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ダニエル・ヤーギン氏、中東の緊張が高まれば、世界は新たな石油ショック時代に入る可能性がある

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ダニエル・ヤーギン氏、中東の緊張が高まれば、世界は新たな石油ショック時代に入る可能性がある。

クアラルンプールで開催された「エネルギー・アジア2025サミット」にて、S&Pグローバルの副会長であるダニエル・ヤーギン氏がイスラエルとのイラクの紛争について言及しました。

ダニエル・ヤーギン氏は、イスラエルとの紛争が続く中、イランがホルムズ海峡の封鎖を脅かすことが原油価格に与える影響について議論しました。ヤーギン氏はまた、中東の緊張が高まり続ける場合、世界が新たな石油ショック時代に入る可能性についても言及しました。

ダニエル・ヤーギン氏について

ダニエル・ヤーギン氏はS&Pグローバルの副会長であり、ピューリッツァー賞を受賞した作家でもあります。彼は世界有数のエネルギー史家であり地政学的アナリストの一人です。彼の著作『The Prize』や『The New Map』は、石油・権力・政策の交差点について世代を超えて理解を深める上で大きな影響を与えてきました。

今回は、エネルギー需要の持続的な増加、地政学リスクの上昇、そして不均等なエネルギー転換という「パーフェクトストーム」の中で、クアラルンプールで開催された Energy Asia にて登場していただきます。

ホルムズ海峡は、グローバル供給のアキレス腱

司会者 : ヤーギン博士、本日はご出演いただきありがとうございます。まず、最近の「石油ショック」について伺います。

イランがホルムズ海峡封鎖の可能性を示唆した直後のタイミングですが、あなたはこの地域を「グローバル供給のアキレス腱」と述べています。我々はどれほどのリスクにさらされているのでしょうか?

ヤーギン氏 : ホルムズ海峡は何十年も前からリスクとして認識されてきました。実際に封鎖されたことはありませんが、今の戦争の性質は前例がありません。

従来型の戦争と、ドローンなどの新たな戦術が混在しています。したがって、どこに向かうのか、交渉の着地点がどこにあるのかすら不透明な状況です。

現在、石油供給自体が実際に混乱しているわけではありません。しかし、供給が止まるかもしれないという「恐れ」が、原油価格に反映されています。

中東情勢の緊張がさらに高まった場合、石油市場はどのように反応する?

司会者 : 中東情勢の緊張がさらに高まった場合、石油市場はどのように反応すると思いますか?新たな「石油ショック時代」に突入する可能性はありますか?

それは、あくまで「もしも」の話になります。中東は、石油だけでなく液化天然ガス(LNG)の供給にも極めて重要な地域です。ホルムズ海峡は再び議論の中心となっています。イランはこれまでもそうしてきたように、封鎖をちらつかせています。

ただし、アメリカ海軍をはじめとする関係各国は、ホルムズ海峡が一時的に封鎖された場合の開放手順を長年練習してきています。つまり、永続的な封鎖が起きるとは限らず、それに備えた対策もあるということです。

石油需要のピークは当面見えない

司会者 : OPECの事務局長は、「石油需要のピークは当面見えない」と述べています。これはS&Pグローバルの長期予測とも一致するのでしょうか?

ヤーギン氏 : 「ピーク」という言葉は長年議論されてきました。ただし、ピークが来るとしても、それは急激な減少を意味するのではなく、横ばいが続くという意味です。

私たちの見解では、おそらく2030年代初頭に石油需要はピークに達し、横ばいになると考えています。

これは、EV(電気自動車)の普及や、世界の石油需要の半分を担ってきた中国の需要の変化によるものです。今、中国ではEVがどんどん製造ラインから出てきています。

危機は進行中

司会者 : 『The New Map』では「エネルギー秩序の断片化」について言及されていました。現在の危機を受けて、その断片化は固定化されたとお考えですか?

はい、それは進行中です。2022年2月24日以前までは、世界はひとつの石油市場でした。たとえばアメリカは1日60万バレルのロシア産石油製品を輸入していました。

しかし今は、世界の石油市場が分断され、ガス市場も同様です。ロシアは主要なガス市場を失いました。これは、グローバル化が終焉し、「ポスト・グローバリゼーション」の時代に入っていることの一端でもあります。

東南アジアのエネルギー

司会者 : ここクアラルンプール、東南アジアではエネルギー需要の増加と脱炭素圧力のはざまにあります。

この地域の動向をどうご覧になりますか?エネルギー転換は政治的な勢いを失いつつあるのでしょうか?それとも、より現実的・実利的なものに変化しているだけなのでしょうか?

ヤーギン氏 : 私たちが最近書いた記事のタイトルの通り、「困難なエネルギー転換(a troubled energy transition)」です。2050年に向けてネットゼロに向かうのは簡単だという考えが広まっていましたが、実際にはそれははるかに困難で複雑なプロセスです。

そして、単一の「エネルギー転換」があるわけではありません。地域によって、ペースも技術の組み合わせも優先順位も異なります。ここ東南アジアでは、経済成長と貧困削減が最重要課題であり、北西ヨーロッパの視点とは大きく異なります。

この会議でも繰り返し聞いた意見は、「他の地域が、自分たちの価値観に基づいてエネルギー政策を押し付けるべきではない」というものでした。

エネルギー転換の目標設定

司会者 : ベトナムやインドネシアなどでは再生可能エネルギーへの補助金が後退しています。これは、目標設定と実行の間にギャップがあるというサインなのでしょうか?

ヤーギン氏 : 今、ヨーロッパが直面しているのは、目標設定において技術、市場、そして経済の現実を反映させなければならないという課題です。

確かに目標は存在していますし、たとえばシンガポールのような先進国であれば目標を達成できるかもしれません。しかし、経済発展の段階が異なる他の国々では、そのペースも異なることになるでしょう。

東南アジア諸国にとっての問題は、「石炭にどれだけ依存し続けるのか」という点です。石炭は最も安価なエネルギー源のひとつですが、同時に最も多くの温室効果ガスを排出するものでもあります。

そして現在ここで聞かれているのは、「今後天然ガスやLNG(液化天然ガス)が果たす役割が拡大していくのではないか」ということです。

私たちの見積もりでは、LNGの国際貿易量は2040年までに約60%増加すると見ています。そしてその多くの需要は、ここアジア地域に集中すると予想しています。

LNGは、アジアのエネルギー転換を形作る燃料

司会者 : あなたはLNGを「アジアのエネルギー転換を形作る燃料」と表現されていますが、価格や安全保障上のリスクを再評価すべき段階に来ているのでしょうか?

ヤーギン氏 : 価格は常に重要です。エネルギー安全保障に対する基本的な答えは、「供給元の多様化」です。特定のエネルギー源や特定の国に依存しすぎないことが鍵です。

ドイツがロシアのガスと再生可能エネルギーに過度に依存していたことで得た教訓がまさにそれです。安全を確保したいのであれば、多様なエネルギーミックスが必要です。

LNG契約は現在の不安定な状況下で再び重要

司会者 : LNG契約は現在の不安定な状況下で再び重要になってきているのでしょうか?

ヤーギン氏 : はい。3月に開催された我々のCERA会議でも、そしてこの会議でも繰り返し聞かれているのは、「LNG市場は今後ますます拡大し、エネルギーミックスの中で極めて重要な役割を果たすようになる」ということです。

中国のエネルギー地政学

司会者 : 中国がクリーンエネルギー供給網を支配することで、エネルギー地政学にどのような影響を与えているとお考えですか?特に太陽光パネルやレアアースの面で。

ヤーギン氏 : まさにこれが、エネルギー転換と地政学が衝突する瞬間です。たとえば、アメリカが中国製ソーラーパネルに関税を課すなど、トランプ政権の対応にも現れています。

議論の中で見落とされがちなのは、「エネルギー転換に必要な鉱物資源」についてです。現在、私たちは「電化の金属」である銅の需要に注目しています。電気自動車は従来の車の2.5〜3倍の銅を必要とします。

また、AIの進展や防衛支出の増加などによって、鉱物資源の供給には大きな制約が生じています。中国は鉱物の加工において非常に優位な立場にあり、政治的な意味合いも大きくなっています。

現在、中国は電気自動車の分野で確実にリーダーシップを握っています。

現在の状況 (イスラエル vs イラン) はこれまでで最も複雑な部類に入ると思われますか?

司会者 : 最後の質問です。あなたは数十年にわたりエネルギーの混乱を記録してきましたが、現在の状況はこれまでで最も複雑な部類に入ると思われますか?

ヤーギン氏 : はい、その通りです。世界市場が崩壊し、ロシアという世界の三大産油国のひとつは、もはやヨーロッパに石油を輸出できなくなりました。市場の分断が起きており、今まさに我々はイスラエルとイランの間で戦争の危機に直面しています。

国際原子力機関(IAEA)は最近、イランが核合意に違反しており、6〜9個の核兵器を数週間〜数ヶ月以内に保有する可能性があると警告しています。

しかし、戦争が始まれば、その終わり方を予測することは極めて困難です。現在は局所的な危機にとどまっていますが、そのリスクは依然として存在しており、それがまさに原油価格に反映されています。

今後3〜6ヶ月間の原油価格の見通し

司会者 : 最後に、今後3〜6ヶ月間の原油価格の見通しについて伺います。

ヤーギン氏 : この戦争が始まる前であれば、我々は「原油価格はおおむね55〜70ドルのレンジにあるだろう」と予測していました。しかし今回の出来事により、その前提は崩れ、今ではシナリオが大きくばらついています。

今後の価格は、この戦争の展開次第ということになります。昨年と比べて、価格の前提は確実に下方にシフトしていると言えます。