargardt, FEVR など)

ここは

・既に抗VEGFだけで数十億ドル規模の市場
・それでも「non-responder」「durability不足」の患者が大量にいる
・高齢化で患者数は増え続ける上に、1人あたりの治療期間も長い、非常に“ストッキー”な市場

という、バイオ専業ファンドが大好きな「巨大で、しかも未充足がはっきりしている領域」です。

8141/8143 がもし

・投与間隔延長(q8w → q12w, q16w)
・視力維持率の向上
・抗VEGF不応例でのレスポンス改善

などを示せれば、売上ポテンシャルは一気に数十億ドルスケールまで跳ねる可能性があります。そのため、今は前臨床でも「成功時のEV」がとんでもなく大きいというのが、ファンドが早期から押さえに来ている理由の一つだと思います。

⑤ 「資金+フォーカス」でストーリーを整理しきっている

同じリリースで、

・肝・IBDプログラム(SZN-043, SZN-1326)は 開発中止/縮小
・175Mドルの私募で、眼科プログラムのP1安全性・忍容性・初期有効性までの資金を一気に確保

と明言しています。つまり、ファンド目線では

・「肝/IBDで一度こけた会社」ではなく
・「眼科にフルピボットして、Wnt×Retinaに集中+キャッシュも確保した “新生SRZN”」

として見直しているはずです。この手の “ピボット+大型リキャップ” は

・一般個人投資家はついていきにくい
・一方で、ディールに参加したファンドが大きな塊で株を持つ

という構造になりやすく、その結果としてファンド保有率が高く見える、という側面も強いと思います。

ハイライト

2025年11月7日:2025年Q3決算&事業アップデートを発表。眼科パイプライン(SZN-8141 / SZN-8143)に引き続きフォーカスし、SZN-8141 IND を2026年に提出予定と再確認。現金残高は$81.3M(2025年9月30日時点)。新CFOとしてAndrew Maleki氏が就任し、COOと役割を分担。

2025年8月8日:2025年Q2決算を公表。眼科パイプラインの進捗に加え、SWAP™技術に関する米国特許(US 12,297,278)の付与を報告。網膜専門医によるClinical Advisory Boardを設立し、ARVO/CTS で SZN-8141 / SZN-8143 の前臨床データを発表。

2025年5月9日:2025年Q1決算で、眼科へのフルピボットとSZN-8141のINDを2026年に提出予定とする方針を再度明示。2025年3月の私募調達後、現金は$101.6Mに増加。

2025年3月24日:選択的Wntミメティックによる重症眼疾患治療に集中するため、$175Mのオーバーサブスクライブ私募を発表。
・第1トランシェ:2025年3月クローズで$70M受領
・第2トランシェ:SZN-8141 INDのFDA受理(2026年見込み)を条件に最大$105Mを追加で調達可能とする構造。

2024年9月24日:提携先Boehringer Ingelheimが SZN-413 を臨床入り準備の次フェーズへ進めたことを受け、Surrozen は$10Mマイルストンを受領。SZN-413 は Fzd4介在Wntシグナルを標的とする二重特異性抗体で、BI が網膜疾患向けに開発を主導。

承認済み製品 / 現状

承認済み製品:なし(開発中)

主力候補:SZN-8141(Fzd4アゴニスト[Norrinミメティック]+抗VEGFの二重特異性)— 主にDME / wAMDなどの網膜血管疾患を対象。

補足:SZN-8143(Fzd4+抗VEGF+抗IL-6の三重特異性)、SZN-413(Fzd4介在Wntアゴニスト;Boehringer Ingelheimにライセンス)。肝/IBDパイプライン(SZN-043, SZN-1326)は2025年にかけて終了・縮小し、眼科に完全ピボット済み。

主要臨床成績
2025年Q4
眼科領域の前臨床・トランスレーショナルアップデート(Eyecelerator / OIS等での発表)

2026年Q2
SZN-8141 IND 提出目標(会社ガイダンス:2026年中の提出)

2026年Q3–Q4
SZN-8141 Phase 1 開始目安(IND受理後の安全性・PK/Pd評価)

2025年Q3
現金残高$81.3M(2025年9月30日時点)— 第2トランシェ(最大$105M)は SZN-8141 IND受理に連動

臨床試験パイプライン
前臨床 → IND 準備
SZN-8141(DME / wAMD ほか)

対象:糖尿病黄斑浮腫(DME)、加齢黄斑変性(滲出型:wAMD)、網膜静脈閉塞に伴う黄斑浮腫などの網膜血管疾患

作用:Fzd4アゴニスト(Norrinミメティック)+抗VEGFの二重特異性で、正常血管の再生促進+病的新生血管/漏出抑制を両立

進捗:前臨床モデルで Wntシグナル刺激により正常網膜血管再生+病的血管抑制を確認。GLP毒性・CMC など IND支援試験を進行し、IND は2026年中(社内目安:2026年Q2)提出予定。
安全性/PD:硝子体内投与前提で眼内炎症、眼圧上昇(IOP)、網膜/脈絡膜の構造変化などを重点評価中。
次読出し:2025年Q4の学会・IRでの追加前臨床データ/開発計画アップデート。

前臨床
SZN-8143(トライスペシフィック)

対象:DME / wAMD / ぶどう膜炎性黄斑浮腫(UME)など炎症性コンポーネントを伴う網膜疾患

作用:Fzd4アゴニスト+抗VEGF+抗IL-6 の三重特異性で、修復・抗血管新生・抗炎症を同時制御

進捗:前臨床モデルで SZN-8141 同様、正常血管再生と病的新生血管抑制を示しつつ、IL-6 blockade による炎症抑制も確認。投与間隔や用量レンジの最適化、製剤・安定性評価を継続。
フォーカス:IL-6 阻害による追加ベネフィット(UME・炎症性合併症)の翻訳、画像/機能指標との関連付け。
次読出し:2025年Q4 前臨床アップデート(学会・IRでの発表を想定)。

前臨床(BI主導)
SZN-413(Boehringer Ingelheim)

対象:網膜血管関連疾患(DME / wAMD / 網膜静脈閉塞など)

作用:Fzd4介在Wntアゴニスト(二重特異性抗体;SWAP™技術を利用)

進捗:2024年に$10Mマイルストン達成。Boehringer側で臨床入りを見据えた前臨床開発・製造スケールアップを継続。
位置付け:外部パートナー主導で臨床移行をデリスクしつつ、成功時はマイルストン+売上ロイヤルティを享受。
次動向:BI 側での臨床試験開始タイミングと、追加マイルストンの発生有無。

パートナー主導で臨床移行を検討

パイプライン早見表
パイプライン 対象 臨床フェーズ 規制デザイン 安全性(AESI) 用法・用量 / 併用戦略 市場規模イメージ ポイント(市場評価)
SZN-8141(Fzd4アゴニスト+抗VEGF) DME / wAMD など網膜血管疾患 前臨床(IND:2026年Q2目標) GLP毒性・安全性薬理・CMC による IND 支援 → P1(安全性・PK・探索的有効性) 眼内炎症、IOP、網膜/脈絡膜の構造変化(OCT/FA)を重点監視 硝子体内投与。将来的には抗VEGF標準治療との併用や投与間隔延長を視野に入れた設計。 特大:DME / wAMD を中心とする網膜疾患市場 修復+抑制の同時制御による差別化ポテンシャル。
直近は2025年Q4の前臨床/トランスレーショナルアップデートが注目。
SZN-8143(Fzd4+抗VEGF+抗IL-6) DME / wAMD / UME 前臨床 IND支援研究(毒性・免疫原性・翻訳指標)を整備中 眼内炎症、免疫関連事象、IOP 変動を中心にリスクプロファイルを評価 硝子体内投与。抗VEGF単剤に対する機能的上乗せ(炎症コントロール/視機能の質)を狙う。 特大:炎症合併の網膜疾患層(UME 含む) トライスペシフィックという新規性と、DME/wAMDにおける多面的アプローチが評価ポイント。
SZN-413(BIにライセンス) 網膜血管関連疾患 前臨床(BI主導) パートナー主導で臨床移行判断。マイルストンとロイヤルティに連動。 眼内炎症/漏出、視力・視野など視機能への影響を追跡 硝子体内投与。既存抗VEGFとのポジショニング(初期治療 vs リフラクトリー)が論点。 特大:グローバル眼科市場(提携により商業化ポテンシャルはBI依存) Surrozen にとっては非希薄化資金源かつ技術バリデーション。追加マイルストン・ロイヤルティのアップサイド。
SZN-043(肝:RSPOミメティック) 重症アルコール性肝炎 Phase 1b 終了(中止 単群早期試験で有効性シグナルが不十分と判断し開発中止。 肝関連AESI(肝酵素、胆汁うっ滞等)を精査済み。 中:肝領域 2025年Q1の戦略見直しで終了決定。眼科パイプラインへの資源集中に転換。
SZN-1326(Wntアゴニスト) 潰瘍性大腸炎 Phase 1(中断 健常人で肝酵素上昇などの安全性懸念が生じ、IBD プログラムは縮小。 肝安全性を含むクラスリスクを認識し、眼科以外のWnt活性化は慎重姿勢。 中:消化管領域 IBDは縮小し、 ophthalmologyに集中することで企業ストーリーが明確化。

ポイント
  • 眼科へフルピボット:肝・IBDプログラム(SZN-043 / SZN-1326)を整理し、SZN-8141 / 8143 を中核とする網膜疾患ポートフォリオに経営資源を集中。
  • SWAP™特許と多特異性技術:2025年5月に SWAP™技術の米国特許を取得し、Fzd4×VEGF(±IL-6)の多特異性抗体群を広く保護。眼科領域でのライフサイクル戦略に有利。
  • 資金構造:2025年3月の$175M私募は2トランシェ構造($70M+最大$105M)で、第2トランシェはSZN-8141 INDのFDA受理が条件。2025年Q3時点の現金は$81.3Mで、IND提出〜初期P1 までの資金は確保しつつも、その後は追加資金調達が前提。
  • BI提携による非希薄化アップサイド:SZN-413 については、最大$586.5Mの開発・承認・商業マイルストン+売上に対する中〜低2桁ロイヤルティのポテンシャルがあり、成功時は大きなレバレッジとなる。

ファンドのポジション

主要ホルダーには、眼科・再生医療テーマを好むテック/ヘルスケアファンドや、パイプラインピボット後の私募に参加した専門バイオファンドが含まれる可能性が高い一方、現時点ではトランシェ負債・ワラント等の資本構造が複雑で、バリュエーションは非希薄化資金(BIマイルストン・第2トランシェ)をどこまで織り込むかで見方が分かれる局面と考えられます。

開発ロードマップ
完了:2025年Q1

肝/IBDプログラムの終了・縮小と資金調達

SZN-043 / SZN-1326 を含む肝・IBDプログラムを終了・縮小し、眼科へ集中。$175Mのプライベートプレースメント第1トランシェ($70M)をクローズ。

完了:2025年Q2

知財強化・組織整備・前臨床データ発表

SWAP™技術の米国特許を取得し、SZN-8141 / 8143 のIPを強化。眼科 Clinical Advisory Board を設置し、ARVO/CTS で両候補の前臨床データを発表。期末現金は$90.4M

完了:2025年Q3

経営体制の強化と Ophthalmology への集中継続

新CFOとしてAndrew Maleki氏が就任し、COO と役割を分担。Wntベース眼科パイプラインにフォーカスした事業戦略を再確認。現金は$81.3M、トランシェ負債・ワラント評価の変動により損失計上。

2025年Q4

眼科プログラムの前臨床アップデート&学会発表

Eyecelerator(AAO)および OIS などで Next Generation Wnt Therapeutics in Retinal Diseases をテーマに講演。8141/8143 の薬効・送達/製剤・トランスレーショナルデータをアップデート。

2026年Q2

SZN-8141 IND 提出

GLP毒性・CMC を完了し、SZN-8141 の IND を FDA に提出予定。IND受理により第2トランシェ(最大$105M)行使の条件が満たされる可能性。

2026年Q3–Q4

SZN-8141 Phase 1 開始

健常人/患者を対象に安全性・PK・初期PD/有効性を評価するP1を開始予定。結果に基づき、DME / wAMD など適応別のP2設計を策定。

注目すべきカタリスト
短期(〜2025年Q4)
Eyecelerator / OIS などでの8141/8143の追加前臨床データと開発計画アップデート、BI主導 SZN-413 の進捗コメント、SWAP™関連の追加知財取得。

中期(2026年)
SZN-8141 の IND 提出と FDA 受理(→ 第2トランシェ最大$105Mの行使可否)、BI主導 SZN-413 の臨床入り判断。

長期(2026年〜)
SZN-8141 P1 データ読み出しとP2/P3方針、SZN-8143の IND 判断、SZN-413 からの追加マイルストン・ロイヤルティ、眼科領域での新規候補追加。