
iBio はかつては植物由来のワクチンプラットフォーム(COVID関連など)を展開していましたが、事業再編を経て、2023〜2024年頃からAI × 抗体工学を基盤にした創薬会社に舵を切りました。その中で特に注力しているのが肥満・心代謝疾患領域です
現在の主力プログラム(肥満・心代謝)全てが前臨床段階です。
・IBIO-600(抗 Myostatin)
長時間作用型(年2〜4回投与も視野)。筋肉量維持・増加による「質の高い減量」を狙う。2026年Q1 IND申請予定。
・IBIO-610(抗 Activin E)
GLP-1後のリバウンド抑制。マウスで脂肪−26%、GLP-1併用で−77%の相乗効果。2025年Q4初頭にNHPデータ読み出し。
・Amylin 受容体アゴニスト抗体(AstralBio 共同)
食欲抑制メカニズム。in vivoで摂食−60%。GLP-1を補完。
いずれも「GLP-1単独では解決できない課題」(筋量低下、リバウンド、忍容性・持続性)を補うコンセプトです。つまり現在の iBio は 肥満治療薬企業として再定義されつつあります。
GLP-1 市場の巨大な成長を追い風に、「質の高い減量」を目指す補完的抗体薬を開発中です。
Oppenheimer の評価
オッペンハイマーは、iBio に対して「アウトパフォーム」の同社の目標株価を5ドルから6ドルに引き上げ、株式に対するアウトパフォーム評価を維持。成長する肥満市場の主要な課題に対処する主力資産「IBIO-610」に対する楽観的な見方を理由に挙げました。
前臨床データは、脂肪減少と除脂肪量の維持の両方を促進する「IBIO-610」の可能性を裏付けており、非常に差別化された補完的なプロファイルを支持するとアナリストは述べ、この薬を “注目されていない” 次世代のアプローチとして見ており、戦略的な関心を集める可能性があると考えています。
Wave Life Sciences(WVE)の「WVE-007」からの更新を受けて「IBIO-610」に注目すべきだと指摘しています。「よく当たった」ものです。Waveの今四半期の第1相INLIGHT有効性および安全性データは、iBio の「IBIO-610」のメカニズム的検証を提供し、追加の上昇余地を生む可能性があるとアナリストは投資家に伝えています。
承認済み製品:なし(開発中)
主力候補:IBIO-600(抗 Myostatin;長時間作用)— 肥満/心代謝で筋量維持と体重管理を狙う。
補足:IBIO-610(抗 Activin E)、Amylin 受容体アゴニスト抗体(AstralBio 共同)を前臨床で推進中。免疫腫瘍(IBIO-101 ほか)も継続。
推定ヒト 57–130日
対象/狙い:肥満・心代謝;筋量維持/増加+体重管理
作用:抗 Myostatin(長時間作用;年2–4回投与も視野)
対象/狙い:GLP-1 後の体重リバウンド抑制+筋量維持
所見:マウスで脂肪 −26%(筋量保持)、GLP-1 併用で −77% の相乗
対象/狙い:食欲/摂食制御(GLP-1 を補完)
所見:肥満マウスで摂食 −60%(DACRA ペプチド −67%と同等)
| パイプライン | 対象 | 臨床フェーズ | 規制デザイン | 安全性(AESI) | 用法・用量 / 併用戦略 | 市場規模イメージ | ポイント |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| IBIO-600(抗 Myostatin) | 肥満/心代謝(筋量維持・体重管理) | IND-enabling(NHP 含む前臨床) | 前臨床→IND準備段階(当局相談を前提に初回F/IH設計へ) | 筋骨格系(筋痛・CK上昇)、注射部位反応、代謝・肝酵素変動のモニタ | 長半減期(NHP40–52日)を活かし年2–4回投与も視野。 GLP-1との併用で「質の高い減量(筋量維持)」を志向 |
特大:肥満治療市場(GLP-1 補完) | 長間隔投与と筋量維持で差別化余地。 サルコペニア/サルコペニック肥満の二次価値も示唆。 |
| IBIO-610(抗 Activin E) | 体重リバウンド抑制+筋量保持 | Preclinical(NHP 試験進行中) | 前臨床→IND準備(NHP初期readoutを根拠にF/IH設計) | 注射部位反応、代謝・肝酵素、ホルモン軸関連指標のモニタ | GLP-1との併用で相乗(マウス:脂肪−26%、併用−77%)。 Q4 2025初頭にNHP初期readout予定 |
特大:GLP-1 後維持ニーズ | 「減量後の維持」ポジション取りが焦点。 併用前提の費用対効果が普及の鍵。 |
| Amylin 受容体アゴニスト抗体 | 摂食抑制(食欲調節) | Preclinical | 候補選定→前臨床GLP/毒性→IND準備 | 悪心・食思不振などGI系、低血糖(糖尿病治療薬併用時)に留意 | 長寿命化抗体で低頻度投与を想定。 GLP-1等と機序補完併用で摂食抑制を強化 |
大:補完的メカニズム | in vivoで摂食−60%。 候補選定フェーズで、利便性と併用最適化が価値ドライバー。 |
iBio の「IBIO-610」も Wave の「WVE-007」も、同じ “肝ホルモン” Activin E(遺伝子名:INHBE)を標的にして肥満治療を狙っています。ただしアプローチも成熟度も違うのがポイントです。
| 項目 | IBIO-610(iBio) | WVE-007(Wave Life Sciences) |
|---|---|---|
| モダリティ / 作用標的 | モノクローナル抗体(中和抗体) / Activin E(INHBE産物)を中和 | 核酸医薬(GalNAc送達のRNAi/ASO系) / INHBE遺伝子の発現抑制(Activin E低下) |
| 開発フェーズ | 前臨床(肥満モデル〜NHPデータ) | Phase 1(INLIGHT 試験:健常者/代謝関連被験者で安全性・PDを評価) |
| 狙う臨床効果 | 脂肪量の選択的減少と除脂肪量の維持(“fat-selective weight loss”) | 体重減少(エネルギー代謝・脂質代謝の改善を伴うActivin E低下による効果) |
| 既報の主なデータ | NHPで脂肪減少+除脂肪量維持の傾向を報告(会社発表)。 | 初期ヒトで用量依存的なINHBE低下と安全性プロファイルを提示(四半期IR/学会)。 |
| 投与経路 / 頻度の想定 | 静注または皮下注の抗体製剤(頻度は未確定、抗体一般は隔週〜月1想定) | 皮下注の低分子核酸(GalNAc送達)で月1〜数カ月おき投与の設計が一般的 |
| 差別化ポイント | 筋量維持を前面に出した“補完的”肥満治療の位置付け(GLP-1系との併用余地) | 標的そのもの(INHBE)を上流で抑制できるため、クラス内での用量/投与間隔の最適化が図りやすい |
| 主要リスク | 前臨床→ヒトへの翻訳ギャップ、長期安全性(筋骨格・生殖/内分泌系) | ヒトでの長期有効性と安全性、クラス特有の肝/代謝指標のモニタリング |
| 次のカタリスト | 前臨床の追加データ公開、IND提出/FIH開始の計画開示 | INLIGHT拡張の詳細、用量拡大/患者コホートや初期有効性のアップデート |
| 併用戦略 | GLP-1/GIP などのインクレチン系との“補助”併用を想定 | 将来的にインクレチン系との併用検討の可能性(会社は肥満治療で差別化を示唆) |
標的と作用機序
・「IBIO-610」
Activin E そのものを中和する抗体薬。iBio は 10/30 のPRで「Activin E 抗体」と明記し、脂肪選択的な減量と体重維持を示唆する非ヒト霊長類(NHP)データを発表。つまりたんぱく質(リガンド)を外側からブロックする設計です。 ([iBio Inc.][1])
・「WVE-007」
肝臓で INHBE mRNA を叩く GalNAc標的化siRNA。体内で Activin E の産生量自体を減らす “遺伝子サイレンシング” のやり方。
開発段階
・「IBIO-610」
前臨床(NHPまで)。臨床入り前。 ([iBio Inc.][1])
・「WVE-007」
臨床第1相(INLIGHT)でPOC段階に到達。INHBE の強力かつ持続的なノックダウン、体重減少と除脂肪量(筋量)の維持、GLP-1 併用で上乗せといった人での初期有効性・機序シグナルが示されました。
投与形態・投与頻度の含意
・「IBIO-610」
抗体(IBIO-610)は皮下/点滴で月1回程度の可能性があり(一般論)、長い半減期を活かした体重維持用プロファイルを狙いやすい。
・「WVE-007」
siRNA(WVE-007)も GalNAc皮下で数週〜数か月間隔の投与設計が可能で、肝臓での持続的な産生抑制が武器。実データでも**長期持続性**が示唆。
単剤か併用か
・「IBIO-610」
NHP段階では**“脂肪選択的”減量+維持**の概念が強調。ヒトでは GLP-1 などと互換性のある補完療法として位置づけやすい(会社は肥満“補完”の文脈を強調)。
・「WVE-007」
単剤でも効果シグナルに加え、GLP-1 併用で上乗せが人で示唆済み。筋量を落とさず脂肪を減らすという “質の良い減量” の仮説を支える内容。
なぜアナリストは「WVE-007」が「IBIO-610」の検証になる、と言うのか?
同じ INHBE/Activin E 軸を人で叩いたら減量+除脂肪量温存が観察された――これは同一パスウェイを別モダリティ(抗体)で狙う「IBIO-610」の機序妥当性(MoA)を後押しします。
つまり “標的が正しい” ことの外部検証を Wave が先にヒトで示してくれた形。iBio の10/30 PR も Activin E抗体であることを明記しており、ターゲット整合が取れています。
IBIO には Activin E だけでなく、Myostatin と Activin A を同時に抑える bispecific 抗体プログラムがあります。
これが Sotatercept (メルクの WINREVAIR) が効いているメカニズム(Myostatin/Activin A系のブレーキ解除)を “よりピンポイントな形” で実現できるかもしれません。
Sotatercept は “広い意味でその辺一帯をまとめて捕まえる罠(ligand trap)” 一方で IBIO の薬は「本当に効きに効いている2つのリガンドだけ(Myostatin/Activin A)を狙い撃ちする精密二重抗体」だから効き目を保ちつつ、副作用を減らせる/用量を攻めやすい可能性がある、というロジックです。
Bimagrumab × GLP-1 stack という金鉱のイメージ (ノバルティス→Versanis→Lilly) において、Bimagrumab(ActR2B inhibitor)は単剤でかなりの体重減少データを出しています。
いま肥満治療の世界は 「GLP-1 をベースに、他メカニズムを重ねて(stackして)更なる減量 or 筋肉保護を狙う」という流れなので、もし IBIO の Myostatin/Activin A bispecific が、筋肉増+体脂肪減のような良いプロフィールを見せて、
それが GLP-1(Wegovy, Zepbound など)との併用でも安全に使えるとなれば、
→ 「GLP-1+筋肉保護コンボ」として巨大な肥満市場の add-on として大きな売上を狙えるという期待があります。
Activin 系の安全性リスク
Myostatin/Activin A/ActR2B を強く抑えると、筋肉が増えたり脂肪が減ったりという良い話の一方で、血栓・高Hb・血圧・骨格筋や心筋への影響など、クラスとしての懸念も出てきます(Sotaterceptでも議論あり)。
二重特異抗体のように ターゲットを絞ると副作用が減る 可能性はありますが、これはあくまで仮説で、臨床で実際にどう出るかはやってみないとわからない。
GLP-1 との併用は「夢」は大きいが設計が難しい
GLP-1 自体も、悪心・嘔吐・筋量減少・心拍上昇 などの課題あり。そこに Myostatin/Activin A ブロックを足すと体組成や代謝に対してかなり強烈な介入になるので、長期安全性(特に心血管・骨・腎)を慎重に見ないといけません。つまり規制ハードルも高いことは無視できません。
2025年は肥満/心代謝への本格ピボット元年。
・資金面:2025/8/25 に $50M 公募をクローズ(追加ワラント現金行使で最大 +$50M 余地)— 前臨床〜IND 工程の推進力に。
・差別化:GLP-1 では課題となる筋量低下・体重リバウンドを、Myostatin/Activin E/Amylin の“三本柱”で補完。
・リスク:全て前臨床段階のため、NHP→IND までの毒性・CMC・翻訳性が主要リスク。2025年Q4初頭の Activin E NHP 初期データと、2026年Q1 の IBIO-600 IND が鍵。
AstralBio から Activin E 導入 / NHP 開始
4/22 独占導入を発表、6/16 に NHP 試験を開始。
IBIO-610(Activin E)NHP 初期 readout
半減期・体組成変化の手掛かりを取得し、IND 前提の設計・スケールアップを検討。
Amylin 抗体:追加 in vivo・候補選定
反復/長期投与・忍容性・持続性の検証と候補指名。
IBIO-600 IND 申請
受理後、SAD/MAD で安全性・PK・筋/脂肪バイオマーカーを探索。
初期 PoC → 提携/拡張
初期臨床シグナル次第でパートナーリング、適応拡大・併用戦略を加速。
IBIO-610 NHP 初期 readout、Amylin 抗体の追加 in vivo データ、資金計画アップデート
IBIO-600 IND 受理 → 初期臨床開始(SAD/MAD)、GLP 毒性/CMC 進捗
初期 PoC シグナル、提携・共同開発、適応拡大(心不全合併等)
