今回はバンドファンドの RA Capital、ファンド内のインキュベーション RAVen が参加・主導するバイオ企業について詳しくご紹介します。
まずここ数年の RA Capital のインキュベーション RAVen の実績は目覚しいものがあります。RAVen が手掛けたどちらも未上場ですが、Aliada、Mariana はどちらも大手製薬会社に買収されています。
それに続くように、RAVen や RA Capital が大きく参加する上場バイオ企業 Cidara や PepGen からも素晴らしい成果が報告されています。この連続した近年の素晴らしい軌道を可能にするのは、どのようなポイントがあるのか?読み解いてみたいと思います。
似ている “核” はあるが、プロセスが違う
CDTX(Cidara)と PEPG(PepGen)
どちらもRA Capitalが“深く関与して企業価値の再定義を狙っている”点ではAliadaやMarianaと共通しますが、**手段と設計思想(創業=RAVen主導の会社形成 × 上場後の資本・ガバナンス主導)**が大きく異なります。
VOR・CLYM・ARTV
同じく上場企業だが、技術の複雑性(製造/供給/実装)やデータの出方が株価反映を遅らせやすい案件。RAVen 由来の色(CLYM)や13D+取締役派遣(VOR/ARTV)で “入り込み” は十分だが、評価を引き上げる決定打がまだ前方にある、という違いです。
共通点(Aliada/Mariana と通底する“RAの型”)
・強いテーマ×必要資本の一括供給で“次の読出し”までの実行力を確保
CDTX:CD388の世界権利をJ&Jから再取得+$240M PIPE(RA主導)でP2b→P3へ直行設計。
PEPG:DM1で平均53.7%のスプライシング是正を示し、公募$100M→RAが13Dで29.2%に増強。データ起点の資本注入で加速。
・買い手(将来の提携/買収主体)が魅力に感じる“箱”づくり
Aliada/Marianaは前臨床~早期臨床で“完成体”に仕立てて大型M&Aへ(AbbVie/Novartis)。
上場3銘柄もボード関与+資本計画で“買収適合性”を磨いている(VOR13D、CLYM共同創業系の深関与、ARTVは13D+役員派遣)。
・Aliada/Mariana は “RAVenの形成投資→前臨床/Ph1でM&A”。
・CDTX は$240M PIPEをRA主導**で実行し、権利再取得→P2b/3へ直行できる体制に刷新。
・PEPG は$100M公募に続き、RA が13D(29.2%)まで積み増し=継続介入の意思表示。
重要な違い (なぜ VOR、CLYM、ARTV は出遅れに見えるのか)
「技術・実装のハードル差」
・VOR(trem-cel/eHSC×CD33)
同種移植+遺伝子編集+CD33標的薬とのシールド併用という多段実装。有望な初期シグナル(Mylotarg併用で造血保護など)は出ているが、臨床効果の“面”を見せるには段階的読出しが必要で、再現性と規模が株価反映の鍵。
・CLYM(旧Eliem→Climb)
RA の Andrew Levin が共同創業。免疫疾患領域でパイプラインを再構築(budoprutug/CLYM116 など)中で、再編→初期PoCまでの時間差が株価に出やすい。
・ARTV(同種NK/Autoimmune & Oncology)
製造供給と一貫品質がバリュエーションの“最後の壁”になりやすい分野。IPO$167Mで走り出したが、自己免疫の臨床質×製造信頼性が評価のトリガー。
「データの“わかりやすさ”差」
・PEPG:単回投与で平均53.7%スプライシング是正という直感的に強い指標→投資家に伝わりやすく素早く再評価。
・CDTX:資産の再取得+大型資金+P2b/P3設計という“企業の動き”自体がシナリオ変更を示し、短期に再評価が入りやすい案件。
・VOR/CLYM/ARTVは、段階的・複合的な証拠(連続投与や併用、バイオマーカー→転帰)が必要で、評価は“面”が出てからになりやすい。
「ガバナンス介入の形」
・PEPG:13Dで約29%と“準アクティビスト”色(資本政策の主導度が高い)。
・CDTX:$240M PIPE主導+取締役派遣で経営/臨床を再設計。
・VOR:13D/Aで約29%。ガバナンス関与は深いが、技術が**“複合曲線”**ゆえ株価リードが生まれにくい。
・CLYM:共同創業+取締役というRAVen血統×上場会社のハイブリッド。再編ストーリーを“データ”で裏づける局面。
・ARTV:13D提出+ボード関与。自己免疫データ×製造が決まれば“CDTX型”の再評価導線に近い。
重要な違い(RAVen型 vs 上場企業テコ入れ型)
観点 | Aliada / Mariana | CDTX(Cidara) | PEPG(PepGen) | CLYM(Climb Bio) | ARTV(Artiva Biotherapeutics) | VOR(Vor Biopharma) |
---|---|---|---|---|---|---|
立ち位置 | RAVen主導の会社形成(非上場)→早期M&A | 既上場企業の権利再取得+大型資金導入で“再起動” | 既上場企業のデータ起点の増資+準アクティビスト(13D) | RAVen由来の形成+上場再編のハイブリッド(Eliem→Climbに転生、RA共同創業/主導) | 上場後テコ入れ型(2019年GC Cellスピンアウト→2024年IPO、RAは上場後に強関与) | 上場後テコ入れ型(準アクティビスト:13D/A大株主) |
RAの関与手段 | 企画・人材・プログラム設計から作り、買い手ニーズへ直結 | $240M私募を主導+RAのMD(Laura Tadvalkar)を取締役に派遣 | 大型オーナー(29.2%)として資本計画と臨床カタリストを後押し | 共同創業&取締役(Andrew Levin)+13D/大株主(~46%)で事業再設計を主導 | 13D提出+取締役派遣(Laura Stoppel)のガバナンス関与 | 大株主(~29% 13D/A)としてガバナンス/資本政策に深く関与 |
技術/適応 | BBB通過AD抗体(3pE-Aβ)/α線RLT×SCLC | DFC(Drug-Fc Conjugate)×インフル予防(非ワクチン、長期予防) | EDOデリバリー×DM1(スプライシング是正) | 免疫介在性疾患(例:budoprutug等)を軸に再編 | 同種NK細胞(AlloNK™/CAR-NK)—自己免疫+腫瘍 | 遺伝子編集eHSC(CD33ノックアウト “trem-cel”)× AML/MDS(CD33標的療法との併用プラットフォーム) |
エグジットの絵姿 | 明確(戦略買い想定 → 実行済) | 未了(買収適合の磨き込み段階) | 未了(データ積み上げ→提携/買収の射程) | 未了(創業級関与ゆえ“完成体売却”も視野。上場ゆえ自走/提携も選択肢) | 未了(自己免疫データの質×製造供給で評価再構築→提携/買収の余地) | 未了(プラットフォーム×戦略補完性を武器に提携/買収両睨み) |
直近イベント | Aliada→AbbVie買収 / Mariana→Novartis買収 | 権利再取得+P2b/3加速、P3開始アナウンス | DM1で平均53.7%是正+$100M公募+RA 13D | RAの大量保有(13D/A)継続+取締役体制強化(2024–25) | 2024年IPO($167M)→RAが13D提出&取締役派遣→自己免疫/腫瘍で開発前進(2025) | 13D/Aによる大口保有を継続(2025)/eHSC×CD33併用の臨床前進 |
ポイント
Cidara は2024/4/24にCD388の世界権利をJ&Jから再取得し、同日**$240M私募をRA主導**。その際、RAのLaura Tadvalkar氏を取締役に選任。以降、P2b→P3計画の加速を発表。
PepGen は2025/9/24にDM1で平均53.7%のスプライシング是正を公表し、その直後に**$100M公募($3.20)**。RAは13Dを更新し29.2%保有を示した(イベント日9/26付近)。
Aliada は2024/10/28にAbbVieが$1.4Bで買収発表→12月にクローズ。Marianaは2024/5/2にNovartisが$1B upfrontで買収合意。いずれも RAVen 生え抜き。
5銘柄の「いま」→「再評価トリガー」
CDTX:P2b/3の設計・時期・季節性、長期予防の採用要件(価格/アクセス/供給)。→ P2b成功やP3始動が次の段。
PEPG:スプライシング是正→機能転帰の接続、追加アップデート、資本余力。→ 用量反応や持続性、機能指標での相関。
VOR:trem-cel+CD33標的(Mylotarg/CAR-T/放射標識)での連続的有効性・安全性、用量最適化。→ より大きな症例数での一貫した保護/有効性。
CLYM:budoprutug(抗CD19)/CLYM116(IgAN)など再編パイプの初期PoCと適応拡張。→ IgAN等での明確なPoCや提携。
ARTV:自己免疫領域の臨床品質(深いB細胞/病勢指標の改善 等)+製造一貫性。→ 自己免疫での説得力あるデータ/提携。
RA Capital と RAVen の違い
・似ている点:
RA Capital は「①強いテーマ選定 → ②必要資本の一括供給 → ③臨床/CMC/供給の“詰まり”解消 → ④戦略買いの土台作り」という導線を、非上場でも上場でも一貫して適用。CDTXの権利再取得+巨額PIPE+ボード再編は、上場版“形成投資”に近い動きです。
Cidara Therapeutics
・違う点(リスク/バリュエーションの捉え方):
RAVen案件(Aliada/Mariana)は“完成体を早期に売る”設計。私募→買収で希薄化と時間価値のリスクが小さく、買収プレミアムが明快。
上場テコ入れ型(CDTX/PEPG)は、増資での希薄化や開発完了までの時間コストを伴う一方、成功すれば独立路線 or 戦略売却の選択肢が広い。CDTXはP2b/3の実行力+供給・製造(長期製剤/季節性)が重要、PEPGは生物学的代替指標(スプライシング是正)→臨床転帰への接続が焦点です。
いま押さえるべき “勝ち筋”
・Cidara Therapeutics (CDTX)
1. P2b/3 の設計と読出し時期(季節性の影響も含む)
2. 長期予防の差別化(非ワクチンでの有効持続/ハイリスク人群のベネフィット)
3. CMC・サプライと価格/アクセス(予防製品の採用要件)
RA主導の資本・ボード再編が効いており、フェーズ進展=再評価の余地。
・PepGen (PEPG)
1. DM1での機能的転帰との相関(スプライシング是正→臨床ベネフィット)
2. 追加アップデート/用量反応
3. 資本計画($100M公募後の現金 runway)と規制対話。
RA Capital の13D(29.2%)は “作り切る姿勢” を示唆。
評価スコア
上記5銘柄+Aliada/Mariana を「技術の複雑度」「製造/供給リスク」「データの伝わりやすさ」でスコア化した比較表です。
企業 / 案件 | 技術の複雑度 (1=低 / 5=高) |
製造/供給リスク (1=低 / 5=高) |
データの伝わりやすさ (1=低 / 5=高) |
メモ(評価の勘所) |
---|---|---|---|---|
Aliada(→AbbVie買収) | 3 | 2 | 3 | BBB通過×3pE-Aβ抗体。mAb系で製造は比較的読みやすいが、早期段階ゆえ臨床での示し方が鍵。 |
Mariana(→Novartis買収) | 5 | 5 | 3 | α線RLT(Ac-225)×ペプチド。アイソトープ供給・CMC要件が高難度。SCLC適応は未充足大。 |
CDTX(Cidara) | 3 | 3 | 4 | DFC×インフル長期予防。非ワクチンのポジショニングが明快。P2b/3の設計と季節性が肝。 |
PEPG(PepGen) | 4 | 3 | 5 | EDOデリバリー×DM1。%スプライシング是正が直感的で市場に伝わりやすい。機能転帰への接続が次段。 |
VOR(Vor Biopharma) | 5 | 4 | 2 | eHSC(CD33ノックアウト)+CD33療法の多段実装。造血保護→疾患転帰まで“面”を積む必要。 |
CLYM(Climb Bio) | 3 | 2 | 3 | RAVen血統×上場再編。免疫疾患(CD19/IgAN等)。初期PoCの質と適応拡張スピードが評価軸。 |
ARTV(Artiva Biotherapeutics) | 4 | 4 | 3 | 同種NK(自己免疫/腫瘍)。製造一貫性と反復投与プロトコルの実装がリスク/差別化の両面。 |
・技術の複雑度:1=低(既存技術寄り) / 5=高(多段実装・先端性が高い)
・製造/供給リスク:1=低(量産/安定供給しやすい) / 5=高(同位体・細胞製造など)
・データの伝わりやすさ:1=低(複合指標で投資家に伝わりにくい) / 5=高(単一で直感的指標)
※主観ベースの投資家向け実務スコアです。用途:難易度とリレーティングの“詰まり”の見える化。
まとめ(投資家メモ)
Aliada/Mariana:RAVenが非上場から“完成体”を作って早期に売るモデル。評価の立ち上がりが早い。
CDTX/PEPG:上場後でも、資本×ボード×データで短期の再評価を引き起こしやすい案件(実際に株価が素直に反応)。
VOR/CLYM/ARTV:入り込みは深いが、技術/実装のハードルと“面で効くデータ”の必要性から株価の立ち上がりが遅れやすい。反面、決め手の読出しが出るとギャップ修正は速いタイプ。