
2026年3月6日、フランスの製薬大手 Servier が Day One Biopharmaceuticals の買収を発表しました。このニュースを受けて、アトラス・ベンチャーのブルース・ブース氏が、Day One Biopharmaceuticals の主力「tovorafenib」の起源についての物語を共有してくれていますのでご紹介します。
With the approval of tovorafenib by $DAWN, it’s worth celebrating the long journey of R&D in our business. Others have written on this better (@JacobPlieth @SFBIZronleuty), but here’s the short story:
The molecule was discovered in a collaboration between Sunesis & Biogen that… pic.twitter.com/Xj039gLcqR
— Bruce Booth (@LifeSciVC) April 26, 2024
Day One Biopharmaceuticals の主力薬 tovorafenib(商品名:OJEMDA) が承認を受けたことで、改めて創薬の世界における「長い研究開発の旅」に注目が集まっています。
この薬の歩みは、1社だけの成功物語ではありません。20年にわたって複数の企業、研究者、投資家が関わりながら、ようやく患者のもとへ届いた、まさに創薬エコシステム全体の成果といえるストーリーです。
「tovorafenib」の起源
「tovorafenib」の起源は、今から約20年前に始まった Sunesis Pharmaceuticals と Biogen の共同研究にさかのぼります。
両社は当時、がん領域における新しい分子の探索を進めていましたが、その後 Biogen はCEOジョージ・スキャンゴスのもとで オンコロジー分野の優先順位を下げ、2010年にはRAF関連の開発から撤退しました。
これにより、「tovorafenib」に関する権利は Sunesis へ戻されることになります。興味深いのは、この共同研究から生まれた重要な特許が Sunesis 側に帰属していたことです。
なお、「tovorafenib」の共同発明者のうち2人、Gnanasambandam Kumar Kumaravel と Alexey Lugovsky は、その後Atlas Venture のネットワークで起業家として活動することになります。
バイオ業界の人材ネットワークの近さを感じさせるエピソードです。その後、2011年に Takeda が Sunesis からこの分子を導入しました。Takeda のもとで「tovorafenib」は主にメラノーマを対象として開発が進められましたが、次の6〜7年間で期待されたような臨床的成果を出すことはできませんでした。
埋もれかけた資産のひとつ
つまり、この時点ではまだ「将来の承認薬」というより、埋もれかけた資産のひとつに過ぎなかったのです。
流れが変わったのは2019年です。小児腫瘍を専門とする医師・研究者 Samuel Blackman 医師が、Julie Papanek とともに Day One Biopharmaceuticals を共同創業しました。
Day One は最初から「小児がんに本当に必要な新薬を届ける」ことを目的に掲げており、大人のがん領域で十分に活かされなかった薬を、小児がんの文脈で改めて開発するという明確な戦略を持っていました。
その戦略の中心に据えられたのが「tovorafenib」です。Day One は2020年に Takeda からこの薬を導入し、開発の方向性を 小児がんへと大きく転換しました。
このタイミングで、Atlas Ventureの Mike Gladstone が Canaan Partners を中心とする6000万ドルのシリーズAへの参加を後押しし、Access Industries も加わりました。
Day One はその後、2021年にIPOを実現し、上場企業として次の成長段階へ進みます。一方で、元の権利元である Sunesis も完全にこの物語から消えたわけではありませんでした。
Sunesis は「tovorafenib」に関する一定の経済的権利を保持しており、その後2021年にリバースマージャーを経て Viracta となります。そして同年、「tovorafenib」に関するマイルストンやロイヤルティの権利を XOMA に売却しました。
こうして、薬そのものだけでなく、その周辺の経済価値もさまざまな企業の間を移っていったのです。そして Day One のもとで実施された FIREFLY-1 試験が、小児低悪性度神経膠腫(pLGG)で成功を収めます。
これによって「tovorafenib」、すなわち「OJEMDA」は加速承認を獲得しました。さらに現在は、確認試験である Phase 3 FIREFLY-2 も進行中です。
この歩みが示しているのは、ひとつの新薬が世に出るまでには、単独の企業の力だけでは足りないということです。
ある企業が分子を見つけ、別の企業が開発を引き継ぎ、さらに別の起業家チームが新しい適応症を見いだし、投資家が資金を供給し、研究者と医師が臨床で価値を証明する。
そうした積み重ねの先に、ようやく患者に届く薬が生まれます。「OJEMDA」の承認は、Day One の成功であると同時に、Sunesis、Biogen、Takeda、そしてそれぞれの時点で関わった研究者や投資家たち全員が少しずつつないできたバトンの成果でもあります。
創薬は時間がかかり、失敗も多く、途中で埋もれてしまう候補も少なくありません。それでも、正しいタイミングで正しいチームに託されれば、かつて見過ごされた分子が患者の希望へと変わることがある。
Day One と「OJEMDA」の物語は、そのことを改めて教えてくれます。

